本連載の第126回では「クリティカル・シンキングを実践する4つの方法」と題し、クリティカル・シンキング(批判的思考)を行う際の具体的な方法をお伝えしました。今回はさらに踏み込んで、クリティカル・シンキングの力を鍛えるのに適した環境についてお話します。

昨今のビジネスパーソンに必須スキルのクリティカル・シンキング。おさらいすると、クリティカル・シンキングとは「物事を批判的に捉える考え方」、「物事の真偽や情報を鵜呑みにせず、よく吟味する考え方」などと捉えることができます。

巷には本や研修講座などがあるので座学でも学ぶことができますが、やはり日々の仕事における実践での習得には及びません。それでは、仕事をしながらクリティカル・シンキングを身に着けるのに適した環境とはいったいどのようなものでしょうか。

1. 自分の視野を広げてくれる人と交流できる環境

クリティカル・シンキングのスキルを上げるには常識や自分自身の考えそのものについて批判的に捉える癖をつけなければなりませんが、そうは言ってもなかなか自分一人では続けるのは容易ではありません。

そこでお勧めなのが、自分の視野を広げてくれそうな人と密に交流できる環境に身を置くことです。より具体的には「よく自分と意見がぶつかる人」、「自分より優秀な人」、「突拍子もないことを言う人」です。以下、順番に説明します。

最初の「よく自分と意見がぶつかる人」は、自分と考え方やものの見方が全く異なる人です。こういう人と仕事をすると、何かにつけて「あなたの考えは間違っているのではないか」と突っ込んできます。それに対して感情的に反発するのではなく、「確かにそのとおりかもしれない」と一旦受け止めて思考するようにします。それを続けているうちに、自分の考えに対して批判的に吟味できるようになるでしょう。

次の「自分より優秀な人」について。職場では通常は上司や先輩などが当たりますが、ひょっとすると部下や後輩かもしれません。いずれにせよ職位や自分との関係性に縛られず、自分が優秀と考える人と密に交流することをお勧めします。

優秀な人は視座が高いことが多く、重要なポイントを押さえた意見をしてくれたり、長期的な効果や影響を考慮した意見をくれたりすることが多々あります。そうした考えに日々触れていると、知らず知らずのうちに自身の考えに対しても「視座が低すぎないか?」「視野が狭くなっていないか?」と振り返りながら考えることができるようになるでしょう。

そして最後は「突拍子もないことを言う人」です。こういう人と話をすると、意見がぶつかるというよりは「あっけにとられる」ことの方が多いかもしれません。こちらが思いもよらないような考え方をするので驚かされることばかりでしょうが、それは裏を返せば「全く新しいものの見方、考え方を教えてくれる」と捉えることもできます。

そのため、交流を重ねるうちに「元々の自分の考え方」に加えて「これまでは到底思いつかなかった考え方」が身について、一つの物事に対して多面的な見方ができるようになります。これは正にクリティカル・シンキングのスキルを鍛えることに他なりません。

2. 頻繁に発生する変化への適応が求められる環境

クリティカル・シンキングを身に着ける上では、日々同じことを淡々とこなす環境より、何かと変化が発生する環境の方が向いています。なぜなら、変化が多い環境では常に「これまで通りの考え方や仕事の仕方が通用するかどうか」を批判的に捉えて、迅速に修正していく必要に迫られるからです。

なお、環境が変わると言うとハードルが高そうに聞こえるかもしれませんが、決してそんなことはありません。一緒に働く人、顧客、商品、販促、流通、業務、ツールなど、業務に関わる要素の内どれか一つでも変化がある環境であれば十分です。そして、一つ一つの変化の振れ幅が小さかったとしても、やはり考え方や行動をその都度、修正しなければならなくなるので常に批判的に考える訓練になります。

それでも「変化に富む環境ならいいけれど、自分のところは全く変化のない職場だから当てはまらない」という方もいるでしょう。しかし、それで諦めてしまってはもったいないことです。変化がないなら起こしましょう。その手っ取り早い方法はプロジェクトや取り組みを自分で立ち上げることです。といっても、顧客満足度向上プロジェクトや働き方改革プロジェクトといったハードルの高いものでなくてもよく、オフィスの整理整頓運動や社内パソコンスキル講座の開催といった小さな取り組みでも十分です。

たとえ小さな取り組みであっても、職場に変化を起こすことには違いありません。そうすると、例えばオフィスの整理整頓運動であれば「そもそもそれによってどんなオフィスを目指すのか」とか「整理整頓運動の完了時には働き方はどう変わっているのだろうか」、「整理整頓運動を効率的に行うためのアプローチはどうあるべきか」といったことを考えざるを得なくなります。こうした正解のない問いに対して真剣に考えることによって、クリティカル・シンキングの力が磨かれます。

以上、日々の仕事における実践の中でクリティカル・シンキングを鍛えるための環境についてお伝えしました。楽器の演奏やスポーツなどと同じで、理屈をどれだけ知っていても使わなければ決して上達しません。ぜひ環境を整えて実践ベースでクリティカル・シンキングをものにしましょう。