いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、阿佐ヶ谷の喫茶店「カフェ・ド・ウィング」をご紹介。

  • 駅前を見下ろせる喫茶店「カフェ・ド・ウィング」(阿佐ヶ谷)

阿佐ヶ谷駅前のすばらしいロケーション

阿佐ヶ谷で、人と会うことになっていたんですよ。「打ち合わせを兼ねて、お昼でも一緒に食べようか」と。ところが阿佐ヶ谷駅には、約束の時間よりもずっと早く到着してしまったのです。しかも、なにをするにも中途半端な程度に早く(いちばん無駄なパターン)。

もちろん、南口駅前のベンチでぼーっとしているという選択肢もありました。それはそれで気持ちがよさそうですしね。でも考えてみると阿佐ヶ谷の南口には、もう何年も(何十年も、かも)ずーっと前から気になっていたお店があったのです。

そこで、ちょうどいい機会だし、そのお店で待ち合わせまでの時間を過ごすことにしたのでした。あんまりゆっくりはできないから、本当に中途半端な感じなんだけど。

  • 駅から0分

阿佐ヶ谷南口を出たら、交番脇を右側へ。大好きな『メタモルフォーゼの縁側』というマンガにも登場する「書楽」という書店の前を通り過ぎると、すぐ先に現れる「亀屋万年堂」のビルの2階。「カフェ・ド・ウィング」という昔ながらの喫茶店です。

  • メニューがズラリ

ビル入り口に出ている看板には「紅茶 炭火焙煎珈琲」と書かれていますが、どうやらただの喫茶店ではなさそうですね。というのも、「本日のおすすめ品」と書かれた紙を見る限り、料理メニューの充実度がなかなかのものなのです。「帆立貝柱と海老のカレー」「メカジキと色々野菜の生姜風味焼」「ポークソテー・フォンドヴォーソース」などなど、ランチタイムにこれだけのバリエーションを維持できるということは、もはや喫茶店のレベルではないかも。

「ところが、これから食事の予定があるんだよなぁ、ちょっと残念……」と思いながら2階に上がると、そこにもメニューなどの表示がズラリと並んでいます。

  • ディスプレイをよく見ると……

一見なんてことないんですが、よく見ればこれがなかなかに味わい深くもあります。営業時間の表示があるシートが業務用のビール樽を2つ重ねた上に置かれていたり、ヤマハのピアノ椅子の上に木製の看板が立てかけてあったり、シュールといえばシュールなんですよね。でも、それでいて違和感がないから不思議。

  • すっきり美しい店内

入り口は左側に折れるような構造になっていて、進むと右側にカウンターと厨房が見えます。そしてその正面が、窓際の大きな窓がポイントになったメイン空間。中央には6人が座れる大きなテーブルがあり、突き当たりと手前の壁側はソファー席。テーブルはすべて黒で統一されており、どことなく1980年代っぽいレトロ感があります。

席数が多いので迷ってしまいますけれど、やはりここは窓際の席を選びたいところ。いちばん駅に近い窓際の席の壁際のシートに身を埋めると、駅前の景色が目に飛び込んできます。気持ちいいな。反対側には6人くらいの団体客がおりましたが、開店直後だったこともあり、静かな空気が流れています。

  • さりげない清潔感

すぐにマスターと思しき男性が、「おひとりですか?」と声をかけながらお水とおしぼり、そしてメニューを持ってきてくださいました。本来であればそのメニューをじっくりチェックしたかったのですが、なにしろ時間がないのでぐっと我慢。もっとも手堅いアイスティーを注文したのでした(なんかすみません)。

それにしても、予想どおりのすばらしいロケーションです。なにしろ駅前をしっかり見渡せますからねえ。左側には駅が見えて、そのすぐ右側にはパールセンターのドーム状のアーケードも。バスロータリーに囲まれた正面の木の下のベンチには、何人かの人たちが座っています。そこで時間を潰そうかと思っていたわけで、それはそれで快適そうなのですけれど、この店を選んだこともまた正解。

  • すばらしいロケーション

なにしろ外を見ているだけで、ゆったりと過ぎていく時間を楽しめますからね。夜は並びのビルの3階にある「クラヴィーア」というジャズ・バーの窓際の席もおすすめなのですが、昼間はこっちも捨てがたいな。

店内にはイージー・リスニング系の音楽が流れていましたが、その音量も小さめで邪魔にならない程度。正統派喫茶店としての余裕を感じさせます。

  • アイスティーの見た目も爽やか

さて、ほどなく低めのグラスに入ったアイスティーが運ばれてきました。当たり前ですけど、奇をてらったところなど一切ない、きわめて普通な正統派のアイスティー。でも暑い日だったし、そのシンプルな感じに救われます。

外を眺めながらストレートでいただけば、それだけで気持ちにゆとりが生まれてくるような印象。そのあとのランチミーティングで話すべきことなどで頭のなかがいっぱいになっていたのですが、しばし気分転換することができました。

とはいえ、なにも食べられなかったのはやはり残念ではあったかな。いずれ改めて、食事のためにまたお邪魔してみよう。

●カフェ・ド・ウィング
住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷南3-37-14 第2北原ビル2F
営業時間:10:30〜22:30(L.O. 21:30)
定休日:水曜