JR埼京線「板橋」駅西口から、旧中山道を直進。首都高下を横断しさらに進むと「板橋宿不動通り商店街」という通りに入る。今回紹介する「花の湯」はこの商店街内にある板橋区、いや東京都を代表する名銭湯のひとつと言ってもいいだろう。伝統的な宮造り建築のシンボルである千鳥破風と唐破風の屋根は、美しい群青色。懸魚には鶴が彫られており、江戸風の短くて白い暖簾は堂々とした風格だ。

「花の湯」へは都営三田線「板橋区役所前駅」から徒歩3分ほど

女将さんの気遣いがうれしい

暖簾をくぐるとすぐ下足箱。こちらの鍵をフロントでロッカーキーと交換する。女将さんは、自分が大きめのリュックサックで来たのを見るや、2つ分のロッカーキーを貸してくれた。フロント前のロビーは7~8人はゆうに入るスペースで、テレビ、ドリンクケース、石けん類のショーケースなどが置かれている。花の湯の屋号の通り、生け花なんかも飾られているのがすてきだ。男湯左、女湯右に進む。

ロッカーは壁側と背側の2面。ロッカーの上にはコンビニで売られている廉価版のコミックが並んでいた。天井高く、ゆったりとした脱衣所は開放感抜群。ほか、腰掛けが2脚、マッサージチェア、自販機、ASANO製のはかり、洗面台など。平日開店後すぐ、7~8人の先客。皆常連通しで、話に花が咲いていた。

46~7℃クラスの深風呂も

男湯のイメージ(S=シャワー)

浴室に入る。桶は屋号入りの黄色桶。ボディーソープ、シャンプー、リンスは備え付けあり。リンスインシャンプーではなく、シャンプーとリンス、なのがニクい。正面にはペンキ絵やタイル絵などはないが、脱衣所と同じく天井は十分な高さがある。湯の種類はシンプルに、浅風呂、ジェットバス、深風呂にサウナ(別料金)がついている。

深風呂には「熱めの湯」のプレートがあり、なるほど46~7℃はありそうな湯だ。ほかは42℃前後くらいの入りやすい湯なので安心してほしい。

ヌルヌルの湯は肌にも優しい

ここまで引っ張ってきたが、花の湯の最大の特徴はなんといっても「軟水」の湯(カラン含む)だ。これが冗談じゃなく本当に足が滑りそうなくらいヌルヌルで、頭のシャンプーはいくら流しても流れていないような気がするほど。日本の水道水はほとんど軟水と言われているが、ここの水は硬度が桁違い。軟水は美肌効果をはじめ、さまざまなメリットが多い水質なので、十分に堪能してほしい。

湯上がりにフロントで再度キーを交換。すると、女将さんは下足鍵と一緒に一粒のキャラメルをくれる。ほてった身体に優しい、花の湯ならではの心遣いだ。一見で来たお客が、いつの間にか常連のひとりのようにリラックスできてしまう雰囲気づくり。そんな気分にさせてくれる銭湯は、実は多くはない。ぜひ一度、実家に帰るような気分で花の湯の暖簾をくぐってみてほしい。

※記事中の情報は2016年10月時点のもの。イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。