このコラムでも過去にお伝えしたように、今システム手帳が再び注目を集めています。だから、システム手帳についてもう一度きちんと考えてみたい。それが今回のテーマです。 

結論から書くと、「システム手帳は紆余曲折を経て自由な文具になったのではないか」。これが私の仮説です。日本での登場当初に担っていた役割と、現在とでは、システム手帳の意味は大きく変わりました。

各種の情報ツールが登場し綴じ手帳のバリエーションも増えた結果、一回りして純粋に文具といえる存在になったのではないかと思います。順に説明していきましょう。

システム手帳を取り巻く状況の変化

1986年、システム手帳の元祖たるファイロファックス(fILOFAX/イギリス)は銀座・伊東屋のガラスケースに陳列されました。

  • 映画「ファイロファックス トラブル手帳で大逆転」(1990年/アメリカ)。ジェームズ・ベルーシ主演のコメディ映画で、写真は筆者が中古で手に入れたVHSテープ版(レンタル落ち)。システム手帳はアメリカでも映画のテーマになるほどポピュラーな存在であることを証言する貴重な映画。ファイロファックスが重要な小道具として活躍する。もっともブーム当時は、例えばハリウッドでは「スティーブン・スピルバーグも使っている」というエピソードで知られていた

その翌年には大ブームが起こり、隣の百貨店ではなく伊東屋のバックオーダーリストに名を連ねて買うのが"正しい買い方"という風潮すらあったそうです。この時期に日本のメーカー各社は、国産のシステム手帳を開発、発売しています。そして2017年。この30年間に手帳を取り巻く状況は大きく変わりました。

  • システム手帳専門誌『リフィル通信』創刊号。1987年7月25日発行(アスキー)。ブーム当時のシステム手帳専門雑誌。季刊。いわば"ブームの古文書"。表紙のMacintoshが、この時点でのシステム手帳ユーザーの属性を物語っている

まず、パソコンは、MicrosoftのOS「Windows 95」の出現をきっかけに低価格化。パーソナルツールとしての性格が強くなり一般家庭にも情報ツールとして普及していきます。これに前後して、1993年にはAppleの「Apple Newton」を代表とするPDA (Personal Digital Assistant/携帯情報端末)が登場。更にNewtonのあとを追うように各社からスタイラスが付属した小型デジタルデバイスが登場しましたが、結局大きく普及することなく収束していきました。

この辺の詳しい事情は文字数の関係で詳述しませんが、要するに個人向けの情報整理ツールが登場し、低価格になって普及してきたのです。その流れの延長線上に携帯電話が登場しました。筆者が『システム手帳新入門!』(岩波書店/2004年)という本を書いたのもこのころです。

  • 早すぎた再入門書(拙著)『システム手帳新入門!』(岩波書店/2004年)。『リフィル通信』についても触れて分析している

そして続編たる『システム手帳の極意 アイデアも段取りもきっちり整理』(技術評論社/2006年)で予言したように(iPhone登場前夜の時代です)、PDAは終わり、スマートフォンの時代が始まります。携帯電話よりも大きな画面と、アプリによる機能拡張。そしてPDA時代にはなかった常時接続やクラウドサービスの出現とスマートフォンアプリへの対応によって個人のデジタル情報ツールは、その可能性を大きく広げたのです。 

一方の手帳も大きく変わります。平成不況のために企業の経費削減の対象として、それまで従業員に配られていた特定の会社の社員専用の綴じ手帳は、急速に廃止・減少します。そのために、市販の手帳の市場が成長し、特に2000年代から個性的な手帳が多数登場することになり、その流れは今も続いています。

  • えい出版社のムック「システム手帳STYLE Vol.2」(2017年)。リフィル通信から30年、『~新入門!』から13年を経て刊行されたシステム手帳専門の刊行物

つまり、登場当初はシステム手帳が一手に担っていた、情報記録・管理ツール、予定管理ツールには、それ以外の魅力的な選択肢がいくつも出現・普及したのです。手帳として、システム手帳を積極的に選択する理由は、ブーム収束後以上に薄れているといえます。

