“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライター・デヤブロウ氏が、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまでご紹介。今回は「鶯谷駅周辺の超穴場」
今回は東京都台東区のJR鶯谷駅周辺にある銭湯2軒とサウナ1軒をピックアップ。それぞれ優れた個性を持つ店舗の概要やおすすめポイントを、料金やアクセスなど基本情報を添えて紹介する。
鶯谷駅があるのは、都内屈指の観光スポット・上野駅と、同様に京成スカイライナー&谷中地域のおかげで観光人気の高い日暮里駅の狭間。両駅の陰に隠れた、JR山手線の全30駅中もっとも「地味」な駅として有名(?)である。
そのイメージは、鶯谷駅の乗車人数が長らく山手線内で最下位をキープしていたことにも由来するだろう。2026年現在でこそ港区の高輪ゲートウェイ駅が最下位となってはいるが、あちらは2020年に開業した隈研吾デザインの最先端駅舎と、2025年開業の「高輪ゲートウェイシティ」を核に今後の急発展は必至。反対に鶯谷駅にあるのは、実に一世紀近くも前の1927年に建てられたという古びた木造駅舎と、谷間のようなJR線路の反対側に見えるラブホテル街の峰である。
こうした第一印象の反面、鶯谷を一度散策してみれば、独特のテイストと魅力に満ちた街並みの奥深さに気付かされることも多い。あるのは数多くの激シブな居酒屋や飲食店、上野恩賜公園の「裏口」としての高利便性、寺社が多い穏やかな下町風景。そして、銭湯である。その一つは都内最大級の面積&設備を誇り、銭湯マニアやサウナーの界隈ではよく知られる存在だ。
上野公園での観光後に鶯谷の銭湯で汗を流し、その後は年季の入った居酒屋へ……という休日コースが筆者イチ推しである。
浴槽もサウナも浴室外も全てがビッグ! 都内最大級『ひだまりの泉萩の湯』
まずは「都内最大級」の方の銭湯、『ひだまりの泉萩の湯』を紹介しよう(以下『萩の湯』と記載)。萩の湯があるのは鶯谷駅の北口から徒歩数分の場所である。2017年にリニューアルしたビル型銭湯であり、なんとマンションの1階から4階が丸ごと銭湯施設になっている。並のスーパー銭湯にも匹敵するビッグサイズに、初めて訪れた人は驚かされるはずだ。
1階入口から階段やエレベーターで2階の玄関に上ると、広々した玄関には実に300以上もの靴箱が並び、自動ドアの先にはタッチパネル式の自動券売機(キャッシュレスにも対応)を備えている。フロントで受付をした先の3階が男湯、4階が女湯。
2階フロントの横には、軽食のみならずガッツリ目の食事や飲み会もこなせるメニュー数と座席数の「食事処こもれび」が営業しており、ここだけでの利用もOKだ。飲み物やアイスの自販機、クラフトビールや地サイダーの販売ケース、そのほかグッズや書籍の物販も充実し、浴室に入る前から既に至れり尽くせりである。
さらにスゴイのは浴室の広大さと設備の豊富さだ。浴槽は炭酸泉、中温の露天岩風呂、電気風呂・ジェット(3種)・寝風呂を備えた浴槽、高温の薬湯とバラエティ豊か。しかも、そのいずれもが並の銭湯における大浴槽クラスの大きさである。
特に筆者が推したいのは薬湯であり、入りにくくないギリギリの熱さに設定された湯に、広い浴槽のおかげで全身をのんびり伸ばして浸かれるのだ。薬効成分と熱が全身を心地よく刺激し、心身が蕩けそうな感覚を味わえるだろう。
当然、水風呂とサウナも大型である。水風呂は水温が絶妙で、ちょっとしたプール程のサイズもあり、ある程度の人数が入っても窮屈さはあまり感じない。ドライサウナは上中下3段になっており、その収容人数は軽く20人を超える。これだけの広さでも、休日の夕方などは満室でサウナ室前の行列待ちが珍しくないのだから恐ろしい。外気浴の際は露天風呂スペースの腰掛けや椅子を使用するとよいが、ここが全て埋まっている時のため、水風呂のすぐ近くにも内気浴用の腰掛けスペースが用意されている。
加えて、萩の湯は店内のあちこちに貼られた面白い掲示にも注目だ。例えば浴室の各所に貼られているのは漫画家・メソポ田宮文明さんの作品である、銭湯だけで読めるというユニークな漫画「銭湯戦士セイント☆セントー」。また、炭酸泉の壁面には『銭湯図解』で有名な画家・塩谷歩波さんの描いた緻密な銭湯イラストも並んでおり、中には廃業した銭湯の図もあって懐かしい気分にさせてくれる。
