“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間。大きな湯船に全身を預け、浮遊感を味わいながらポカポカ温まる安らぎの場、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライター・デヤブロウ氏が、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまで紹介する。日々の疲れは、湯船に置いて帰ろう。
今回は、サウナ無しでも高温風呂と水風呂の作用で温冷交代浴ができる銭湯3軒を東京23区からセレクトした。閑静な住宅地にある「温泉」から韓流タウンに潜む和風銭湯、流行最先端のスポットに出来た店舗まで、意外な個性や立地にも注目である。
サウナブームがすっかり一文化として定着した昨今、特に若い銭湯好きや「サウナー」の間では、銭湯選びの基準として「サウナの有無」が語られることも多い。確かによく整備されたサウナと水風呂、そして外気浴というルーチンの繰り返しの心地よさは他にないものだ。
しかし、こうした「ととのい方」はたとえサウナでなくとも、身体をしっかり加熱さえできれば成立する。それが高温風呂と水風呂を往復する「温冷交代浴」である。温度高めの湯にじっくり浸かり、火照った身体を水風呂で引き締めて休憩。このシンプルな反復が、驚くほど深いリラックス感と爽快さをもたらすのだ。
こうした温冷交代浴は、1回のルーチンがサウナよりも比較的短時間で済むため、長時間の滞在をせずとも仕事帰りや街歩きの合間にさっと立ち寄りやすい。また、一般的に銭湯のサウナ込利用料は1,000円前後に設定されていることが多いが、サウナ無しの銭湯であればタオルレンタル代などを除いて基本料金550円のみで済む点も、地味ながらメリットだ。(※東京都、2026年1月時点)
メタケイ酸の「温泉」高温風呂が魅力『中野温泉 天神湯』
JR中央線・中野駅の北口から右(東方向)を向き、線路沿いに徒歩数分。駅前の喧騒感から離れた閑静な住宅街のなかに佇むのが『中野温泉 天神湯』である。(※以下『天神湯』と記載)
天神湯は2023年にリニューアルオープンしており、創業当時の昭和風な宮造り建築と内装を可能な限り保全しつつ、フロントや脱衣所は瀟洒な和風レトロモダンとなっている。2025年には水質検査を経て温泉として営業許可を獲得し、現在の店名となった。泉質は天然の美肌成分として保湿・保温をはじめ様々な健康効果が期待できる透明なメタケイ酸だ。
浴室内は真っ白な壁面や床タイル、水色に塗られた柱や窓枠がとても鮮やかで、富士山を描いた浴室奥のペンキ絵も美しい。浴槽は電気風呂とジェットを備えた40℃の中温風呂と、43.5℃~45℃という高温風呂の2種類。この高温風呂が刺激的ながら入りづらくないギリギリの熱さに調整されており、中温風呂で身体を慣らしてからザブンと身を沈めれば、温泉のメタケイ酸が身体にジワジワ染み込むような感覚を与えてくれる。水風呂もあるが冷え方はかなりゆるいので、水風呂から上がった後は少々長めに休憩してから、また高温風呂に挑むと良いだろう。
天神湯の客層は若者のほか、リニューアル前から利用している地域の常連客も多い。耳をすませば常連同士の会話が聞こえてくることは度々で、時には新規客と常連との間でも気さくに会話が弾むなど、中野界隈で親しまれている湯処である。
さて、中野と言えば、マニアックなホビー・サブカル店舗が密集する複合商業施設『中野ブロードウェイ』が最も有名だろう。中野ブロードウェイ手前のアーケード商店街『中野サンモール』や、数多くの渋い居酒屋・飲食店が集う『ふれあいロード』も渾然一体となり、中野駅の北側は非常にエネルギッシュである。迷路のような中野ブロードウェイの中を行脚してから、その疲れを天神湯で落とし、リフレッシュしてからサンモールやふれあいロードで一杯!というデイプランも行けそうだ。
『中野温泉 天神湯』:東京都中野区中野5-10-10/最寄駅:JR中央線「中野駅」から徒歩約7分/15:00~23:30(木曜休)/料金:入浴550円、レンタルタオル100円(フェイスタオル)
シルク高温風呂&水風呂に匠の技! 新大久保の隠れ家銭湯『万年湯』
言わずと知れた都内最大のコリアンタウン・新大久保。多くの「韓流」コスメ・食品・居酒屋・サロンなどがひしめき、昼も夜もギラギラ輝く一帯の片隅に、意外にも純和風で隠れ家チックな銭湯が潜んでいる。
『万年湯』があるのは、新大久保の大通りから少し路地裏に入った場所。建物自体は普通のビル型銭湯だが、2016年のリニューアルによって「都心の隠れ湯」として生まれ変わっている。フロントや脱衣所は大正レトロのような風合いに整えられており、浴室内は控えめの照明と穏やかな薄茶のタイルが、シックで直角な空間を演出している。浴室奥にあるタイル絵は鶴の群れが飛び立つ様子で、こちらも実に見事。
浴槽は高温のシルク風呂、中温風呂、水風呂の3つ。高温シルク風呂は温度が44℃前後となっており、こちらも天神湯と同様ガッツリと加熱するタイプである。しかも万年湯では軟水を使用しているうえに、シルク風呂の超微細気泡の効果もあり、肌触りは非常にトロトロして滑らか。湯温のわりに抵抗感が少なくスッと入れて、長く浸かっていられるのが魅力だ。
