いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、新宿のコーヒー専門店「但馬屋珈琲店」です。

  • 「但馬屋珈琲店」(新宿)


思い出横丁にたたずむ老舗コーヒー専門店へ

中央線や総武線が新宿駅に近づくと、窓の向こうに"和洋折衷レトロ"とでもいうような、いい感じの建物が見えるのです。しかも場所は、以前ご紹介した「かめや新宿店」のある思い出横丁の角。

  • 思い出横丁の一角に……

ある意味で、思い出横丁の雑多な雰囲気とはやや異なるたたずまい。ミスマッチな気もするのですが、だからこそ気になっていたわけです。というわけで、ある平日の午前中、ぶらっと訪れてみたのでした。

ちなみに平日午前中を選んだのは、当然のことながら混雑を避けるためです。なにしろ、人通りの多い場所ですからね。

でも、お昼前だとさすがに人もまばら。思い出横丁のお店もほとんどが開いておらず、なんとなく閑散としています。その静けさは、ちょっと意外なくらい。

いつもと違う空気が流れているなと思いながら線路のほうに進むと、お目当ての「但馬屋珈琲店」という名のお店がありました。

  • 老舗の風格が漂っています

壁の白、柱や壁のダークブラウンとモノトーンの色調で統一された雰囲気は、昭和の後期あたりに一世を風靡したコーヒー専門店のスタイル。1980年代中期あたりにはそういうお店が多く、僕もしばしば利用していたので、懐かしさを感じます。

ちなみに調べてみたら、但馬屋珈琲店は新宿に4店舗、吉祥寺に1店舗を展開しており、ここが本店のようです。とはいえ、いかにもチェーン店という感じではないので、ゆっくり落ち着けそう。

  • 「自家焙煎」がポイント

でもね、ドアを開けてみて驚いたんです。さっき書いたように平日午前なら空いているだろうと思っていたのに、大半の席が埋まっていたから。

右側にL字型のカウンターがあり、左側にテーブル席がいくつか。たまたま空いていたカウンターの中央あたりの席に座り、コーヒー専門的の顔というべき「ブレンドコーヒー」をオーダーしました。

目の前の壁には、コーヒーカップ&ソーサーがずらり。

  • どれを選んでくれるのかな?

そうそう、こういうタイプのお店って、お客さんの雰囲気を見て、似合いそうなカップを選んでくれるんですよね。さて、僕にはどんなカップを選んでくれるんだろう。

手帳を眺めている人、新聞を読んでいる人、物思いにふけっている人など、カウンターに並ぶ人は思い思いにその空間を楽しんでいます。一方、テーブル席に座る人たちは、仕事の話などをしている様子。

つまり、誰もがみんなよそ行きっぽくはなく、あくまで日常生活の延長線上で、お店の雰囲気とコーヒーを楽しんでいるのです。

  • テーブル席も、このあとすぐに埋まってしまうことに

さて、目の前の女性スタッフがコーヒーをたてはじめてくれました。豆の味わいを理想的に引き立ててくれるといわれているネルドリップ。高校時代からコーヒー専門店でバイトしていたので、その程度の知識なら僕にもあります。

バイトしていた店はペーパードリップだったのですが、ネルドリップの場合は豆のふくらみ方に動きがあるんですよね。おかしな表現かもしれませんが、豆の生命力を感じさせてくれるのです。

だから、見ているだけでも楽しい。

かくしてコーヒーができあがり、カップ&ソーサーが目の前に出されたとき、ちょっとうれしくなってしまいました。なぜって、深い朱色を基調としたそれは、僕の好みにぴったりだったから。

  • 好みにピッタリのカップ&ソーサー

コーヒーの味はといえば、これまた僕の好みどおり。自家焙煎しているという豆に酸味はなく、キリッと引き立った苦味が心地よい深煎りタイプです。

その味わいを楽しみながら本を読んでいたら、周囲に何人もの人がいるにもかかわらず、自分だけの空間がそこに生まれたかのように錯覚しました。つまり、落ち着けるということなのでしょうね。

  • 苦味が心地よい深煎りブレンド

しかも、新宿駅からすぐ近くの場所。こんなところに、これだけ落ち着けるスポットがあったとは。

これからも新宿に用事があったときには、ふらっと立ち寄ってみようと思います。

  • 心地よい時間でした


●但馬屋珈琲店
住所:東京都新宿区西新宿1-2-6
営業時間:10:00~23:00(L.O.22:30)
定休日:元日