順調に事業を伸ばしてきた経営者や、部署・チームを持たれるマネージャー、人事、意欲的な若手社員の方々から、「私の会社で色々な組織課題が出ており、手を打っているがうまくいかない」という相談を頂くことがあります。各社それぞれ試行錯誤をしていらっしゃいますが、その中での苦悩は少なくありません。

どのような考え方のもとで、どんな仕組みを取り入れているのか。たとえば急成長したベンチャーなど、他社の組織づくりの事例は大いに参考になります。今回は、弊社でご支援をした株式会社Alphaktの流石さんに「タレントの活躍を最大にする仕組み」を中心にお話を伺いました。

  • Alphakt 代表取締役社長 流石さん

志のある人がつながれば、社会の仕組みがきっと変わる、という想い

――「世界を解き明かし、未来の当たり前を作る」をミッションに掲げ、デジタルマーケティング事業を中核に、プロジェクトマッチングプラットフォーム「スキルバ」をはじめ、マーケティングのプロセスの自動化や商品流通を最適化する事業を展開中していますね。まずは「世界を解き明かし、未来の当たり前を作る」というミッションが生まれた背景から教えてください。

流石氏:私たちアルファクトは、企業ミッションとして、「自らの力で人生を好転させることができる力がつく仕組みの創出」ということをベースに掲げています。

昨今の社会情勢では、未来の選択肢が限定されるような環境や、その時の状況で自分が本当にすべきことを見出す必要のある場面が多くあります。。そういった環境に置かれたときに自分自身のスキルや、経験をもとに、人生を好転させられる力を身に着けることが重要だと考えています。もっと根本的な部分で、そういった環境に置かれる人が生まれる世界を解き明かし、新しく未来の当たり前を作っていくんだと思います。

――根源的なところへの挑戦が、現在の事業につながっている、ということでしょうか?

流石氏:そうですね。雇用形態に関係なく、志がある者同士で共感しあう人が集まる、そういったコミュニティを作って大きくしていきたいと考えています。

幕末は結構そういう風潮があった気がしますが、現代では国全体で見たときにはそうしたコミュニティが生まれる環境にはなっていないので、何とかしたいと。地域ごとには残っているかもしれませんが、大きなうねりにしていきたいと思っています。

当社のサービスであるタレントプラットフォームなど、プロフェッショナル人材の活躍を後押しする仕組みにも思想は反映されています。労働人口が減っている日本においては、正社員を採用することの難易度はどんどん上がっています。正社員採用にこだわらず、業務委託などの雇用形態も含めて組織を作ることができる企業が増えないと、企業が成長することはできませんし、国自体も人が減って生産力が落ちていくことは間違いありません。

――業務委託を採用する選択をする企業が少ないのはなぜだと思われますか?

流石氏:採用サービスは「これだけの求職者がいて、こんな優秀層がいます」という情報を見せてくれるので「正社員を採用できるかもしれない」と期待をもたらします。ですが、多くの企業が求める層だけでなく、そもそも人が少ない中で、他社に勝る採用力がなければ人を採用することができません。

それならば業務委託を採用すればいいと思われるかもしれませんが、そうしない企業が多いです。なぜ業務委託などを含めた組織づくりをする企業が少ないかというと、彼らのマネジメントは難しいと考えているからです。

ですが、難しいと考えているマネジメントするノウハウさえ分かれば、挑戦する企業も増えると思います。私たちは、マネジメントのやり方の共有であったり、管理システムの提供やそもそもの人材の供給もワンストップで提供することを考えています。

ノウハウとナレッジは、個人ではなく会社に貯める

  • 写真左:キーメッセージ代表取締役 権藤悠氏(筆者)

――ノウハウの有無が大きな参入障壁になっているのであれば、もたらす価値は大きいですね

流石氏:よく業務委託やフリーランスの人が辞めた後に、その人がやっていた業務、例えば営業の仕方がわからないなどの問題もよく聞きます。ナレッジを企業に残してもらわずに契約期間が終わった場合、後から聞くことは難しいでしょう。私たちが入る場合にはナレッジをしっかり組織の中にためるサポートも行うので、スキルトランスファーにつなげることもできると考えています。

――プロフェッショナル人材との契約において、御社は面白い報酬設計をされていますね。

流石氏:経済報酬と感情報酬の2つを組み合わせています。この設計は、自分がどのような環境だと楽しく働けるのか、ということを考えた中で生まれたものです。

自分のアウトプットに対する報酬が最も重要だという前提で、同じ業務に取り組むのなら年収600万より年収1000万のほうがいいので、それを実現するにはどうしたらよいかと考えました。1人当たりが創出できる売上を最大化することがでるのであれば、そこを還元をするシステムは経済報酬がカバーします。

