先日、男友達と駅で待ち合わせをした。「あの……」と声がかかったので友達かと思い振り向いてみると、そこには絵に描いたような酔っぱらいが。一瞬頭が混乱したが、こいつは知り合いじゃない。なんなんだ。するとその酔っぱらい、「飲みに行きましょうよう」と言う。まだ飲むつもりかお前は! 無視していると、「俺じゃダメなのかよーう」と言って暴れ出した。

あんまりか弱いタイプじゃない私でも知らない男に絡まれれば、やっぱり怖い。しかし、そこでヒーローの登場だ。「どうしました?」と男友達がやってきて、酔っぱらいを一別すると、かばうように連れ出してくれたのだ。思わず好きになってしまうかと思ったよ。危機から救ってくれるというのは、女にとって最高の萌えシチュエーションだ。ま、そいつが時間どおりに来てりゃー、問題はなかったという話でもあるが……。

さて『花より男子』。これには、この手の萌えシーンがてんこ盛りだ。その中でも強度を増すのが「密室」パターン。エレベータ、雪山、船。道明寺とつくしは、こうした様々な密室で愛を深めていくのである。

まずはエレベーターだ。2人が乗ったエレベーターが故障し、そのうえ、道明寺が熱を出してしまう。密室+看病萌えシーンだ。狭い部屋で元気な男と一緒にいたら、少々面倒くさそうだが、病気なら話はべつ。空中の箱の中という心細さ(ああ、だから観覧車はカップルの乗り物なのか)と、ほかに頼るものがない中、"自分がしっかりしなきゃ"という自立心への刺激。いいセッティングである。

そして、雪山。道明寺の別荘にF4とその取り巻き、つくしとその親友とスノボに行ったときのことだ。取り巻きに騙され、つくしは吹雪の中、遭難してしまう。そこへ道明寺がスチャッと助けに来てくれるのだ。その後、2人は管理小屋みたいなところにたどり着く。ドラマではそこで熱を出すのは道明寺なのだが、漫画ではつくしが凍傷になりかけて死にそうになる。そしてそんな美味しいシチュエーションの中、道明寺が大変身するのだ。

普段はバカでロクなこと言わないのに、なぜかこのときばかりはスラスラと凍傷についてうんちくを述べるのである。そして、いつもの暴れん坊ぶりはどこかへ吹っ飛び、突然、理路整然とつくしを叱る。なぜ道明寺が凍傷にだけやけに詳しいのか謎だらけだが、ここはどうしても「頼りになる男」になってもらわねばならなかったらしい。これが漫画教室とかの投稿だったら「人物の書き込みができていない」とか言われそうだ。しかしヲトメ萌えという大義名分がある場合は、何をしても許されるのである。そうしてエレベータ萌えとは違い、今度は「看病される」萌えシチュエーションに突入するのである。

しかも、ベタなんだけど、冷えた身体を温めるのに「脱げ」とか言っちゃって、素肌で抱き合うというドキドキな感じに。ここで実際の男だったら、チャンスとばかり先に突き進んじゃう輩もいるだろうが(自分は元気だからな)、少女漫画だから大丈夫。「自分を大事にしてくれる」という、相手に対する信頼感があるからこその萌えシーンなのである。一種の「男は我慢してなんぼ」の法則ね。

そして、船。『王家の紋章』『炎のロマンス』でも述べた「さらわれたい」願望がここに詰まっている。逃げられない、隔離された場所へ連れて行かれるというのは、自分の選択肢をものすごく狭くされるという意味で、「さらわれる」と同義なんである。船の行き先は無人島だったりするわけだけど、これも「より隔離された場所」ということで、さらわれたい系萌えパターンである。『花より男子』にも無人島シーンがあるし、『絶対彼氏。』にもやはり無人島シーンがある。無人島萌えをストーリー展開させるために拡大したのが、『炎のロマンス』のコーラル島と言えそうだ。

『花より男子』の人気の秘密は、設定、萌えシチュエーション、そして萌えセリフ。次回は『花より男子』てんこ盛りのセリフについて。
<つづく>