近年、首都圏や関西圏を中心に、着席サービスの提供を目的とした有料列車が多く見られるようになった。JR西日本も今年3月16日のダイヤ改正に合わせ、新快速「Aシート」と命名された有料座席サービスを一部列車に導入している。

  • 新快速「Aシート」は12両編成の9号車に連結されている(写真:マイナビニュース)

    新快速「Aシート」は12両編成の9号車に連結されている

琵琶湖線・JR京都線・JR神戸線(東海道・山陽本線)を中心に高頻度で運行され、北陸本線・湖西線や赤穂線にも乗り入れる新快速は、いまや関西圏のJR線の代名詞的存在といえる。それだけに、導入前から新快速「Aシート」に対する関心は高かった。

■ワンコインで利用可能な新快速「Aシート」

新快速「Aシート」は現在、平日・土休日ともに1日2往復、上下計4本の列車に導入されている。12両編成の9号車に連結され、客室内にリクライニング機能を備えた座席が設けられた。各座席に大型テーブルとコンセントも備え付けられてある。客室の出入口付近に荷物置場があり、大型の荷物などを置くことができる。

JR西日本は新快速に使用される223系1000番台のうち、4両固定編成の2編成を使用し、先頭車1両を新快速「Aシート」の車両に改造。外観は従来の姿をとどめるが、窓下の帯に特急「サンダーバード」と共通するカラーリングを採用した。

  • 新快速「Aシート」の車両は窓回りや窓下の帯の色が他の車両と異なる(2019年2月の報道公開で撮影)

  • 客室内は特急車並みのリクライニングシートが並ぶ(2019年2月の報道公開で撮影)

新快速「Aシート」の車両は2両のみのため、限定的な運用となっており、通常は1日に1編成だけ使用するという。運行区間は野洲~姫路・網干間(網干駅発着は平日の上下各1本のみ)とされ、新快速「Aシート」に乗車する際、乗車券の他に乗車整理券500円が必要。乗車整理券は車内で購入でき、定期券・回数券あるいは「青春18きっぷ」などでの利用も可能。有料座席だが自由席のため、満席の場合は利用できない。

すでに導入から1カ月以上経過した新快速「Aシート」だが、ワンコインで利用可能な有料座席サービスの実力はいかほどだろうか。実際に乗車してみることにした。

■平日朝の上りは京都駅までの利用が目立つ

筆者は平日の朝ラッシュ時間帯に運行される新快速「Aシート」の車内などを確認したいと思い、4月の平日に網干発野洲行の列車を利用し、三ノ宮駅から乗車した。新快速「Aシート」を連結した平日朝の上り列車は、三ノ宮駅を8時20分に発車する。

新快速「Aシート」は9号車だが、利用者の多い朝ラッシュ時間帯ということもあり、乗降口にたどり着くまで少し苦労した。足もとを確認しながらホームを歩き、ようやく「A-SEAT」と記されたステッカーを発見。新快速は片側3ドアの223系・225系で運行されるが、新快速「Aシート」の車両は中央部の乗降ドアをなくして片側2ドアとしたため、乗降口を示すステッカーもホームの2カ所のみとなっている。

三ノ宮駅では、発車時刻が近づいても新快速「Aシート」の乗降口付近に並ぶ人は少なかった。すぐ近くに警備員が立ち、新快速「Aシート」が有料であること、列車が間もなく到着することなどを告げている。数分後に列車が入って来た。9号車だけ窓回りが黒く、窓下に鮮やかな青色の帯が施されていて、思った以上に目立つ。

新快速「Aシート」の車両が目の前に停まり、最初に驚いたことは、乗降ドア付近の立席エリアに多数の乗客がいたことだった。空席が出たら座ろうと考えている人もいれば、着席を望んでいるわけではなく、別の理由で立席エリアにいる人も少なくないように思われる。客室内の座席は満席かと思われたが、実際には空席があった模様。要領よく立席エリアから客室に入る乗客を見かけた。

