いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、新宿の立ち食いそば店「新和そば」をご紹介。
駅構内で年中無休営業の立ち食いそば屋
なにしろアクセスが最高なのです。
その複雑さから「魔境」と呼ばれたりもする新宿駅ですが、今回ご紹介する「新和そば」は、JR中央西改札、京王線京王百貨店口改札を出てすぐという絶好のロケーション。
しかも年中無休で朝の7時から営業しているので、いつも店の前には行列ができています。
そういう意味でも、非常に使い勝手のよいお店だといえるでしょう。ちなみに1966年に「小田急エース(開業当初の名称は『新宿西口地下名店街』)」の誕生したときから営業を続けているというので、今年で57年目ということになります。 伺ったのは午前11時半を少し過ぎたあたりでしたが、予想どおりすでに何人かの列ができています。
でも立ち食いそばのお店ですから居座るような人もおらず、回転は悪くありません。なお、お客さんの大半は男性ですが、女性の姿も見えます。それだけ利用しやすいのでしょうね。
入り口の左右に1台ずつある券売機で食券を買ったら、列のいちばん後ろに並ぶスタイル。ひとり出ていくごとにひとり進むため、待っていても「もうすぐだな……」と期待感も高まります。だから、その時間がまたいいんですよ。
奇をてらった商品があるわけではなく、メニューはいたってオーソドックス。立ち食いそば屋にあるべきものしかありません。でも逆にいえば、ササっと食べてササっと移動したい、立ち食いそばユーザーの基本的なニーズをしっかり押さえているわけです。
券売機のいちばん上には4種のおすすめが並んでいますが、そのなかから大好物の「紅しょうが天そば」をチョイス。トッピングに玉子も加えることにしました。
細長い店内は、右側の厨房をL字型のカウンターが囲むスタイル。さらにいちばん奥の突き当たりには、入り口に背を向ける形で、ひとりだけが立てるスペースも。ラーメン店「一蘭」の一人用カウンターのように周囲を気にせず食べられるわけですから、そこはちょっとした憧れのスペースでもあります。
でも順番に開いた席へ落ち着くことになりますから、タイミングよく当たらない限り、なかなかそこにはたどり着けないんですねえ。いつの日か、あの席で食べてみたいものである。
順番が訪れたので厨房の真正面に立つと、食券を出したタイミングで「大盛りにしますか?」と声がかかります。そう、火曜日だったこの日は、週に一度の「大盛無料の日」。せっかくなので、大盛りにしてもらいましょう。
厨房内は、テキパキと調理をする男性と、サポート役の女性とのふたり体制。どちらも動きに無駄がなく、さすがは人が途切れることのない新宿駅構内のお店です。などと呑気に書くのは楽ですけれど、実際のところ客足は途切れないので、かなりの仕事量であるはず。
店内にBGMなどはなく、聞こえてくるのはお客さんがそばをすする音、食べ終えて帰る人の「ごちそうさま」という声、そして店員さんの「ありがとうございました」という返答のみ。でも、いかにも正当的な立ち食いそば店という感じで、それがよろしい。とってつけたようなBGMなんか不要でございます。
ところでこの店、注文したものが出てくるまでの時間がとても早いんですよ。事実、食券を渡してから丼が目の前に置かれるまで、15秒もかかりませんでした(脚色なし)。そんなところも、時間に追われるサラリーマンにとってはありがたいのではないでしょうか?
さて、目の前に紅しょうが天そばが現れました。
どーんと鎮座する大きな紅しょうが天の上には刻んだネギがのっており、その脇にワカメと、鮮やかなオレンジ色をした玉子。まさに、思い描いていたとおりの理想的なルックスです。
ぱっと見ただけだと大盛感はありませんが、そばを箸で持ち上げてみれば、たしかに相応の量があるようですね。デカ盛りのどんぶり飯などとは違い、そばだから食べられないこともないけど。
なお味ですが、いい意味で"立ち食いそばらしい立ち食いそば"です。とくにコシが強いとか風味豊かだというわけではなく、そばはいたって普通。甘めのつゆも同じく普通。でも、普通だからこそ、なんだかホッとするのです。
そういえば、ここの紅しょうが天は初めて食べたな。でも、ほどよい酸味としっかりした食感が心地よく、これまた満足できる味。
ひさしぶりに伺ったのだけれど、期待していたとおり、いや、それ以上の満足感を得ることができたのでした。
●新和そば
住所: 東京都新宿区西新宿1 西口地下街1号 小田急エース南館
営業時間: 月~金7:00~22:30 、土日祝7:00~22:00
定休日: 無休