10月12日は山手線の路線名が命名された日、というのをご存知でしょうか? 1885(明治18)年に品川~赤羽間が開業した同路線は、「山の手」を走ることが由来となり、1909(明治42)年10月12日に山手線と名づけられました。

そんな歴史ある山手線の横を走っていたのが山手貨物線(現在は埼京線や湘南新宿ラインなどで使用)。ここでは年に数回、極めて貴重な列車が走っていました。原宿駅の宮廷ホームから発着する「お召し列車」です。

お召し列車とは、天皇・皇后両陛下が利用するために運転される特別臨時列車のこと。当時、両陛下が須崎御用邸(静岡県)や那須御用邸(栃木県)でご静養される際、157系電車4両に皇室・国賓専用貴賓車クロ157が連結され、5両編成で運転されていました。

157系電車は1959(昭和34)年に製造され、東京~日光間を結ぶ準急「日光」に投入されたことから、「日光型電車」とも呼ばれました。

晩年は東京駅から伊豆方面を結ぶ特急「あまぎ」で活躍し、1976年に引退。ただしクロ157を含む編成は、その後も1980年頃まで活躍を続けました。

やがてクロ157の牽引役は、特急「あまぎ」の後継車である183系1000番台へ、さらに185系へと引き継がれました。

お召し列車が運転される日、その沿線や、利用客の多い山手線のホームには多くの警官が配置され、警備にあたっていました。

ちなみに筆者は、お召し列車を撮影するためにホームの端で待機している間、突然、私服の警官から身分証明の提示を求められたことがあります。持っていた学生証を見せると、今度はカメラバッグの中もチェックされました。

ひょっとして、不審人物と疑われたのでは……?

そんな不安をよそに、私服の警官はその場にいた数人の鉄道ファン全員に対して、同様のチェックを行っていました。その様子を見ながら、なにやらほっとした筆者。いまとなっては懐かしい思い出です。

今回紹介した「鉄道懐古写真」

撮影時期 写真の説明
写真1 1979年10月 原宿駅の宮廷ホームに入線する157系お召し列車
写真2 1979年10月 宮廷ホームのお召し列車と山手線103系。お召し
列車の運転時には、宮廷ホームの照明が点灯する
写真3 1979年2月15日 お召し列車の運転台で、なんと4名の乗務員が
指差確認中。その重責がうかがえる
写真4 1979年2月15日 天皇・皇后両陛下ご乗車中のクロ157に御紋章が
写真5 1980年12月2日 山手貨物線を走行する183系7連のお召し列車。
ヘッドマークはクリーム色の無地だった
写真6 1980年12月2日 183系に挟まれたクロ157。屋根の高さの違いが際立つ
写真7 1980年12月2日 103系の真横をお召し列車が通過する。その場に
居合わせた人たちはびっくりしたに違いない
※写真は当時の許可を取って撮影されたものです
松尾かずと
1962年東京都生まれ。
1985年大学卒業後、映像関連の仕事に就き現在に至る。東急目蒲線(現在の目黒線)沿線で生まれ育つ。当時走っていた緑色の旧型電車に興味を持ったのが、鉄道趣味の始まり。その後、旧型つながりで、旧型国電や旧型電機を追う"撮り鉄"に。とくに73形が大好きで、南武線や鶴見線の撮影に足しげく通った