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署名、メモ、手紙…パソコンがどれだけ普及しても、私たちは「手書き」から逃れることは困難です。とすれば、誰もが「少しでも字をキレイに書きたい」という思いを隠し持っているのではないでしょうか?

この連載では、ペン字講師の阿久津直記さんに「そもそもキレイな字とは何か?」から、キレイな字を書くために覚えておきたいペン字スキルまでご紹介いただきます。
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ちょっとした上達への近道を紹介(画像はイメージ)

さて今回は、ちょっとした上達への近道をご紹介しようと思います。

先日とある動画セミナーの撮影の際、受講生が二人いたので、Beforeを書いたあとに、それぞれの字を見てどのような癖があるのかを挙げる、という時間を設けました。すると、いろいろな意見、印象がすぐに挙げられ、全て的を射ているものでした。

実は、悪筆で悩む方の多くは癖が顕著に表れており、たとえ書家でなくても気づくことができます。そもそも、気づかれてしまうから悪筆が気になるんですよね。逆に、他人の気づく印象をひとつずつ直していけば、悪い印象はなくなるということ。簡単な話ですね。

しかし、人と字を交換して駄目出しをし合う、何て機会は日常まずないでしょう。そこで、自分自身で赤ペンを入れてみます。実際、私の話を2~3時間聞いてくださった方に、「Beforeを自分で添削してみましょう」と言うとすぐに真っ赤になります。それが今、自分自身の癖だということ。

重要なのは、それらを一気にすべて直そうとするのではなく、「ひとつずつ修正して、正しく癖づけていく」ことです。ひとつのことを直すだけでも常に意識しなければならないので、複数を同時にやろう、カンペキを目指そう、何て無理な話なんですね。

それでは、すぐにできる添削のポイントをご紹介しましょう。

セルフ添削のポイント3つ

1.横画の確認
漢字は特に横画が多いので、横画に癖があると大きく印象が変わります。乱雑、癖字等は横画を直すだけで改善できることもあるので、まずは見てみましょう。

・短い横画が、極端な右上がりになっていないか(4~5度上がりがベスト)
・短い横画が、右下がりになっていないか(下がるのは原則NG)
・長い横画が、直線になっていないか(緩やかな山なり)
・間隔は均等か

簡単ですね。特に短い横画は、原則として、『すべて等間隔・平行』を目指しましょう。長い横画は第10回でご紹介しましたが、1文字につき1本しか必要ありません。

2.線の安定と点画
点画というのは、ハネ・ハライと呼ばれるものです。以下の点を確認してみましょう。

・トメは、止まっているか
・太さは安定しているか
・真っすぐであるべき線(特に縦画)は、ゆがんでいないか
・ハネ・ハライは、太さがゼロになっているか

私は書籍でお手本を一文字ずつ編集・加工するのですが、それは一本一本の線が安定していて、点画が『正しい』からです。ちょっとくらいずれていても修正できます。しかし、線がふにゃふにゃしていたら修正のしようがありません。それくらい、線の"安定"は重要なのです。環境・書き方を工夫し、太さの安定した線を書いてみましょう。

3.接するべきところは接しているか
第12回でご紹介する予定ですが、筆文字の原則は、『既に書いた線の中から書き出す』です。つまり、"日"の3画目・4画目の書き出しは、1画目から離れてはいけません。これができていないと乱雑に見えてしまいます。

上記の3つを確認し、できていない点に赤丸をつけてみましょう。そして、複数の項目に当てはまっている場合には、1から順に直す意識を持ってみましょう。私のご紹介するルールのような書き方をどんなに理解しても、これらができていなければ癖字・悪筆は治りません。

そもそも、このような基本中の基本ができていなければ、どんなにうまいお手本をまねて練習しようとしても効果が圧倒的に薄くなります。まずは根本的な癖を自覚し、修正してみましょう。


阿久津直記
ペン字講師。Sin書net代表。1982年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。6歳から書写を始め、15歳から本格的に書道(仮名)を学び、18歳で読売書法展初入選。23歳で書家の道を辞し、会社勤め時代に立ち上げに携わった通信教育で企画・運営を行う。2009年にSni書netを設立。著書は『たった2時間読むだけで字がうまくなる本』(宝島社新書/2013年)、『ボールペン字 おとな文字 練習帳』(監修/高橋書店/2013年)など。ブログ「恥を掻かない字を書こう」