いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、吉祥寺のカフェ&バー「モア」をご紹介。

  • わー、高校生のころから変わってない! 「モア」(吉祥寺)

高校生のころにちょっと背伸びして入ってみた店

吉祥寺駅北口からサンロードに入り、靴屋さんの向こうの元町通りを左折。東急百貨店を正面に見ながら進むと、吉祥寺通りの少し手前右側に「プチロード」が現れます。その名の通りの小さな路地なのですが、この一角には昔から吉祥寺に根を張ってきた名店が並んでいるんですよねー。

  • 建物も看板も渋い

すぐ左側のカフェ&バー「モア」もそのひとつ。個人的には、高校生のころにちょっと背伸びして入ってみたりしていた店でもあります。店は2階で、1階の入り口は間口の狭い階段だけ。そのため見落としてしまう可能性もないとはいえませんが、マリリン・モンローの肖像を目標にすればすぐに見つかるはずです。

3階の「ジョン・ヘンリーズ・スタディ」、向かいのビル2階の「スクラッチ」は、たしか経営が同じだったんじゃなかったかな? どの店もセンスがよくて、70年代の吉祥寺でもちょっと特別な場所だと感じていたものです。

  • 階段はやや急なので気をつけて

が、そんななかでもいちばん親近感があったのは、もしかしたら「モア」だったかもしれません。とくに理由があったわけでもないんだけど、とても落ち着けるので。

  • ただいま営業中

数十年ぶりに階段を上がり、左側の扉を開けてみたら、ちょっと感動してしまいました。なぜって、高校生だったあのころと雰囲気が同じ、というよりも、まったく変わっていなかったから。1970年代に逆戻りしたかのようで、とても懐かしく感じたわけです。

  • 1970年代のままの店内

「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」の声に導かれ、かつて座った記憶が残る窓際の席へ。窓を背にして店内を見渡すと、「そうそう、こんな感じだった」とまたもや感動。飴色をしたログハウス調の木の壁、アンティークっぽいポスター、温かみのある照明、古いミシンなどの小物等々、そこにあるものすべてが見事に調和しています。

  • ジャズの専門書もズラリ

テーブルとテーブルの間に、さりげなくCDやジャズの専門書が並んでいるあたりも、押しつけがましくなく、自然な感じでいいですね。

  • 吉祥寺のど真ん中とは思えない雰囲気

なお今回は開店と同時にお邪魔したのですが、すぐにチック・コリアの名盤『リターン・トゥ・フォーエヴァー』が聞こえてきたのでぐっときちゃったなあ。さんざん聴いてきた作品だけど、この環境で耳にするとまた違った印象があるような気がして。

お昼が近かったのでなにか食べようと思ってメニューを確認すると、意外なくらいに料理が充実していますね。考えてみると学生時代はお金がなくてコーヒーばかり飲んでいたので、食事をするのは初めてかも。

  • ちょうどかかっていた『リターン・トゥ・フォーエヴァー』

で、バリエーション豊かなランチメニューのなかから、「グリルドジャークチキン カポナータ添え」をチョイスしてみました。

「ジャマイカ産ハーブとスパイスに漬けこんだチキンを、オーブンでこんがり焼き上げました。野菜たっぷりシチリア風ラタトゥーユ カポナータとご一緒に……」

こんな文章読んじゃったら、食べたくなるに決まってるじゃないですか。

  • 窓の外には「スクラッチ」の看板が

本を読みながら待っていたら、奥の厨房で肉をソテーする音が『リターン・トゥ・フォーエヴァー』のサウンドと絡み合いはじめます。「いい感じだなぁ」と思って顔を上げ、向かいの「スクラッチ」の黄色い看板を眺めていたら、ほどなく白いお皿が運ばれてきました。

  • 「グリルドジャークチキン カポナータ添え」

サフランライスの上に肉厚のジャークチキンがのっていて、その向こう側には彩り豊かなカポナータが。見た目は上品ですが、ジャークチキンは皮のパリパリ感と肉のジューシーさとのバランスが絶妙。適度なボリューム感があり、サフランライスとの相性も抜群です。ひんやりとしたカポナータもみずみずしく、すべてのバランスが整っていますね。これは思っていた以上に本格的だわ。

  • チキンはジューシーで味わい豊か

食後、アイスコーヒーを飲みながらまた本を読んでいたら、20代くらいの女子4人組が入ってきました。どうやら、そのうちのひとりが友だちを誘ったてきたようで、連れてこられた3人それぞれが、店内を見回しながら顔をほころばせ、小さく驚嘆の声を上げています。

  • 食後にはアイスコーヒーを

たしかにその年代からすれば、昭和の残り香がそこかしこから感じられるこの雰囲気は新鮮でしょうね。

「高校生のとき以来なんで、40数年ぶりで来ました」。帰り際、そのころには生まれていなかったかもしれないお店の方に思わずお声がけしてしまいましたが、逆にいえば、それだけブランクを開けてしまったわけで、それは反省すべきかもしれません。

  • 手づくり看板もかわいい

上の階の「ジョン・ヘンリーズ・スタディ」と向かいの「スクラッチ」にも、ひさしぶりに足を運んでみなければ。

●モア
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-14 山水ビル2F
営業時間:11:30〜17:30(LUNCH & TEA)、17:30〜24:30(JAZZ & BAR)
定休日:無休