国土交通省は16日、南阿蘇鉄道の鉄道施設災害復旧調査について報告書を作成し、ウェブ上で公開した。復旧費用は総額で約65億~約70億円、工期は設計着手から完成まで最長5年と算出された。この数字は被災時に報じられた見込額の数十億円に近い。
災害復旧の事例として引き合いに出される三陸鉄道の全線復旧費用は約92億円だった。JR東日本の山田線のうち、壊滅した海岸区間の現状復旧費は140億円。ただし、実際は路盤のかさ上げなど改良費の約70億円が加算されて、約210億円かかる。これらに比べると、総額約70億円は小さく見える。
しかし三陸鉄道の被災距離は96.5km。山田線は55.4kmだった。南阿蘇鉄道の被災距離は9.1kmだけと短い。1kmあたりの復旧費用を比較すると、三陸鉄道は約9,500万円、山田線は改良費を含めて約3億8,000万円。これに対し、南阿蘇鉄道は約7億7,000万円となる。
三陸鉄道は自治体が線路施設を引き取って整備し、上下分離化を図って再生させた。実質的にはほとんど国費で復旧できた。「三陸鉄道は特別だ。南阿蘇鉄道には同じルールは適用できない」という論調もあるようだけど、数字で見れば南阿蘇鉄道のほうが被害甚大、三陸鉄道よりも深刻な事態だ。三陸鉄道と同じか、それ以上の手厚い施策が必要だ。
三陸鉄道はおもに津波被害だった。悲惨な風景が報じられたけれど、もともと高規格で建設され、トンネル区間も多く、壊滅区間の合計は約6km。その短い区間に復旧費用の大部分が必要だった。局地的な被害は大きい。しかし全区間を平均すれば低くなる。
南阿蘇鉄道は山崩れの被害だった。2つのトンネルは内部の壁が崩落するおそれがあり、山ごと横にずれている部分もある。2つの鉄橋は橋脚がゆがみ、基礎にひび割れができた。不通区間の10.5kmのうち、この4カ所は立野~長陽間(4.7km)にあり、不通区間の約半分にあたる。残りの長陽~中松間(5.8km)も、盛土や軌道の変状などが20カ所もある。不通区間のほぼすべてが局地的被害といえて、1kmあたり復旧費用が大きくなった。
南阿蘇鉄道不通区間の被災状況と復旧手順を見てみよう。
全長125mの犀角山トンネルは、高森側の約40mが山ごと横ずれを起こしている。内壁も損傷だらけだ。このトンネルの復旧にあたって、まず横ずれの40mについては山ごと取り崩して明かり区間にする。この場所は隣接する第一白川橋りょうの作業場として使う。トンネル内は3カ所、計30mでロックボルトを打設し、地山を固める。
ロックボルトの打設は、トンネル内部から外側へ向けて、つまり山の中に無数の長い鉄製ボルトを突き刺す作業となる。針鼠のような状態となって地山を支える柱の役割になる。新規にトンネルを掘るときに使うNATM工法とほぼ同じ。掘る手間がないだけで、新しいトンネルと同じくらいの作業量になる。
第一白川橋りょうを挟んで反対側、全長904mの戸下トンネルは立野側の入り口から120mまでの被害が大きく、トンネル内壁と地山の間に空洞ができた。最も深刻な60mについては、ロックボルトを打設した上で、内壁と地山の間の隙間を埋める。これ以外の大部分は内壁のひび割れや崩落、排水不良が起きているため、全体的に軌道と排水溝の作り直しと壁面の補修が必要となる。この2つのトンネルについては、設計着手から3年程度の工事期間で、概算復旧費用は合計約20億~25億円と見積もられた。
2つのトンネルに挟まれた第一白川橋りょうは鉄骨で構築されたアーチ橋で、立野側の鉄骨組のゆがみが多く、架け替えが必要になる。基礎部分も補強が必要だ。復旧にあたり、まず犀角山トンネルの一部を削り取った場所に作業基地を設置。次に鉄橋両側の斜面を補強し、撤去中の橋脚を支えるブロックを設置する。続いて橋脚基礎部分の補強、両岸に鉄塔を建て、鉄骨撤去用のワイヤークレーンを設置。古い鉄骨の撤去と新規設置を行う。
第一白川橋りょうの復旧は設計着手から5年程度の工事期間で、概算復旧費用は合計約40億円と見積もられた。一方、立野駅側の立野橋りょうは大きな変異や損傷は確認されなかった。しかし、橋脚についてはひび割れ、アンカーボルトの抜けなどが見つかり、補修部分が多い。立野橋りょうとトンネル、鉄橋以外の補修については、合わせて工期1年、費用合計約5億円と見積もられている。
区間ごとに見ると、大がかりな工事が必要な区間は立野~長陽間で、再開までは5年以上かかる。しかし、長陽~中松間は1年程度の工事期間となっている。こちらが先行開業できれば、現在、中松~高森間で運行している区間を長陽~高森間に延長できる。トロッコ列車のゆうすげ号の売上げも増やせそうだ。
熊本日日新聞によると、国土交通省は災害復旧の国庫補助率を25%から50%に引き上げた上で、地方交付税措置で自治体の負担も減らす案を検討しているという。
国土交通省の報道発表資料は次のような言葉で結ばれている。
南阿蘇鉄道の復旧に当たっては、地域公共交通としての役割・機能や観光圏や広域周遊ルートにおける位置付け等を踏まえ、当該鉄道路線を将来にわたり復興後の南阿蘇地域の地方創生等に資するものとする必要がある。
このため、他地域において地域鉄道の活性化に成功している事例等も参考にしつつ、長期的なビジョンを持って、復旧の在り方を検討することが重要であると考えられる。
国の手厚い支援を受けるために、南阿蘇鉄道が「地域の交通に貢献している」「観光資源として国内外から人気がある」など、復旧させる価値があると示さなくてはいけない。私たち鉄道ファンにもできることがありそうだ。応援しよう。