浴室外にも様々なポスターや告知、手書きの新聞が掲示されていて、入浴のたびに読みたくなる。店員さんのサービスも行き届いており、設備規模以外の面でも充実したオールインワン銭湯だ。
『ひだまりの泉 萩の湯』:東京都台東区根岸2-13-13/最寄駅:JR山手線「鴬谷駅」北口から徒歩3分/6:00~9:00、11:00~25:00(第3火曜休)/料金:入浴550円、サウナ料金350円(平日)450円(土日祝)600円(特定日)、レンタルタオルセット100円(フェイスタオル、バスタオル、ナイロン)/駐車場なし
戦前から残る懐かしの下町で愛される『宝泉湯』
鶯谷エリアのもう1軒の銭湯『宝泉湯』は、鶯谷駅南口から陸橋のスロープを降り、そこから徒歩数分の小野照崎神社に近い場所にある。こちらもビル型銭湯だが、萩の湯に比べるとサイズはかなり控えめ。入口には大きな熱帯魚の水槽が飾られている。
客層も対照的であり、萩の湯が街の外部からも年齢層を問わず多くの人を惹き寄せるのに対して、宝泉湯はもっぱら地元の常連さん達が中心。そのぶん、曜日や時間帯による混雑にもまれず、落ち着いて入浴できる穴場と言えそうだ。
宝泉湯ならではの個性的なポイントも多い。脱衣所は手前から奥にかけてかなり細長い造りで、ロッカー数などはコンパクトながら、入浴後の休憩などに使える腰掛けもあって居心地は良い。浴室内は白く清潔なタイル張りであり、浴槽奥にはなぜかイタリアの画家・ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』のようなタイル絵があるなど、これまた独特である。
浴室内は電気風呂や泡風呂を備えた大浴槽が一つと、日替わり薬風呂、メントール入りの掛け流し水風呂、7~8人ほど入れるサウナと、シンプルながらも一通りのものが備わっている。大浴槽は42℃前後で若干高めの湯温で、こうした温度調整を好むあたりに鶯谷住民の江戸っ子気質も見出せそうだ。薬風呂はミストを併設した珍しいもので、湯船の外に出ている部分もしっとりと心地よい感覚に包まれる。
ところで、宝泉湯のある根岸3丁目は太平洋戦争時の空襲被害を奇跡的に免れ、現在でも昔のままの木造住宅や寺社、昭和チックな個人経営の店、細い路地が数多く残る一帯だ。上野・不忍池のほとりにある博物館『したまちミュージアム(旧:下町風俗資料館)』の一階には、昭和30年代の根岸3丁目(当時の町名は台東区坂本)の長屋や街並みを再現した展示も行われている。こちらを先に見学しておき、現在の「猥雑な歓楽街」になる以前の「もう一つの鶯谷」に想いを馳せながら、宝泉湯を訪ねてみるのも良いだろう。
『宝泉湯』:東京都台東区根岸3-14-14/最寄駅:JR山手線「鴬谷駅」南口から徒歩7分、東京メトロ日比谷線「入谷駅」から徒歩5分/火~日15:00~24:00(月曜休)/料金:入浴550円、サウナ料金300円(レンタルタオル込)/駐車場なし
24時間営業でサウナ&簡易宿泊にも最適『サウナセンター 鶯谷本店』
銭湯ではないが、宝泉湯のすぐ近くに温浴施設がもう一つあるので、補足として紹介しておきたい。カプセルホテル併設の『サウナセンター 鶯谷本店』はビル内の2階と3階がカプセルルーム、4階は休憩室、5階は食堂など、そして6階がお風呂&サウナとなっている。入口になぜか飾られている某機動戦士が目印だ。
浴室設備はバイブラ風呂・水風呂・サウナ・ペンギンルーム(冷却室)とかなりシンプルで、店名通りサウナ中心の構成。サウナは3段で10人以上入ることができ、室温は90℃~100℃ほど。平日には5回、休日には10回のアウフグース(タオルやうちわで入浴者に熱波を浴びせるサービス)が実施され、とりわけ毎月の第2回にはドイツサウナ協会の公認プロ熱波師・レジェンドゆうさんによるアウフグースイベントも行われる。
ほかにも水風呂は水温14℃~15℃ほど、ペンギンルームは室温6~7℃ほどで大型扇風機まで備わっている、サウナー推奨のスポットである。もちろんカプセルホテルでもあるので、この近辺で諸事情あって終電を逃してしまった時や、もしくは上野界隈を巡る短期の一人旅行などにも活用できそうだ。
