毎日おつかれさまです。なにかとストレスの多い現代社会。いろんなリフレッシュゾーンがありますが、特に疲れたビジネスマンにオススメしたいのが日本旅館や和式のビジネスホテル。「たまには仕事を忘れて、畳の上でゴロっとしたいなぁ~」とか、「温泉つかって風呂上りにビール飲みてぇ~」とか……

この連載では、そんな、ささやかな男たちの欲求を満たし、疲れを癒してくれる、知る人ぞ知る日本旅館や和式のビジネスホテルを紹介します。

和風の宿は敷居が高い?

でも、和風旅館って、
「敷居が高くて肩が凝りそう…… 」「宿泊料金とか高いんじゃない?」
「遠くの温泉街や観光地まで行かないとないよね」って思っているあなた。

実は、東京都内にも風情あふれる和風旅館が意外とあるんです! しかも、アットホームで宿泊料金もリーズナブルな宿が! 都内だから、たとえば、仕事を早めに切り上げて、明るいうちからひと風呂浴びて、ビールを飲みながら読書……なんて楽しみ方も出来ますよ。 都心にいながら、どこか遠くへ来たようなトリップ感を味わえるのも和風旅館の魅力。さあ、日頃、忙しくて読めなかった文庫本をカバンに入れて、すぐそこにある癒しの世界へ旅立ちましょうーー。

高級下宿から和風旅館へ

今回紹介するのは、杉並区荻窪の「旅館 西郊」。JR荻窪駅から徒歩約6分の閑静な住宅街にある旅館 西郊の創業は1930年(昭和5年)。関東大震災で被災し、現在の荻窪に移転した一家が、元々文京区で営んでいた下宿が、そのルーツです。

レトロモダンな外観の下宿「西郊ロッヂング」を開業し、その7年後の1937年(昭和12年)に、青銅のドーム屋根が特徴となる新館を増築。本館・新館ともに当時は珍しかった全室洋間の高級下宿だったそうです。

  • 古き良き旅館の佇まい

  • 歴史を語りかける本館の玄関

今では、活気あふれる荻窪の街ですが、文京区から移転した頃は、武蔵野の雑木林や田畑が広がる東京西部の郊外だったそうです。当館の名前「西郊」には東京中心部から西の郊外の意味が込められています。


こう語るのは三代目オーナーの平間美民さん。移転した当時、荻窪は東京郊外の別荘地として人気が高く、政治家、軍人、作家などが静養の地として好んだとのこと。

また、関東大震災を契機に都心からの移住者が増加し、急速に宅地化が進んだそうです。下宿だった本館の内部を和室に全面改装して「旅館 西郊」へ転業したのは1948年(昭和23年)のこと。

一方、「西郊ロッヂング」(現新館)は、2000年に改装されて賃貸アパートメントに生まれ変わりました。レトロモダンな外観と内装が人気で、つねに満室だそうです。中には数年待ちの入居希望者もいるとか。どちらも歴史的建造物であることから、2009年に国の登録有形文化財に登録されました。

  • 本館に隣接する「西郊ロッヂング」

  • 格子戸を開けて玄関へ

  • 風情ある玄関

  • 手入れの行き届いた中庭

  • 中庭を囲む廊下

  • ガラスには扱い注意のお願いが

オーナーの思いを感じる館内

旅人を迎えてくれるのは、昭和の面影を留める意匠や設備・備品の数々。池のある中庭を囲む廊下のガラス戸には、今では製造困難とされる微妙に波打つガラスが使われています。

そこには「貴重なガラスなので大切に扱ってください」という意味のお願いが掲げられていました。古き良き物を後世に残したい、というオーナーの思いが伝わります。今回も素敵な宿との出会いに感謝。

平間さん:建物は古いですが、大切に維持しているので、リアルな昭和の世界を体験できると思います。和室に全面改装した昭和23年以来、大きな改装を行っていないので、その当時の職人の技や懐かしい設備・備品を館内のいたるところで見ることができます。


  • タイルを張ったレトロな洗面場

  • 時の流れを感じる階段の手すり

  • 客間には花や樹木の名前が

  • 情緒ある丸窓

  • 明るい陽が射す廊下

  • 非常口の表示板にも年季を感じる

隅々にあふれる昭和の手触りと味わい

館内を一巡してから、いよいよ客間を拝見。ふすまを開けると、そこには時間が止まっているかのような懐かしい和室がありました。見渡すと客間の造りだけでなく、座卓、座椅子、電気スタンドなどの備品もノスタルジック。

鏡台の布カバーなんて懐かしくて泣けてくる……。また、すべての客間が中庭に面して窓を設けてあるので、どの部屋からも風情ある庭を眺めることができます。見事な藤棚のある庭の池には、カルガモも遊びにやってくるとか。まるで昭和の時代にタイムトラベルしているかのようなトリップ感を味わいました。

  • 清掃が行き届いた客間

  • こちらは二間続きの客間

  • 玉石を散りばめた昔ながらの踏込

  • レトロ感あふれる鏡台

古き良き佇まいを永遠に

平間さん:当館には、ビジネスで東京にいらっしゃる方だけでなく、この建物を見るために泊まられるお客様、近郊からくつろぎの時間を求めていらっしゃるお客様も多いですね。また、最近は外国人のお客様も増えつつあります。気軽にジャポネスクを楽しめるので、リピーターになる外国人のお客様も多いですよ。また、宿泊だけでなく、広間を宴会やサークル活動の会場として利用されるお客様もいらっしゃいます。この古き良き佇まいを後世に伝えていきたい、それが私たちの願いです。


というわけで。今回の取材も無事完了! さあ、風呂入ってビール飲むぞ~

  • 宴会や趣味の集いにも使える広間

  • ビール&読書をしたくなる広縁

  • テレビや映画のロケに使われることも

  • レトロな丸窓

  • お手洗いに敷き詰められた玉石

  • 随所に光る職人の技

<問い合わせ先>
旅館 西郊
住所 〒167-0051東京都杉並区荻窪3-38-9 03-3391-0606
交通アクセス JR荻窪駅・東京メトロ荻窪駅 徒歩約6分