若い世代のビジネスマンにとって、社内外でのコミュニケーションが悩みの種である人は多い。そんな人にもってこいなのが『お笑い』のスキルである。
ここでは、芸人として6年活動するもトリオを解散。その後、新たな人生のスタートとして企業コンサルや人事業務の経験を積み、芸人向けの人材サービスやお笑いを取り入れた企業コンサルを行う「芸人ネクスト」の代表取締役社長・中北朋宏氏に『スベらない仕事術』を聞いてみた。第5回のテーマは「コミュ力を上げる方法」。
目的のないコミュニケーションで力はつかない
コミュニケーション力に不安がある人は「何を喋ればいいかわからない」と悩むことが多いだろう。中北氏は「それなら喋ることを事前に考えていけばいいです」と打開案を提示する。
「コミュニケーションにも目的は存在します。なんとなく喋っていても、コミュニケーション力はつきません。そのために事前準備をすべきです。誰かと喋るときは、お土産話・質問を必ず持っていくようにする。これだけで『何を喋ればいいのか』問題は解決です」
芸人としても活動した中北氏だったが、中学生の頃までは人前で喋ると顔が真っ赤になってしまう男の子だったそう。筋トレのように経験を積み重ねることでコミュニケーション力を身につけたと話す。
「ネガティブな自分をいかに曝け出すかも手段のひとつ。自己開示することで相手の心も自然と開きます。そもそも話す機会が1時間あったとして、まるまる1時間もの長尺を喋り通すのはプロでも至難のワザです。どんどん相手にも聞けばいい。その受け答えがコミュニケーションです」
また、聞くときのテクニックも重要だと話す。「魔法の枕詞として『ちなみに』があります。これで聞けば意外となんでも教えてくれます。『ちなみに予算はおいくらですか?』や『ちなみにどれほどの裁量を任されてるんですか?』と、聞きづらいことも聞いてしまえばいいんです。ここで逆に使ってはいけないのが『もしよろしければお聞かせください』。これを言うと、相手は悪いことだと思って黙ってしまいます」
いろいろと話を聞くことができれば、それを材料に商談に役立てることもできる。モゴモゴと話すことも話せないよりか、傾聴する姿勢を見せたほうが信頼感を得られるに違いない。
人の感情は伝染する
「人間の感情は、他人の感情に呼応して引き出される特性があります」と中北氏は語る。
「電車でイライラしている人をみたら、こっちまでイライラします。怪談の世界で『怖いなぁ、怖いなぁ』が決まり文句の方がいますよね? あれは恐怖の感情を引き出すためにやっているんです。それと同じで、笑っている人を見たら、なぜかこっちも面白くなりますよね(笑)」
自分からリアクションをとることで場をデザインできる。笑いのない状態では、誰だって顔が引きつるものだからこそ、話しやすい空気は積極的に作っていくべきなのである。
中北氏は、自身が主導する研修に『爆笑のワーク』というプログラムを取り入れているという。「まず1回目は、ひとり話者を設定して、その人に何を話しかけられても徹底的に無視します。2回目は、逆に何を話しかけられても爆笑のリアクションを取るんです。これで、爆笑されるのと無反応なのとでは、心理的にどう違うのかを体験してもらいます。実際、爆笑されたほうが親近感が出て、心の距離が縮まります」
中北氏は、爆笑のリアクションも構造分解して伝えるのだという。「爆笑は分解すると9つのステップに分かれます。(1)手を叩いて、(2)顔をくしゃくしゃにして、(3)目を閉じて、(4)手を胸に当てて、(5)声を出さずに、(6)引き笑いして、(7)はあっと一息ついて、(8)『やばい』と表現して、(9)面白いことを相手に伝える。これをすると爆笑に見えます」
この爆笑リアクションを使えば、どんな場でもトークが盛り上がりそうだ。
人によって刺さる言葉は違う
中北氏が「これは自分で発明したオリジナルなんですが」と語り始める。「『マズローの欲求5段階説』をご存知ですか? これで判断するタイプ別で刺さる言葉選びがあります」
「マズローの欲求5段階説」といえば、人の欲求は5段階のピラミッドのようなもので、最も低いところから高みを目指していく現象を指す心理学用語だ。生理的欲求からはじまり、安全欲求、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現欲求の5つに分かれる。
生理的欲求とは飢えを満たしたいなど、本能的な欲求。これが満たされると、安全な暮らしをしたいという、安全欲求を求めるようになる。次は、仲間がほしいと感じる社会的欲求。ここまでの3つを低次の欲求と区切る。そこから先は、他者から認められたい尊厳欲求。そして、最後が自分の能力で創造的な活動をしたいと感じる自己実現欲求である。この2つを高次の欲求という。それぞれに、どんな言葉が刺さるのか。
「社会的欲求までを欲しがる人は『スゴい』、尊厳的欲求より上を欲しがる人は『面白い』が言葉として刺さるようになります。尊厳的欲求まで達している方は、『スゴい』と言われ慣れているんだと思いますね」
言葉選びは、相手に寄り添って見極めることで最も刺さる言葉が見えてくるようだ。傾聴の大事さを感じる。