女帝[エンペラー]
時は古代中国、五代十国時代。唐王朝が滅んだ後の戦乱期は、国と国が絶え間なく争うにとどまらず、皇室内部でも権力を巡って骨肉の争いが繰り広げられていた。それは王妃ワン(チャン・ツィイー)の国も例外ではなく……。
ワンは類稀なる美貌と聡明さで皇帝の寵愛を受け、絶大な権力を手にしていたが、ある日突然、夫である皇帝が亡くなってしまう。これが新帝として即位した弟リー(グォ・ヨウの策略であることは誰の目にも明らかであったが、新たな王の前に誰もが無力だった。さらにリーは自らの支配を完璧なものにするため、皇太子ウールアン(ダニエル・ウー)の抹殺を企てる。先帝に嫁ぐ前から、4つ年上の皇太子をひそかに想っていたワンは、ウールアンを守るべく新帝の后となる。夫を殺した憎き男に身を委ねながらも、その魂は復讐の神に捧げられていた。
一方、リーは皇太子暗殺を何度となく企てる。眉ひとつ動かさずに命を狙う冷徹さを見せながらも、王妃への愛は日増しに溺れるほど深くなっていく。そして、皇太子は争いを憎み、権力を嫌う温和さに似合わず、父の仇を討とうと決意する。
そして、いよいよ時は満ちた。ある日、盛大な夜宴が開かれ、ひとつの盃に毒が盛られた。これに口をつけるのは一体、誰――!?
この作品のベースとなったのはシェイクスピアの「ハムレット」。原作はデンマークの王子、ハムレットが父を殺して母と王位を奪った叔父に復讐する物語だが、フォン監督が母をヒロインに据えた構成に見事アレンジした。主演のチャン・ツィイーは体当たり演技で、女の悲哀を演じきった。
有楽座ほか、東宝洋画系にて全国ロードショー中
放談メンバー | ||
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はなこ |
マサオ |
ステラ |
女は恐ろしい。これに尽きる映画です……。
なによっ! その紹介の仕方は!?
これが僕の素直な感想。そのくらいチャン・ツィイーが演じた王妃は凄みがあったし、同時に恐いくらい美しかった…。結局、そんなおっかない内面を持つ彼女を好きになってしまう自分が恐い。というわけで、彼女にまつわるあらゆる心が全部"恐い"ので、このようにまとめてみた。
あら、女への最高の誉め言葉じゃない?
そーいうモンかしら!?
愛する人を、己の身を呈して守る。そのために違う人から受ける愛を踏み台にするのも辞さない。ある意味、純愛よね。
ま、かなり歪んでるけど。
一般的な母性愛ってところで言うと、皇太子の許婚のチンニー(ジョウ・シュン)そのまんまね。愛する男が何をやっても、ひたむきに受け止め続けるの。アタシも好きなヒトのすることならけっこう何でも許せちゃうわ。
キミのことは聞いてないから
でも、そんなチンニーがどれだけ大事な存在なのかってことに男はなかなか気づかないのよねえ。無償の愛! そうそう、アタシもこないだ……
いまどき、そんな自己犠牲的な母性愛は流行らないよ。
……。確かにね。でも、すごく大切なものよ。
そうかもしれないけど、一途に皇太子に無償を愛を捧げ続けてもさぁ、当の皇太子は新帝リーへの復讐でいっぱいいっぱい。愛の重さとベクトルはチンニー→皇太子ばっか大きくて、一方通行に見えるよ。むなしくない?
そうだね。でも、チンニーの愛はわかり易い分、心のよりどころになるよ。それに対して、王妃は皇太子のことが本当に好きなのか、よくわからないよ。
王妃は皇太子のために体を張って新帝リーの傍らに潜んでるのに、評価低いね。
そういう愛情表現もあるんだろうが…。やっぱり自分がつらい時にギュッと抱きとめてくれて傍に居てくれる女性に愛を感じるよ。
ハグっすか!?
そう。
映画の中で、皇太子を王妃と許婚がそれぞれ抱きしめるシーンがあるけど、その雰囲気にそれぞれ"自分なりの皇太子の愛し方"が表現されてるわよね。あえて言葉で言うなら、"攻める愛"と"守る愛"…ってトコかしら。うーん、あの微妙な感じは言葉じゃ説明しきれないわっ! とにかく見て欲しいっ!
わたしは美しいワイヤーアクションがおすすめ。さすが中国だよね。戦闘シーンなのに、舞踊を見てるみたいでウットリしたぁ。それから、チャン・ツィイーのオシリ! 締まるところはキュッとしているのに、ウエストは見事にくびれてる。あたし、チャン・ツィイーの美容読本あったら、絶対買う。そう思わせるくらい、見事なオシリだった。
強い男がたくさん出てくるけど、はなこやステラは誰がよかった?
イン・シュン将軍(ホァン・シャオミン)。ワイルドでカッコいい! ああいう強い"漢"って感じの男が好きなのぅっ!!
よかった、趣味がカブらなくて。あたしは皇太子(ダニエル・ウー)派。醸し出す色気と水っぽさ、たまらないわぁ。
ふたりとも興味ないみたいだけど、新帝リーは渋くていいと思うよ。欲しいものを全て手に入れるためにとことん冷酷になれる男なのに、王妃への純愛に溺れてしまうなんて実は相当なロマンチストじゃない? そんな人間らしいギャップに、任務を全うするために自分を殺しつつ、本音を捨てきれない男の悲哀を感じたよ。
皇帝暗殺までの手段が描かれていないせいか、新帝は案外いい人に見えるね。
あと、男として、今の日本に生まれてよかった、と心から思った。血で血を洗う戦いが続く時代に男は鉄砲玉のひとつでしかない。ひとつの命がここまで粗末に扱われる世界に自分が今、いないことを天に感謝したい。
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(イラスト:アサダニッキ)