中央線「昭和グルメ」を巡る(153) 圧倒的なボリュームとコスパ「定食ハウスやなぎや」(高円寺)

いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、高円寺の食堂「定食ハウスやなぎや」をご紹介。

圧倒的なボリュームとコスパ「定食ハウスやなぎや」(高円寺)

高円寺あづま通り商店街の片隅に

僕の知る限り1980年代にはすでに開業していたし、前を通り過ぎた回数は数知れず。そもそも通るたびに気になっていたので、「いつか行ってみなければ」とずーっと思い続けていたんですよ。そしたら数十年も経っちゃいました(バカみたいですね)。ともあれ高円寺の「定食ハウスやなぎや」は、そんなわけで常に頭の片隅にあったお店なのです。

有名な純情商店街よりも新宿に近い、「高円寺あづま通り商店街」を進むこと10分弱。早稲田通り少し手前の左側で営業を続ける、見るからに小さな食堂です。

手書きメニューの説得力がすごい

緑色の日除けと、そこに白く抜かれた「定食ハウスやなぎや」というレトロなフォントがなんとも昭和チック。アルミサッシのドアの素っ気なさと、店頭右前面を覆う写真つき手書きメニュー群の存在感が対照的ですねえ。しかもメニューの数は驚くほど多く、「アジ、コロッケ定食 500円」を筆頭に圧倒的なコスパのよさ。

そのせいかいつも混んでいる印象があったんだけど、たしかにこれなら繁盛しますわな。そこで、朝いちばんを狙ってみることにしました。

さりげなく、しかし力強く「黙食」の文字も

足を踏み入れると、右側の厨房を囲むようにL字型のカウンター8席があるのみでテーブル席はなし。左側の壁には、これまた手書きのメニューがずらりと並んでいますが、「チキン煮定食」の右隣が「5番定食」でその隣が「A定食」ってな具合で、並び方はランダムの極み。下段左端のほうにいきなり「C定食」があったりもしたし、規則性はまったくないようです(でも、そういう感じって好きだわ)。

これだけあると迷わずにはいられませんが、ここはオーソドックス(か?)に「おまかせ定食」にしてみました。店頭のいちばん目立つ位置に表示されていたこちらには、「(3〜5品の盛合せ)(中身はおまかせです)」との表記が。それだけ入っていて650円とは、これまた格安ですね。

お店はご夫婦で切り盛りされているようで、調理はご主人の担当。お母さんに「おまかせ定食をください」と伝えると、ほどなく調理が始まります。オープンキッチンなので、調理中の様子を見られるのも楽しいですね。

きちんと整えられた厨房

それにしても驚かされたのは人気の高さです。すぐに混んじゃうんだろうなとは思っていたものの、来客のスピードが予想以上に早い。まだお昼前だというのに、あっという間に全席が埋まり、諦めて帰っていく人も何人かいたほどだったのです。

ちなみに、ラジオが流れる店内に並ぶお客さんは男性のみ。もちろん女性が訪れることもあるでしょうし、たまたまこの日がそうだっただけなのかもしれません。が、メニューを見る限り男性ウケがいいことにも納得できます。ボリュームありそうだもんね。

おまかせ定食

などと知ったようなことを思っていたのですが、やがてカウンター越しに手渡された「おまかせ定食」を見たらビックリ仰天。なにせ「ボリュームありそう」どころか、「ボリュームありすぎ」なのです。

大きな皿の中央にはサラダとキャベツの千切りがこんもりと盛られており、それを取り囲むように並ぶのはコロッケ、ウインナーフライ串、うずらのたまごフライ串、ナスの天ぷら、まいたけの天ぷら、目玉焼き、おひたし、さつま揚げとしらたきの煮物。そこにご飯、豆腐とわかめの味噌汁、たくあん、味つけ海苔が加わるというものすごさ。