ひとつ、前々から思っていたことがある。劇場版『銀河鉄道999』の鉄郎はかっこいい。『さよなら銀河鉄道999』の鉄郎もかっこいい。なのになぜ、『エターナル・ファンタジー』で鉄郎の顔が元に戻ってしまったのか……。これは興行成績に大きく影響したに違いない。なぜなら、元の顔の鉄郎では、女性ファンを惹きつけることが難しいからだ。まー正直、映画の999はかなり好きだったけど、エターナルは見る気がしなかった。
これは非常に大事なことである。映画が、ハッキリと男性向けであると決めているのでなければ、登場する男キャラはイケメンでなければいけないからだ。と言うと、なんだかイケメン至上主義に聞こえるかもしれないが、世の中ってのはそういう仕組みなのである。
女性向け漫画では女のキャラ(主人公)が、男性向け漫画では男のキャラ(主人公)が、不細工に描かれることが多い。大きなお世話だけど、読み手の共感を得るためだ。フツーの人が、美形の異性とくっつくからこそ夢があるのだ。少女漫画なんか、登場する美人は大抵、不幸な生い立ちだもんな。こうやって女は溜飲を下げつつ漫画を楽しむのである。
そういうことであるから、ジャニーズの嵐は女に大人気だけど、『ゲームセンターあらし』は間違っても少女漫画にはならないのである。
さて『坂道のアポロン』。ここには主役級の男性が2名登場する。薫さんと千太郎だ。どちらがより主役かと言えば、やはり薫さんである。一番大きな理由は、薫さんが好きになるのはそばかす田舎っぺの女で、千太郎が好きになるのが美人のお嬢様先輩だからである。やはり美人にうっかり惚れる男は、少女漫画では超主役にはなれないのだ。だってそれじゃ女は面白くないから。『はいからさんが通る』のイケメン少尉が少女漫画の王道主人公を張っていたのは、彼が環という才女で美女に心を動かさず、どうにもおかしな女・紅緒に思いを寄せたからである。
しかし千太郎、出番が多いだけあって、全くダメキャラにはなってないところが少女漫画である。そのひとつは、ケンカっ早いところ。少女漫画には、むしゃむしゃ草喰って本読んでそうなサナトリウム男子(薫さんだな)や、元気な生徒会長みたいな万能男子ばっかりが登場しそうなので、意外に思う男性もいるかもしれない。
まあ確かに、自分に対してもすぐ怒ったり暴力ふるったりしそうだから、実際にすぐケンカする男がいたらヤダと思うけど、少女漫画のケンカ少年は違うのだ。ケンカをするのは、自分の満たされないアンニュイな気持ちを放出するためであり、主人公には決して手を出さない。『花より男子』の道明寺も、つくしのことは押し倒しはするけど、殴ったりはしてないもんね。それどころか、主人公の女は「自分だけが彼を恐れずわかってあげられるの」みたいな特別な存在になってるわけだ。
この漫画では、女役主人公が薫さん(男)なので、薫さんも千太郎の暴力の対象にはなりません。単なる短気暴力とも言えるケンカも、少女漫画的には「アンニュイの結果」「主人公を優遇する素材」として使われるのである。前向きだなあ。
それから、少女漫画的にケンカ男子に必須なのは、ケンカばっかりしてるけど、女にウブなところ。道明寺も、かなりウブな感じであった。現実では、ケンカっ早いのと女経験は全くリンクしてないと思うけど、なぜか少女漫画に登場するケンカ男子は、女と手も握れないほどウブなのである。
まあ、理由はカンタンだ。要は、ケンカが上手くて、女経験も豊富だったら、次に自分が何をされるかわかったもんじゃないからだ。ケンカ上等な男に押し倒されたら、どう考えても逃げられなそうだ。やっぱり基本的には、女は暴力を振るう男は怖いから、嫌なんだよ。その分、ケンカの理由をアンニュイにしたり、女にはウブだってことにして、採算を取ってるのである。女は気が利かない男は嫌いだけど、ウブな男は好きだからな。大抵の場合、ウブな男は女慣れしてなくて気が利かないからニアイコールなのですが、その辺はやっぱり夢と願望を提供する少女漫画的には、ノットイコールなのですね。
<『坂道のアポロン』編 FIN>