西武鉄道が約半世紀にわたって「休止」していた安比奈線の廃止が決まりそうだ。安比奈線は西武新宿線南大塚駅(埼玉県川越市)から北東方向へ3.2km、入間川の砂利採取場まで通じていた貨物線だ。開業は1925(大正14)年。関東大震災の復興のため、建設資材として砂利の需要が高まり、入間川の砂利を運ぶ目的で建設された。
しかし、長年の砂利採取によって河川の環境が変わり、下流で洪水などの被害が発生する懸念があった。そこで砂利の採取が規制され、1963年に安比奈線は休止扱いとなった。その後、西武鉄道による車両基地建設計画や、地元の川越市から旅客線化要望などがあったものの、どちらも進展しなかった。そして2016年2月10日、西武ホールディングス(西武鉄道の持株会社)が「特別損失(減損損失)の計上に関するお知らせ」として、安比奈車両基地用地整備計画の廃止を発表した。
今回は安比奈線について紹介しようと思ったけれど、すでに本誌連載「鉄道トリビア」第153回「半世紀近く列車が走っていないのに廃止されない路線がある」で紹介している。建設の時代背景、廃止されなかった事情などの考察、その後の動きも紹介済みだ。
安比奈線の車両基地建設は、西武新宿線の沿線人口の増大を見込んで、西武新宿線の複々線化を進めるために計画された。線路を増やせば車両も必要になる。しかし、現在は少子高齢化傾向となっているため、鉄道会社は旅客増を見越した投資には消極的だ。「鉄道トリビア」第153回で「西武鉄道は2018年まで事業計画を延長する」という話を紹介したけれど、結論は繰り上げられて「廃止」となるようだ。
東京都内にまだある休止路線
鉄道の休止路線は、鉄道会社が開業した路線のうち、何らかの事情があって列車の運行を取りやめ、しかし廃止届を出していない路線である。ただし、3月に復旧するJR名松線家城~伊勢奥津間や東日本大震災で被災した路線のように、災害などによる不通路線は除く。これらは運休中の路線で、鉄道会社としては復旧の予定がある。
休止路線は、どちらかというと「廃止の一歩手前」という状況だ。緊急に復旧するつもりはなく、将来、路線や線路用地を再利用するために、廃止手続きをしないままとなった路線である。西武鉄道は安比奈線を半世紀以上も休止していたけれど、休止路線は他に東京都内にもある。東京都専用線小河内線だ。官営鉄道だった青梅線氷川駅と水根駅を結ぶ6.7kmの路線で、氷川駅は現在のJR奥多摩駅。つまり、青梅線の終点からさらに先へ線路があった。
小河内線は、その名が示す小河内ダム建設の資材輸送を担っていた。しかしダム建設後の1957(昭和32)年に役目が終わり、休止となった。もともとダム建設完了後は観光路線とする構想もあっただけに、この路線を観光開発が得意な西武鉄道が譲受した。
ところが、小河内ダム(奥多摩湖)は水源だから、環境維持のために開発が制限されてしまう。したがって小河内線の観光鉄道としての復活はならず、小河内線は地元企業の奥多摩工業に譲渡された。その後、現在まで廃止届が出されていないため、休止路線のままになっている。事実上の廃止状態だけど、鉄橋やトンネルが残っており、関東在住の廃線・廃墟ファンからは手頃な訪問地としても知られている。
トンネルの多い路線だけど、明かり区間は並行する国道より高いところを走る。再整備してトロッコ列車を走らせてもらえたらうれしい。しかし、安全整備にも投資が必要という。現役時代から落石などの危険が指摘され、土砂に乗り上げた列車の転覆事故も起きた。こちらも再開は難しそうだ。