システム手帳の優位性とは

それでもシステム手帳には他の手帳にはないアドバンテージがあります。思いつくままにあげるなら、バインダーの革の質感であり、ページの増減が自由なこと。また規格が同じならば複数メーカーのリフィルを自由に組み合わせられること。収納機能を含めた各種機能をバインダーの中に自由に内蔵できることでもあります。

  • 銀座伊東屋のイベント「システム手帳サロン」(2017年11月11日から24日まで開催)のチラシ。バイブルサイズのリフィルのスタイルをとっている。'80年代のブーム当時は、6穴のあいたバイブルサイズのチラシ類は珍しくなかった

筆者が、一番便利だと感じているのは、紙を自由に選べる点です。綴じ手帳の場合、デザインが気に入っていても、ふだん使っているペンとの相性が合わずに断念する場合もあるかもしれません。そしてシステム手帳では、複数のメーカーから自由にリフィルを選ぶことができます。また、メモ用リフィルは、白以外にブルーやピンク、オフホワイトなどの各色があり、自由に組み合わせ可能です。無地や横罫、方眼なども複数メーカーを見渡せば各色に各種があります。

  • 「システム手帳サロン」のJMAM(日本能率協会マネジメントセンター)のコーナー。バイブルサイズとA5サイズのバインダー、リフィルを展示・販売していた。ビジネス色が強いアイテムが中心

自作リフィルもメリットの一つです。自作リフィルは、パソコンなどでページの記入欄をデザインし、プリンターで印刷して利用する方法です。ただ、これも'80年代と今とでは、意味が変わってきています。かつては入力項目を自由にデザインできる情報機器は、手帳以外にはほとんどありませんでした。

  • JMAMのブランド「Bindex」のバインダーアシスト2。「Bindex by NOLTY」と銘打たれていることからもわかるように、NOLTYブランドが作ったシステム手帳のブランド「Bindex」であることが強調されている。バインダーの内側にも外側にも収納部があり機能的

  • JMAMの「限定リフィールセット2」各種リフィルがセットされた非常にお得なアイテム

そして現在では例えばEvernoteにテンプレートを用意しておけば、そこにいろいろな情報を記入して別名保存するだけでデータがクラウド上に蓄積されていきます。検索も簡単です。これは、'80年代後半には考えられなかったことでしょう。

  • 筆者のEvernote上のテンプレートの一つ。お店訪問データのテンプレートにデータを入力したところ。スマートフォンからの写真も挿入している

つまり、手帳のメイン機能であるスケジュール管理はデジタルツールや綴じ手帳を使う層が多く、また情報ツールとしてもクラウド上の各種サービスやそのためのアプリがいろいろある現状では、システム手帳は、手書きで情報を記入するツールであり、趣味性が高い文房具といえるのではないかと考えています。

その一つの表れが、バインダー式ノートして使われることが多いというデザインフィルの「PLOTTER」であり、2つのリングを持つことで、使い方の可能性を更に広げたレイメイ藤井の「デュアルリングバインダー」だと思うのです。

  • PLOTTER(デザインフィル)の冊子リフィル。単体で利用することもでき、記入したものを切り取ってバインダーにセットして利用することもできる

  • PLOTTERのリフィルのデザインは全体的にクラシカルでオーセンティック。実用性にふったBindexとは雰囲気が異なる

舘神龍彦

舘神龍彦

手帳評論家、ふせん大王。最新刊は『iPhone手帳術』(エイ出版社)。主な著書に『ふせんの技100』(エイ出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)など。また「マツコの知らない世界」(TBS)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。手帳の種類を問わずにユーザーが集まって活用方法をシェアするリアルイベント「手帳オフ」を2007年から開催するなど、トレンドセッターでもある。手帳活用の基本をまとめた歌「手帳音頭」を作詞作曲、YouTubeで発表するなど意外と幅広い活動をしている。

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