とはいえ、お金のためだけに働くのは物足りなかったり、つまらないと感じたりすることが多いので、ビジョンへの共感や納得感がないと楽しく働けないなと感じました。感情報酬は売上を上げた人が表彰されるなど、マインド面への報酬として設計しています。

――経済と感情、置き換えれば左脳と右脳のいうのでしょうか、自分自身で感情報酬を設計できる人であれば良いですが、そうでない社員が多いのであれば、バランスをとれるロジックが人事制度でも必要だなと思いますね。

最短距離で走るためにエキスパートの力を借りる

流石氏:当社の組織作りはリクルートを参考にしていて、『Hot Pepper ミラクル・ストーリー』の著者である平尾勇司さんにお願いしてコンサルティングをしていただきました。まずは自分たちのリソースでできるところから徐々に取り組むという経営者は多いと思いますが、私は最初からエキスパートと言われる方にアプローチして、考え方やその領域の知見をインストールしてもらっています。その時点でほぼ完成版といえる状態まで作り上げてから、自分たちのニュアンスを加えて実行版にするようにしています。

――最初から人の手を借りるということに抵抗を持つ経営者もいると思いますが、自分たちだけで作り上げることより、ミッション実現のために最速で最適な手法を選んでいるんですね。

流石氏:ビジネスマネジメントシート(以下、BMS)と一緒に、事業をゼロから作ったときに組織がどんな状態であったら成功するかという点も一緒に整理をしました。組織と事業をセットで考えていたので、数値目標を共有するときも目標だけを伝えるのではなく、楽しめるような設計をどうするかなどまで想定し尽くしています。

  • Alphakt社のビジネスマネジメントシート

――組織設計や報酬設計は、起業当初から考えていたのでしょうか?

流石氏:そこは起業当初から考えていまして、学生時代から複数の会社でインターンを経験し、組織作りやタレントマネジメントの難しさを感じていたからだと思います。

大学卒業後に入社したサイバーエージェントでは、事業部でのインターン採用にも関わっていましたが、その時にはすでに学生から人気の組織にするにはどうすればいいのか、ということを意識していました。インターンをしている人たちに楽しそうだと思ってもらえれば、口コミなどで母集団形成に困らなくなりますし、採用した学生と同じレベルの母集団ができれば、採用しやすくなって結果的に単価も下がっていきます。

――育成やタレントマネジメントにおいて、御社の成功要因は何でしょうか?

流石氏:要因の中で大きいのは「スキルの可視化」ができていることだと思います。これは当社の正社員、参画してくれている業務委託やビジネスパートナーの方だけでなく、現時点ではお仕事をご一緒していない面談をしただけの方やも含め、接点があった方全員を対象にしています。

たとえば、面談をしたものの今は一緒に働けないという場合でもデータベース化できているので、このスキルを持っている人が必要となったときに、遅滞なく誰に声を掛けたらいいかがすぐにわかって、機会損失を少なくすることができます。先ほどお話ししたように、当社はさまざまな強みを持った業務委託の方に参画していただいていて、正社員が何でもやるという考え方で組織を作っていないです。だからこそ、「スキルの可視化」が重要とも言えますね。

――一般的な人的資本経営で対象になる範囲よりも拡大して、そのデータも含めて資本となっているわけですね。

人的資本を拡張して自社の価値を最大にする

流石氏:当社のデータベースではカテゴリーで分類して、その中により細かなスキルを表したタグが約200種類あります。面談の際に用意している項目をヒアリングしており、同じ粒間の情報を収集することができています。私が特に重要だと思っているのは、人となりなどの定性的なスキルです。私たちの組織に入っていただいたときに、協働していくことができる人なのかは組織作りにおいて重要です。

――大手企業もベンチャー企業も関係なく、スキルの可視化は実現したいことの一つですね。可視化の際に、すべてをヒアリングしきれているか、網羅できているかどうかは何で判断しているのですか?

流石氏:組織の立ち上げの際にエキスパートの力をお借りしたとお話ししましたが、ここでもアプローチ方法は同じです。その領域の第一人者といえる人に、どんなスキルが必要となるのか、その職種での何を評価項目にしたらよいか、そこの整理をしてから面談を行っています。

言い換えるなら、その領域のスキルマスターに「見極める目」をインストールしてもらっているのです。

――今回はタレントマネジメントと組織の考え方について、ミッションと連動したユニークなものをご紹介いただきました。後半では、社内で運用している具体的な取り組みについてお伺いしていきます。

(後編に続きます)