いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、吉祥寺の洋食店「カヤシマ」をご紹介。

  • 昭和から令和までを駆け抜けてきた老舗洋食店「カヤシマ」(吉祥寺)

地元に密着した、昔からあるお店

自転車で吉祥寺を走り回っていた中学生時代、すでに"風景"としてそこにあったのです。なにせ創業は1975年。

初めて入ったのは、20代前半のころだったかな? もちろん以後も現在に至るまで、"当然あるべきお店"として同じ場所で営業中。

吉祥寺駅北口から歩くとしたら10分弱。吉祥寺通り沿い、吉祥寺第一ホテルの向かいにある「カヤシマ」は、そんなお店です。

流行のたぐいに左右されることのない、本当の意味での吉祥寺のランドマークといえるかもしれません。

  • ユニークとしか表現しようのない外観

それにしても、やはりユニークな外観です。青白ストライプの日除けシェードから下がるのは、なぜか2つの風鈴。店頭の至るところには手書きメニューが並び、さらにはランチメニューのサンプルや観葉植物も。

  • ランチメニューがとにかく充実

客観的に見れば非常に混沌とした状態なのですが、しかし「これがカヤシマだよね」と思わせてしまう、いいかえれば違和感を意識させない不思議なムードが漂っているわけです。

でも、特異なオリジナリティもまた、長く地元の人々から支持されている理由なのかも。

  • 昼下がりの店内

事実、この日もお客さんでいっぱいでした。お邪魔したのは13時すぎだったのですが、入って右手、厨房の真向かいに並ぶテーブル席はすべて埋まった状態。

とはいえスペースの取り方には余裕があるので、密な感じはなく、しっかりとゆとりが保たれています。

左奥の席に座ったのですが、奥は左に折れる形状になっており、そこにもテーブル席がいくつか。つまりは外から見るよりもスペースは広く、50人くらいなら余裕で入れそうです。

  • いちばん奥の席はこんな感じ

椅子やテーブルも新しくはなく、壁から天井まで、至るところにポスターや手書きPOP、写真などが貼られているので雑然とした雰囲気ではあります。けれど、しっかりと手入れされ掃除も行き届いているからか、なんだか落ち着くんですよね。

  • ポスターから張り紙までがぎっしり

特筆すべきは、地元密着型の重瀬であること。「カヤシマは、地元、武蔵野の農家と野菜を応援しています」という張り紙からもわかるとおり、地元の食材を使用。そればかりか、BGMも吉祥寺のコミュニティFM「むさしのFM」。

地元の吉祥寺に対する愛情が、徹底的に反映されているということです。

さて、残念ながら「今日の日替わり弁当」はすでに売り切れていたため、オムライスを頼むことにしました。ランチタイムは「ALLドリンク付」ということで、ドリンクにはアイスティーを。

そういえば、ここのランチタイムって11:00~18:00なんですよ。もはやそれはランチではない気がするのですが、そんなところにもお客さん思いの姿勢が表れているわけです。

  • お酒のPOPもこんなにたくさん

なお、コロナ禍の現在は難しいでしょうが、基本的に通常の18時以降は日本酒や焼酎、泡盛などさまざまなお酒も飲めるようです。夜に利用したことはないのですが、ここで飲めたらきっと楽しいだろうな。そういう意味でも、一日も早いコロナの収束に期待したいところ。

  • 見るからに正統派のオムライス

という話はさておき、ほどなくオムライスが登場です。サラダに加え、味噌汁までついてくるのがうれしいですなあ。日本の洋食店は、やっぱりこうでなくっちゃね。

  • サラダに加えて味噌汁がうれしい

オムライスのたまごは、いまどきのトロリとしたタイプと、昔ながらのハードタイプとの中間といった印象。ほどよくバランスがとれており、玉ねぎやピーマン、ハムが入ったケチャップライスとの相性も抜群です。

  • たまごを崩してみると……

そう、食べていると、子どものころに食べたオムライスを思い出したりもするのです。けれど明らかに家庭の味以上のクオリティが保たれてもいるので、そんなバランス感覚は絶妙としか表現できません。

  • 食後のアイスティー

食後は、アイスティーをいただきながら、しばし読書の時間。店内にはたくさんの人がいるとはいえ、自分だけの空間をしっかり保てるので、無理なく本の世界に入り込むことができました。

やっぱりいい店だな。

この先もずっと、いままでどおりでいてほしい。そう、改めて感じたのでした。

●カヤシマ
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-10-9
営業時間:11:00~24:00
定休日:無休