この春、新幹線200系が営業運転を終え、間もなくラストランを迎えます。東北・上越新幹線の開業以来、ずっと走り続けてきた200系。……といっても、関西人の筆者にとってはなじみの薄い存在。身近にいる人たちも同じことを感じているようで、「0系とおんなじ顔で、緑色のヤツや!」なんて、乱暴な説明をしてしまうのですが。

そんな200系に関して、ふと、昔行った「みちのく鉄道旅」のことを思い出しました。

遠野へ向かう途中で乗車した東北新幹線200系(1984年頃撮影)

新幹線200系の速さと、釜石線の雪景色に感動!

その昔、「姫神せんせいしょん」という音楽グループがありました。「みちのくシンセサイザー」を自称するユニットで、「遠野」「綾織」「河童淵」といった東北地方の地名が曲目にたくさん入っていました。当時中学生だった筆者は、それを聴くたびに、「いつか東北へ行ってみたい」と思っていたものです。

関西人にとって東北地方は遠いところです。舞鶴から船で行ける北海道より遠くに感じていたかもしれません。「関東の人が一番わからない県は島根県と鳥取県」とよくいわれますが、関西人、少なくとも筆者にとって、「わからない県」といえば北関東や東北地方にある県なのですね。岩手県あたりはもう、いったいどんなところなのか、想像もできない場所でした。「姫神せんせいしょん」の音楽の神秘的な響きや、想像をかき立てられる優雅な地名などと相まって、いつしか頭の中で、メルヘンでファンタスティックな「岩手県」という世界が築き上げられ、憧れは膨らんでいったようです。

高校2年生の冬、筆者は仙台のいとこの結婚式に呼ばれました。これはまたとない東北方面「阿房列車」のチャンス! 喜び勇んで飛行機に乗りました。

結婚式も無事に終わったところで、いよいよ「みちのく鉄道旅」がスタート。ただし、そのときどこの路線をどう乗ったのか、あまりよく覚えてません。もう30年も前のことですしね……。最初に東北新幹線に乗り、0系の顔で緑色の帯の200系に乗ったことは覚えています。とにかくすばらしい速さで北上していきました。

新幹線にあまり乗ったことのない筆者は、その速さに感動。一方、座席の肘かけと窓際の壁のすき間に手を入れ、トンネルに入るたびにそのすき間が微妙に広がったり狭まったりすることを知り、「新幹線の車体って気圧で変形してるんや!」と喜んでいました。

遠野駅の手前の釜石線綾織駅。雪景色が広がる

その後、在来線の列車に乗り換え、釜石線の遠野駅へ向かいます。あまり車両に詳しくない筆者ですが、そのときの列車はキハ58・28系だったと記憶しています。

やっぱりディーゼルカーはいいですね。あののんびりしたエンジン音に独特の鼓動。そして車窓に広がる一面の銀世界。ほとんど雪の降らない地域で生まれ育った筆者にとって、見るだけでテンション上がりまくりです。雪国の山里の景色に、頭の中で『まんが日本昔ばなし』のテーマが流れていました。

……ここで「姫神せんせいしょん」が流れてこないあたり、筆者もまだまだ「お子ちゃま」です。空気読めてません(笑)。

最初は感激した雪景色も、1時間以上も見ているうちに、ちょっと飽きてきました。白一色の世界はやっぱり単調です。夏にここへ来たら、青い空とか、木々の緑とか、いろいろ色があってすごくいい景色なんやろうなあ……なんて思いつつ、結局は"まどろみの旅路"となっていました。まあ、これも鉄道旅の醍醐味だと筆者は思うのですが。そういう感覚は、きっとこの時期に作られたのでしょう。

遠野からの帰り道は、在来線列車で戻る長い旅に

釜石線のディーゼルカーで遠野へ到着。実を言うと、この旅行では、「とりあえず遠野へ行く」とだけしか計画しておらず、「遠野で何をするか? 何を見るか?」というのはあまり考えていませんでした。こういう無計画さは、いまもあまり変わっていない気がします。

それでも、せっかく来たのだからと、市内の博物館に行ったり、地元の語り部(おばあさん)の話を聞いたりしました。おばあさんの話は見事に聞き取れません。かろうじて最後の「どんどはれ」(遠野の語り部が話の締めに使う言葉)がわかる程度。その聞き取れなさ加減に、「これが遠野なんだ。いまこうして遠野に来ているんだ」と、じつに都合よく感慨にふける筆者なのでありました。

北上駅で2両編成のディーゼルカーと遭遇。北上線の列車と思われる

ED75重連が牽引する貨物列車も

遠野から仙台までの帰り道は、とにかく長かったのを覚えています。

光のように速い新幹線200系で一気に駆け抜けたのとほぼ同じ距離を、在来線の列車で1駅1駅ぽつぽつと拾いながら戻っていく旅。雪景色の夕方、帰宅の学生たちもいなくなった頃、最後尾の車両で座席に身をゆだね、うつらうつらとしていますと、不意に、「小牛田ぁ~、小牛田ぁ~」と車内放送の声が。妙に生々しく、真横から聞こえてきました。見ると、車掌さんが客席に座ってはりました。マイクのコードを伸ばして。

……国鉄時代、いまとなっては良い時代だったなあと思います。