のんびり走り、小刻みに停車し、待たずに撮れる路面電車。手軽に撮影できるが、目指す作品によっては撮影が新幹線よりも難しくなるとプロは語る。レアな車両を狙うとなればなおさらだ。その意外な難しさから、簡単に撮影するためのヒントまで、マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにうかがった。

特定の車両をすっきり撮るのは高難度

函館市電のレトロ車両「箱館ハイカラ號」。一両しかないので、撮影場所を1カ所に限定するとシャッターチャンスはローカル線並みに少ない。ダイヤはWebサイトで確認できる

一口に路面電車と言っても、軌道や車両の形態は様々である。したがって「どう撮りたいか」によって、撮影は簡単にも難しくもなるのだ。記念撮影としての簡単な撮影方法は、本ページミニコラムに記したので参考にしてほしい。

今回長根さんは、「函館ハイカラ號」をレトロな建物とともに、できる限り人や車を入れずに撮りたいと考えた。同車両がここを通るのは1日4回(日によって変動あり)。そのうち順光になるのは午後の2回だけだ。「とても難しい撮影でしたよ」と、天を仰ぐ長根さん。いつもはこちらだけを見て淡々と話してくれるので、こんな表情をするとは意外な展開だ。

撮影は三脚を使用せず、手持ちで行った。「人や車の往来がありますから、機動力のある装備がベストです。その他の機材もできるだけ小さくして、動きやすくするといいですね」。では長根さんはどんな風に機材をコンパクトにしているのだろうか。「僕の場合は、いつでもフル装備なんですよ。いつもは2台持つカメラが、1台になるくらいかな」。常に妥協のない長根さん(6回目参照)には愚問だった……。

作品作りを意識した場合の軽装備のアドバイスとしては、「広角から望遠までを、2本のレンズでカバーするのがいいでしょう。24~100mm程度、100~300mm程度の組み合わせがおすすめです(35mm判)」とのことだ。

シャッタースピード優先。最後は「運」

さて、路面電車の最高速度は、法令で40km/hと決まっている。「普通の列車より遅いとはいえ、動いているものですから露出はシャッタースピード優先です。1/500は確保したいですよ」。ちなみにこの作品の撮影データは1/1000、f7.1(ISO400)。

撮影のタイミングは、信号が青になり、電車が近づいて来たとき。当然、人や車も動き出すわけで、「避けられるのかどうかは、運としか言いようがないです」と再び天を仰ぎ、目をかたく閉じた。「だから、ここには2日間通いましたよ~」。300km/hで走る16両編成の新幹線を一発でしとめるプロが、かわいい路面電車に苦戦していたとは。プロがかわいく見えてきた筆者だった。

「出来映えはほどほどでいいから、安全に楽しく路面電車を撮影したい」という方向けの方法はあるだろうか。「電停の安全地帯からなら、車にかぶられにくく、安全に撮れますよ。街の雰囲気までは表現しきれませんが、記念撮影としては十分です」。下の例を参考に、街歩きを楽しみながら、路面電車らしく撮影できる電停のロケハンからはじめてみよう。

ミニコラム・路面電車お手軽撮影のヒント
(長根さん談・筆者撮影)

A: 跨線橋から撮影
「街の雰囲気と電車が安全に撮影できるのでおすすめ」。

B: 専用軌道の電停から撮影
「記録として車両だけを撮影したいのなら、車が入ってこない専用軌道で撮影するのがベスト。路面電車らしさに欠けますが」。

C: 併用軌道の電停から撮影
「安全な立ち位置を選びましょう。出来映えを決めるのはくどいようですが、運です」。

D: センターポール区間の電停から撮影
「路面電車独特のポールです。路面電車らしさがある反面、車両をすっきり撮るのは難しいです。ロケハンのときには、ポールの形にも注意しましょうね」。