『手帳事典2018』は、玄光社から発売されている手帳のムック本です。1つの手帳にこだわらず、いろいろな手帳のユーザー事例を収集・解説するとともに、手帳の選び方や使い方についても基本から解説しています。

  • 『手帳事典2018』(荒川翔太/玄光社)

今回は、去る1月30日に行われた同書籍の刊行記念イベントをレポートします。

著者らがパネラーとして登壇

登壇したのは同書の著者で、文具メーカー「ロンド工房」のクリエイティブディレクターでもある荒川翔太氏。手帳ユーザーの団体である関西手帳研究会、通称「てちょけん」の代表でもあります。

  • 『手帳事典2018』著者 荒川翔太氏

相対するのは、高橋拓也氏。同氏はIT企業勤務の傍ら、Webサイト「毎日、文房具。」の編集長も務めています。また関西の文具ユーザーグループ「どや文」の立ち上げメンバーの1人でもあります。

  • 「毎日、文房具。」編集長 高橋拓也氏

お二人は偶然にも大学の同窓でもあり、同年齢というエピソードからイベントが始まりました。

次に参加者が1人あたり30秒程度で手帳歴や簡単な自己紹介をしました。これは荒川氏が関西で主催している手帳ユーザーの集まり「てちょけん」でいつもとられている方法だそうです。

  • てちょけん、関西手帳オフ会の案内も

『手帳事典』の成立や内容を紹介

メインのパネラーによるトークでは、まず手帳事典の成立自体に「てちょけん」の存在が大きく関わっていたことが明らかにされました。

例えば、複数の質問にYES、NOでこたえていくと最適な手帳が見つかる、手帳の選び方のページ。このチャートを制作したのは実はてちょけんだったとか。それぞれの質問をふせんに書き出し、チャートを作っていったそうです。

  • イベントでは、書籍の紙面も投影して説明。これは手帳の選び方チャート

  • 実際の記入例が出ているのも同書の特徴

手帳の機能として、「計画」と「予定」を分けたことなど、内容面でのこだわりにも話が及びました。「よくある手帳の本ではこれが一緒になっていますが、この本では分けました」(荒川氏)というエピソードから始まり、P(プラン)、S(スケジュール)、L(ログ)、T(タスク)のそれぞれという構成になったそうです。

"P(プラン)"に関して、荒川氏はハンガリーのIT企業が提供している「YearCompass(イヤーコンパス)」を紹介。YearCompassは、個人の年間計画作成にうってつけの入力フォームだそうです。企業が事業計画を立てるように、個人も毎年の計画を立てるべきだという自説を展開しました。

  • YearCompassを紹介しているところ

てちょけんメンバーはこのPDFファイルの日本語化を実行。同サイトで日本語を選ぶとダウンロードできる日本語版は彼らの手によるものです。

パネラーが実際に使っている手帳を披露

続いて、パネラーの手帳が披露されました。

荒川氏は前述のYearConpassをA5サイズにプリントし、ツイストリングノートに綴じて常に参照しているというエピソードを披露されました。また、独自の縦型ガントチャート(A5サイズ)を制作。こちらはてちょけんのWebページからダウンロードできるようになっているそうです。

  • ご自身の縦型ガントチャートを説明する荒川氏

高橋氏は、2018年からトラベラーズノートを再び使うようになり、小型のタスク帳や仕事用のノートを併用している旨を実物を交えて紹介されました。

手書きとディスプレイの違いとは

更に「そもそも何で手帳なのか」という話も出ました。

荒川氏によれば、紙の上の情報を見る=反射光に接するとき、人間の脳は分析的になり、パソコンやスマートフォンから発せられた光=透過光のディスプレイ上の情報を見るときには、情緒的になるという研究結果があるそうです。それを踏まえると、手帳に書かれたものを見るときには、人は分析的になっているというわけです。

手帳の実売数について

10分ほどの休憩を挟んでの第2部では、日本の手帳状況の話になりました。矢野経済研究所の調査によれば、2005年には9,000万部、2015年には1億1,000万部で、微増だそうです。また、出荷数に対し販売数は6~7割と言われており、3~4割が売れ残って廃棄されるとのこと。

そして実売総数は横ばいの反面、種類は増えているそうです。つまり、1アイテム当たりの販売数は減っていることになります。そもそも日本の手帳の種類はサイズやタイプも千差万別ですが、そこにユーザーの実に細かいこだわりの声がくるといいます。

手帳は販売できるシーズンが限られているものでもあります。そしてどんな手帳も完売することはほぼなく、1~5割程度のロスを見込んで作られているとのこと。これに関しては、荒川氏からは「流通とメーカーでリスクを公平に分け合うべきではないか」との提案がなされました。制作冊数を絞り、販売店の取り分を増やすことで、1アイテムあたりを完売に近づけることでロスはなくなるという考え方です。

これに関して、ゲストの1人で「ネットde手帳工房」(キヤノンITソリューションズ)の事業責任者でもある小野忠氏が、同サービスは、1冊から自分仕様の手帳を作ることができ、ほぼムダがない旨と発言。そもそも日本で作られている手帳にロスが多い現状に疑問を感じてこのサービスを始めたというエピソードも披露されました。

  • 「ネットde手帳工房」事業責任者の小野忠氏

このほかにも、手帳と元号の関係など、話題の方向性はいろいろでしたが、イベントは終始和やかな雰囲気で進行しました。恐らくこういう手帳のイベントは今後もあると思います。次はどんなテーマで誰が登壇するのかを楽しみにしたいと思います。

舘神龍彦

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手帳評論家、ふせん大王。最新刊は『iPhone手帳術』(エイ出版社)。主な著書に『ふせんの技100』(エイ出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)など。また「マツコの知らない世界」(TBS)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。手帳の種類を問わずにユーザーが集まって活用方法をシェアするリアルイベント「手帳オフ」を2007年から開催するなど、トレンドセッターでもある。手帳活用の基本をまとめた歌「手帳音頭」を作詞作曲、YouTubeで発表するなど意外と幅広い活動をしている。

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