万年湯は水風呂の設計にもこだわりが光っている。タイルカラーは他の部分と違って深いブルーであり、浴槽の入口にパーテーションのような壁があるおかげで、水風呂のみが個室のように切り離された印象となっている。水温はしっかり冷たさを感じさせつつ辛くならない程度であり、周囲から隔絶された直方体の中で温冷交代浴の「冷」をじっくり堪能できる造りだ。
また、中温風呂は広くのびのびと脚を伸ばすことができる上に、こちらも軟水のおかげで肌触りはやわらか。同じ浴槽にはジェット風呂や電気風呂も備わっている。洗い場には高齢者が立ち上がる時の手すりやタオル掛けにも使えるフックが設置されているなど、利用客への細かな配慮をあちらこちらに感じられる。
なお、コリアンタウンの新大久保だけに、万年湯の客層もアジア系の方々が多いのか……と思いきや、その国籍は想像以上に様々である。日本人で高齢の方々も多いが、その中には新大久保の歴史と変化を長年見続けてきた人もいるだろう。また、アジア系に限らず欧米などからの外国人観光客(インバウンド)と思われる客も目立つ。万年湯でJAPANの「SENTO」文化に初挑戦!という方々も少なくないのかもしれない。
『万年湯』:東京都新宿区大久保1-15-17/最寄駅:JR山手線「新大久保駅」から徒歩約5分/15:00~24:00(土曜休)/料金:入浴550円、レンタルタオル1枚目無料(フェイスタオル)、2枚目以降50円
高円寺の人気銭湯が最先端スポットの地下に出店『小杉湯原宿』
新大久保も韓流の発信地として大盛況だが、それ以上に若者文化や流行を牽引する最先端タウンとして国内外で不動の地位を築いているのが、渋谷区・原宿である。
膨大なファッション・グッズ・ブランドが集結する熱気に押されるかのように、ここ数年で原宿は複数のニュースポット建設が進行。その一つである2024年開業の『東急プラザ原宿「ハラカド」』は、地下1階に新しい「銭湯」があることでも注目された。それが『小杉湯原宿』である。
小杉湯原宿は杉並区・高円寺にある有名老舗銭湯『小杉湯』の2号店。「日常的に街や人に愛される施設を目指す」という理念から、同じく地域と銭湯ファンに愛される小杉湯へ出店のオファーがあり、双方のアツい協力で実現した店舗だ。
脱衣所や浴室内は概ね小杉湯のインテリアを踏襲し、白メインで所々にピンクを用いた床・壁のタイルなどが、生活感ある本店の空気を思わせて和ませてくれる。天井は継ぎ目がない白一色のうえに、壁とは境界が見えないよう曲面で繋がっているので、見上げると頭上に白い空間がずっと続いているような感覚にもなり、地下の店舗とは思えないほどの開放感だ。
浴槽は湯温41.5℃のミルク風呂(入浴剤は小杉湯オリジナル!)、薬湯を兼ねた湯温44℃の高温風呂、水風呂の3種。浴室全体がコンパクトなので本店のようなジェットや座風呂などは無いが、それ以外は高円寺の小杉湯と同じ構成であり、お湯の心地よさや温度調整の妙も本店同様。高温風呂やミルク風呂で温まってから水風呂でキュッと引き締め、カランで休憩してからまた入浴というルーチンを繰り返せば、すっかり心身ポカポカである。
また、小杉湯原宿は湯上がりの休憩スペースもかなり広めに取られており、椅子・テーブルのほか、靴を脱いで上がる畳敷きの小上がり(電源ポート付きのカウンターも完備)まで設けてある。購入したビール・ドリンク類・軽食などを味わいながらくつろげるほか、物販コーナーや展示物・掲示物など、のんびり眺めているだけでも楽しめる場所だ。
おまけに小杉湯原宿はその立地ゆえ、他の場所で観光やショッピングと組み合わせるのにも非常に便利。ハラカド館内でセレクトショップ巡りやカフェ・飲食を楽しむ前後でサッと入れるのはもちろん、竹下通りで最新トレンドを漫喫した後でも、厳かな明治神宮の杜に詣でた後でも利用しやすい。原宿の雰囲気とニーズにベストマッチした「令和の銭湯」である。
『小杉湯原宿』:東京都渋谷区神宮前6−31−21 東急プラザ原宿ハラカド B1F/最寄駅:東京メトロ千代田線・副都心線「明治神宮前<原宿>駅」7番出口から直近、JR「原宿」駅から徒歩約4分/7:00~23:00(木曜休)/料金:入浴550円、レンタルタオル100円(フェイスタオル)、200円(バスタオル)
ギンギン熱々&キンキン冷え冷えの無茶な往復はNG!
なお、温冷交代浴の効果については、一般社団法人日本銭湯文化協会の発行する「銭湯検定」公式テキストに記載があり、要約すると以下のようになっている。
(1) 温かいお湯に浸かると温熱効果で血管が拡張
(2) 冷たい水で血管や筋肉が収縮
(3) (1)と(2)の反復によって血管のポンプ作用がアップ
(4) 血流が改善し、疲労物質の除去やリラクゼーションなどに繋がる
一方、同テキストでは「熱い風呂から一気に冷たい水風呂に飛び込むと、血管や心臓に負担がかかるので良くない」とも指摘されている。いわゆるヒートショックという現象だが、健康と爽快感をもらいに行くはずの銭湯で逆に健康を害してしまったり、命を落としてしまったら元も子もない。高齢者や持病を抱えている人は極端な温冷差を避け、手足への掛け水で身体を慣らすなどして、無理のない温冷交代浴を心がけよう。













