バルミューダを「デザインとテクノロジーの会社」と語るのは社長の寺尾玄氏。1つの製品が誕生するまでにデザインをのべ2,000~3,000通りも検討しているそうで、そこから最後の1つに絞り込んで世に送り出しています。

2024年4月に発売したオールシーズンファン(扇風機)の「GreenFan Studio(グリーンファンスタジオ)」も、そんなプロダクトの1つ。そこに込められているバルミューダらしいデザインの考えと、扇風機の新しい提案について、寺尾社長とプロダクトデザイナーの和田さんが語りました。

  • プロダクトデザイナーの和田智さん(左)とバルミューダの寺尾社長(右)。和田さんがドイツから帰国して日本で独立したころ、最初の仕事はイッセイミヤケ、そして2つめのクライアントがバルミューダでした。かれこれ12年~13年の付き合いになるそう。中央右側の扇風機が新製品の「GreenFan Studio(グリーンファン スタジオ)」です。中央左側は従来モデルのグリーンファン

グリーンファンスタジオは、1年中使える扇風機

グリーンファンは、バルミューダが家電メーカーとして躍進するきっかけとなった製品です。独自の二重構造を持った羽根とDCブラシレスモーターを組み合わせたこの扇風機は、風が心地よいと多くのユーザーから支持され、現在もロングヒットを続けています。

新製品のグリーンファンスタジオは、一般的な扇風機と比べて約4倍に広がるという大きな風が特徴。自然界の風の快適性と、約23メートル先まで届くパワフルさを備えています。

しかも最大の風量にしても意外と静か。風に当たって涼むほかにも、冷暖房使用時の空気のかくはん(サーキュレーター的な使い方)、室内干しの洗濯物に風を当てて乾かす、換気をするときに部屋の空気を外に追い出す――といった用途にも使えます。公式オンラインストアの価格は42,900円。電気代の目安は、風量1で1日8時間、30日使用した場合で約11円(1kWhあたり31円で計算)。本体サイズは幅598×奥行き520×高さ900mm、重さは約3.6kg、電源コードは約3mです。

  • 扇風機の要となる羽根は独自の二重構造。写真は初代モデルを開発していたときの羽根の試作

  • 天面部分の操作部はシンプルなボタン式

風量調節は5段階。切タイマーは1・2・3・4時間。自動首振りは左右それぞれ最大75度です。高さは変えられません。ここ注意です。

手動の角度調節は、左右それぞれ75度、上向きに24度、下向きに11度。最大で約23m先の空気を動かせるため、部屋で使うほかにも、廊下の端から使ったり、階段下から上階に向かって風を送ったり、クローゼット類の空気を動かしたりしたいときにも活躍するでしょう。

なお真上は向かないので、部屋干し洗濯物の乾燥に使うとき真下から風を当てるというよりは、少し離れたところから広く風を当てて乾かすイメージです。それでも自然乾燥と比べて約3分の1の時間で乾燥できるとしており、生乾きの臭いなどを防ぎます。

グリーンファンスタジオのオシャレなデザインはホコリがつくと台無しなので、こまめにお手入れしたくなりますが、ファンガードやガードホルダーなどのパーツは取り外して水洗い可能です。

実際にグリーンファンスタジオの風に吹かれてみましたが、優しく気持ちよいのは従来モデルと代わらず。暑い季節、仕事の思考やリラックスした気分をサポートしてくれそうです。三脚を思わせるデザインは、季節を問わず部屋に置きっぱなしでも違和感がありません(置き場所はまた別問題ですが……)。本体カラーはブラックとホワイトに加えて、オンライン限定でホワイト×ブラック(4月下旬発売)も用意します。

  • 公式オンラインストアでの販売価格は42,900円。写真はホワイト

  • オンライン限定モデルのホワイト×ブラック

  • グリーンファンスタジオの発表会には、初代グリーンファンも展示されていました。バルミューダの歴史について寺尾社長が語るとき、飛躍のきっかけになった製品の1つとして話題に上るグリーンファン(初代)です

寺尾社長は、ここ最近「窓を開けないライフスタイル」が一般的になってきたと話します。「扇風機、サーキュレーター、換気扇、部屋干しの乾燥、これらを優れたデザインで1つにまとめたらすごく便利。バルミューダは次世代の扇風機を提案できるのではないか」(寺尾社長)と考え、グリーンファンスタジオを開発したとします。