『サウナセンター 鶯谷本店』:東京都台東区下谷2-4-7/最寄駅:JR山手線「鴬谷駅」南口から徒歩3分、東京メトロ日比谷線「入谷駅」から徒歩3分/24時間営業(無休)/料金:入浴550円、サウナ料金300円(レンタルタオル込)/駐車場なし
鶯谷は「上野公園の裏」「戦後の歓楽街」「戦前からの下町」が隣り合う街
上記のように優れた銭湯やサウナはあれど、やはり「山手線内でも地味な街」というイメージが先行してか、鶯谷には滅多に行かないという方々も多いだろう。だが、実は鶯谷には冒頭でも触れたとおり、立地面・歴史面での意外な見所やメリットが多い。実際に訪れてみて初めて深みが分かる、まさに穴場なのだ。
(1)上野恩賜公園一帯へのアクセスの良さ
鶯谷駅の出口は北口(萩の湯側)と南口(宝泉湯側)の2つに分かれる。このうち南口があるのは、『東京国立博物館(東博)』の裏側からすぐ近く。日本を代表する人気の博物館に徒歩数分で行けるほか、当然ながら上野恩賜公園の北側にもアクセスが良好。まさに「上野公園の裏口」と言える。
上野公園経由で東博などに向かう際、電車本数や徒歩距離の面ではJR上野駅・公園改札から向かう方が良い。ただし、現在の上野駅周辺は休日ともなれば、国内外からの膨大な観光客でごった返す。鶯谷駅から行けばこうした人混みを避けられるので、騒音に煩わされずのんびり歩きたいなら利用価値は高い。
また、上野恩賜公園の一帯は鶯谷側に対して小高い台地になっている。上野公園から鶯谷一帯へ徒歩で行く際は、JRの線路をまたぐ陸橋をゆっくり降りていくことになるが、幅広の線路を山手線や上野東京ラインなど多数の路線が行き交う様を橋上から眺めると壮観である。徒歩距離も数分〜10分程度なので、特に夏場の公園巡りで汗を流した後などは、鶯谷の銭湯でリフレッシュすると最高だ。
(2)意外と多い鶯谷の散策スポット
鶯谷駅周辺や近隣(根岸3丁目)は宝泉湯の項でも触れたとおり、奇跡的に戦禍を免れたため古くからの趣深い建物が豊富に残る。1927年築という鶯谷駅の駅舎自体も、旧態的な古めかしさの一方で、貴重なレトロ建築として注目できそうだ。
こうした特性もあってか、鶯谷には長い歴史と独特な個性を持つ寺社仏閣も少なくない。例えば駅北口から直近の『元三島神社』は何とラブホテル街のど真ん中にあり、小さい山のようになった神社の下(山の足元どころではなく、文字通り「神社の真下」である!)で老舗居酒屋『信濃路』が営業しているなど、まさに鶯谷イズムを体現する珍パワースポットだ。
加えて、実は鶯谷は「文人の街」でもある。上野公園や旧帝国図書館(現:国際子ども図書館)を擁して文化の香りが濃い上野エリアと近く、一方で家賃の安い下町であった点から、明治以降の知識人や作家が好んで暮らしたのだという。こうした足跡を辿りたい時は、駅北口からすぐ近くの『台東区率書道博物館』『子規庵(明治期の俳人・正岡子規の旧宅)』などを訪ねてみよう。
(3)長年愛される居酒屋や飲食店が充実
また、夜の歓楽街・鶯谷を語る時には当然、酒処も外せない。実は鶯谷駅周辺は戦後まもない頃、当時のGHQの施策によって都内のアングラな屋台街が解体されるのと並行で、そこの人々を移転させる形で新しい飲食店街へと再整備されている。その当時に創業した駅南口近くの焼き鳥屋『ささのや』を初め、昭和中期までに上記『信濃路』などが創業。現在も鶯谷駅周辺には、数多くの通好みでオールドスタイルな居酒屋が連なる。
一方、言問通りをまたいだ根岸3丁目にも、先述のとおり古い木造建築を活かした飲食店が点在。実に江戸時代末期からルーツを持つ超老舗の『鍵屋』などは、酒飲み界隈では知名度が高い。中華系やエスニックなど国際色豊かな店舗もあり、鶯谷は「銭湯で一風呂浴びてから一杯!」の誘惑が多いエリアでもある。
純喫茶やカフェが意外に多い店も見逃せないだろう。とりわけ、宝泉湯からすぐ近くには閉業した宮造り銭湯建築を転用した『レボン快哉湯』もあり、こちらも銭湯好きなら是非とも行っておきたい。「地味」だからこそ長らく受け継がれてきたアングラめいた地域文化を、銭湯とセットで楽しめる街、それが鶯谷なのだ。



















