東京2020オリンピック競技大会では、史上最多となる33競技339種目の開催が予定されている。本連載では、イラストを交えながら各競技の見どころとルールをご紹介。今回は「ウエイトリフティング」にフォーカスする。
バーベルにかかる重圧、自らの限界に挑む者だけが栄冠を勝ち取る
両手でバーベルを握り、一気に頭上まで持ち上げて立ち上がる「スナッチ」。プラットフォーム(床)からいったん鎖骨の位置までバーベルを持ち上げ(クリーン)、次の動作で頭上に差し上げる(ジャーク)「クリーン&ジャーク」。これらをそれぞれ3回ずつ行い、それぞれの最高重量の合計を競うのがウエイトリフティングだ。
ウエイトリフティングの原型は、重い石などを持ち上げる力比べ。古代より世界の多くの地域で行われてきた。オリンピックでの歴史も古く、第1回アテネ1896大会から実施されていた。
ただし、アテネ1896大会、セントルイス1904大会ではウエイトリフティングは現在と異なるテクニックで実施され、両手で持ち上げる種目のほか片手のみで持ち上げる種目があり、体重別の階級もなかった。アントワープ1920大会から体重別の階級が設定され、モントリオール1976大会から現在のスナッチとクリーン&ジャークの2種目に整理された。シドニー2000大会からは女子種目も登場した。
一瞬、一瞬に競技人生をかける選手たち
一見シンプルに見えるウエイトリフティングだが、肉体的にも、精神的にも非常に過酷な競技。まず、自分の体重の2倍以上にもなるバーベルを、一瞬で床から頭上まで持ち上げるという行為を想像してみてほしい。体中の筋肉をただ総動員するだけでは、到底無理だと見当がつくだろう。
そこに必要なのは、全身に行き渡る集中力と精神統一、そしてスピード、気合。これらが全て最高の状態で組み合わさったときに一瞬の爆発力が生まれる。選手たちは日々、鍛錬を積み重ねながら、記録を伸ばすべく努力しているのだ。
競技の進め方にも、実は細かいルールがある。まず、選手は名前が呼ばれてから基本的に1分以内に試技を行わなければならない。連続で試技を行う場合でも与えられるのは2分間である。
短時間のうちに心と体の状態を整える必要があるが、少しでも焦ってしまえば呼吸が合わずに失敗する。たとえ時間ぎりぎりになっても落ち着き払い、自分にとって最高のタイミングでバーベルに挑むことで好記録が生まれる。
また、バーベルを持ち上げる時に両足の足裏以外、例えばお尻がプラットフォームに触れてはならない。少しでも触れてしまえば、失敗の試技として判定される。
バーベルを持ち上げる間に肘の曲げ伸ばしがあってはならず、左右の腕の伸び方に不均衡があってはならない。持ち上げている間、バーベルをうまくコントロールできずにプラットフォームの外に足を踏み出すことがあれば失敗となる。
バーベルを持ち上げた後、両足を結ぶ線と胴体とバーが平行になった状態でレフリーが合図をするまで静止していなければならず、合図より前にバーベルを降ろしてしまえば失敗として判定される。
前半のスナッチで3回とも失敗した場合は失格となり、クリーン&ジャークに進むことができない。
重いバーベルを頭上に差し上げ、顔を紅潮させて静止する選手たちの姿は1ミリの乱れもなく美しい。そして求める記録を出した時、喜びを全身から放ち、笑顔を弾けさせる選手たちの姿がまた、観客の感動を呼ぶのだ。
イラスト:けん