鉄道車両に興味はなくても、「線路のある風景は好き」という人は多いのではないだろうか。特に、輝いているレールは美しい。線路の輝きはオートモードでも撮影できるし、自然の美しさとからめて、マニュアルで深みのある作品に仕上げることも可能だ。その極意をマシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにうかがった。

輝きの条件は「逆光」

房総半島のJR久留里線で。撮影は12月。ススキの穂が開く時期は地域差が大きい

この作品が撮影されたのは、15時~16時頃。低い太陽に照らされて輝くレールとススキが存在を引き立てあい、鉄道写真とネイチャー写真の垣根を取り払ったような作品だ。長根さんは、このようなイメージ写真を積極的に撮影している。撮影のチャンスは、ローカル線で列車が1時間近く来ないようなときだ。

レールの輝きを撮影するのは、意外に簡単。「肉眼でレールが輝いて見えるときは、一般的なオートモード(複雑な補正機能を伴わないもの)でも、コンデジ(コンパクトデジタルカメラ)でも、携帯カメラでも、輝いて写りますよ。ススキの輝きも同じです」。

では、いつレールは輝くのか。その条件はただひとつ「逆光」である。太陽はもちろん、ヘッドライトや電灯で輝くときも、すべて逆光であることを覚えておこう。露出はカメラまかせでいいので、下のイラストを参考に構図作りに集中しよう。「主題をススキ、副題を線路に設定し、余計な要素が入らないように大胆に切り取るのがポイントです。結構、苦労しましたよ」。なお長根さんが選択したレンズは、70-200mmズームの135mm付近(35mm判フイルムカメラ。以下同様)。

マイナス側に段階露光し、印象を深める

一歩進んで、これを作品に高めよう。鉄道写真の露出の基本はシャッタースピード優先だが、それは動いている列車を撮影する場合のこと。動かないものであれば、風景写真やネイチャー写真のように自由に露出を選択できる。列車がない時間帯には、頭を切り替えるのだ。

「マニュアルモードにして段階露光をするといいですよ」と長根さん。構図とシャッタースピードを固定し、絞り値(f値)を何段階かに変えて撮影して、被写界深度と明るさが異なる写真を押さえておく。後から、最も自分の気持ちに合ったものを選び、発表するのだ。長根さんのアドバイスは「カメラが適正とした絞り値より、アンダー側に3段階くらい撮影してみましょう。黒くつぶれた部分ができるくらいアンダーにすると、印象的な作品になりますよ」。

コンデジや携帯カメラの場合は、前回(27)で紹介した「露出補正」で同じような作業ができる。この作品の撮影データは、1/125、f11(ISO100)。

ところで、こんなにいい条件の午後、列車を撮れる場所に移動しなくてもよかったのか。長根さんに尋ねると「これだけいい雰囲気のススキとレールがあれば、車両の存在にはこだわりませんよ」と、あっさり語った。車両の存在に縛られず、目の前の感動をシンプルかつ確実に写す。このくらい柔軟な気持ちで、線路端に立ちたい。

「タブレット交換」があるJR久留里線

(筆者撮影)

千葉県の木更津と上総亀山を1時間ほどで結ぶ、非電化・単線のローカル線。横田駅、久留里駅では懐かしい「タブレット交換」が行われている。久留里は名水の街で、駅前のレトロな通りには江戸時代から続く数カ所の井戸や、造り酒屋がある。首都圏からの日帰り旅行におすすめだ。