  • 風量を上げると本体のガタツキが心配ですが、回転数を調整しつつ、揺れを抑えるため脚の裏にゴムを配しています

バルミューダは、グリーンファンスタジオ「革新的で美しいオールシーズンファン」としています。季節を問わずに使うためには、デザインが重要でした。

ドイツの自動車メーカー、アウディのカーデザインで知られるプロダクトデザイナーの和田智さんは、従来の扇風機のシルエットには夏に置く雰囲気があるため、冬の部屋にはそぐわない感じがしますが、3つの脚で立つグリーンファンスタジオの姿は季節を感じさせず、「触った感触や雰囲気もよく、これなら1年を通して自分の事務所に置きたい」と印象を語りました。

  • 和田さんの手前にあるのが、いわゆる一本足のよくある扇風機のカタチ。これだと「扇風機は夏に使う家電」というイメージが想起されるため、1年中使うには課題を感じたとのこと

  • アトリエに置いたイメージ。三脚のようなスタンドが印象的です。和田さんからは「まるでオブジェ」という評価も

「ケーブルマネジメントがポイントなんです。この径でケーブルを巻くことがデザイナーのこだわり。“よれ”たくなかったんです。同軸ケーブルにして張りを持たせて、巻いてもよれないケーブルを特注で作っています」(寺尾社長)

  • 三脚のたたずまいはもちろん、電源ケーブルもポイントと話す寺尾社長

  • 電源ケーブルはこんな感じで巻いて本体に引っかけ、美しくまとめられます

  • ケーブル、脚の形、触ったときの感覚など、考え抜いて整えられています

和田さんも「こういうケーブルだったら部屋に置いても納得できる」と笑顔。また、最近の家電はタッチ式の操作パネルで平らな部分を触ることが増えていますが、バルミューダの製品はボタンの手触りやケーブルの巻き方など立体的な感触にこだわりがあることに注目し、「新たな時代のファンクショナリズム(ムダを省き機能的で合理的なデザインを目指す考え)を形成している」(和田さん)としました。

これを受けて寺尾社長は、バルミューダがデザインを重要視している理由を改めて語り、それは離れたところから見ても製品の印象が決まるから。そんなデザインを決める上で寺尾社長が大切にしていることとして、「新しいものは次の日から古くなる。美しいものは100年たっても美しい。だから美しいものを作らないといけない」という和田さんの言葉を挙げました。

  • 「クラシックとは何か」について話す和田さんと寺尾社長。和田さんは欧州でカーデザインに携わっているときに、ヨーロッパで大切にされている「クラシック」について深く考えたそうです。それは単に古いというだけでなく、長い時間をかけて愛されてきたものであり、「生きていくために本当に必要なのは何かを見抜けること。その概念そのものがクラシック」――。和田さんがデザインを考える上で大切にしていることだそうです。その考えは寺尾社長にも伝えられています

和田さんがデザインで大切にしている「クラシック」。その考えは共同作業を通じて寺尾社長やバルミューダのデザイナーにも浸透していきます。

「我々が考えるクラシックとは古くから残っているもの。なぜ残るのかというと、尊いから。人々がなんらかの尊さを感じたからきっと残っている」(寺尾社長)という解釈をした上で、バルミューダ製品のデザインを考えているとのこと。具体的には、「慎ましく美しくあること、健康的であることをどの製品にも織り込む」(寺尾社長)ことを意識してデザインしていると語りました。

  • グリーンファンスタジオの発表会には、製品の形に至るまでのデザイン案が展示されていました。清潔で、安っぽくなく、そして長く愛されるために誕生した美しいデザインが、今回のグリーンファンスタジオでも踏襲されています

筆者はクラシック音楽が好きですが、旋律や和音の中で作られる響き、当時の楽器とともに育ってきた音作り、さらにその音楽がどういう場所でどんな人が聞いて愛されてきたかという歴史も含めてとても好きです。それは、流行したのち時代遅れになってしまうものとは異なり、時代を超えて愛される存在。そう考えてみると、家具や車にはそういう一面がありますよね。

バルミューダの家電をなぜ部屋に置きたくなるのか――。今回のグリーンファンスタジオのように、新しい扇風機の使い方を提案し、時代を超えて愛されるデザインを備えた存在になりつつあるからかもしれません。

  • 2023年12月期の決算説明会で寺尾社長は、「2024年の位置付けは、何がなんでもというつもりで、通期での黒字回復を達成したい。達成させるために色々な施策を打っている」と話しており、その施策の中で挙げていた製品が2024年2月発売の「ReBaker(リベイカー)」と、今回のグリーンファンスタジオです