筆者は三ノ宮駅で座ることはできなかったものの、次の芦屋駅で座席を確保することができた。早速、車掌に500円を支払い、降車駅を告げた上で乗車整理券をもらう。前の座席の背面にポケットがあり、そこに乗車整理券などを入れることができる。

  • 新快速「Aシート」では一部座席を除き、大型の背面テーブルを使用できる。各座席の肘掛にコンセントも(2019年2月の報道公開で撮影)

リクライニングシートの座り心地は少し固め。在来線を走る特急列車の自由席、あるいはJR東日本の普通列車グリーン車と同等のクオリティに感じられた。客室内では大型の背面テーブルを利用し、朝食を取る人やパソコンで作業する乗客もいた。なお、新快速「Aシート」ではテーブルが用意されない座席もあるので注意したい。

肘掛に設置されたコンセントも重宝した。新快速「Aシート」のコンセントは、JR西日本の在来線普通車において初めての試みだという。無料Wi-Fiサービスも利用可能とのことで試してみたが、利用者が多いせいなのか、途中からモバイル通信に切り替わってしまった。ビジネス等で利用する場合はモバイルルーターのほうが良さそうだ。

乗客はスーツを着た人が大半だったが、行楽客も乗っているようだった。他の乗客の乗車整理券を見ると、やはり「大阪」の文字が目立つ。車内の状況などから察するに、乗客の大半が、少なくとも30分以上は新快速「Aシート」に座っているのだろう。ちなみに、筆者と同じタイミングで座った乗客は京都駅以遠への利用が多かったようだ。

三ノ宮駅を発車してから30分弱。8時47分に大阪駅に到着し、ここで多くの乗客が下車した。とはいえ、立席エリアにいた乗客が客室内に入り、大阪駅から新たに乗車する人もいたので、発車の時点で再びほとんどの座席が埋まる。

  • 客室仕切りが設けられ、客室(有料エリア)と立席エリアが分けられている(2019年2月の報道公開で撮影)

新快速はその後、新大阪駅・高槻駅に停車したが、両駅とも大きな変動はなかった。JR京都線(東海道本線)を100km/h以上で快走し、9時17分に京都駅に到着。ここでまとまった降車があり、ほぼ満席だった客室内は半分程度の人数を残すのみとなった。京都駅から新快速「Aシート」を利用する人もわずかだった。

■混雑時の空席状況がわかりにくいなど、課題も

京都駅から先は琵琶湖線となる。滋賀県内の大津駅と草津駅でまとまった降車があり、野洲駅まで乗車した人はごくわずか。9時49分に野洲駅に到着し、降りる人を見てみると、スーツを着た人やハイカーのグループ客に加え、鉄道ファンもいた様子だった。

  • 新快速「Aシート」の列車は野洲駅まで運行される

平日朝の新快速「Aシート」を利用してみて、気になることがあった。ひとつは混雑時における座席の占有状況がわかりにくいことだ。立席エリアは客室内の様子を確認できない場所もあり、客室内が見えても全体を見渡さないと空席を見つけにくい。座席の占有状況がわかるモニターなどが立席エリアにあるとありがたい。

その他にも、客室内の通路が狭いため、車掌が乗車整理券を発行するまでの間、他の乗客が通行しにくくなるなど、いくつか課題があるように感じられた。新快速の停車駅においても、新快速「Aシート」の列車がいつ来るか、わかりづらい面もある。

新快速「Aシート」は利用者の関心が高いものの、現時点で大々的にPRされているとは言いがたく、おそらく試験的な導入にとどまっているのではないかと思われる。いまは本格的に導入するかどうか見極めている状況かもしれない。自由席のまま続けるのかどうかも気になる。いずれにしても、今後の本格導入があるとすれば、他社の事例も参考にしつつ、なにかしらの工夫が必要になってくるだろう。