日本では、ムーミンことEF55の引退や富士・はやぶさの3月廃止、千葉をC57が走るっていうのでいろいろと盛り上がっているようだが、私、上杉はますますマイナー方面に走っている。ヨーロッパの鉄道というと、王道はドイツ。マイコミジャーナルには「鉄道で行くドイツ裏街道の旅」という諌山研一さんのコラムがある。諌山さん曰く「鉄道での旅の魅力は、なんと言っても人々とのふれあいにあります」。確かにそれは魅力のひとつなんだけど、「そうもいってられないないときもあるのよ」と私は思う。今回はそんな話をしようと思う。

モスクワ流に言うと、東京駅は大阪駅

モスクワの国鉄のターミナル駅は、他のヨーロッパ諸国の大都市と同じように複数あるので注意が必要。おおよそ地下鉄の環状線沿いにあるので、迷うことは少なそうではあるけど。

モスクワのトロリーバスとトラムバイ

ところでモスクワの場合、ターミナル駅には行き先の大都市の名前がついているので非常にややこしい。例えば、ウクラナイナ方面の列車が出るターミナル駅は「キエフ」駅。キエフはウクラナイナの首都だからね。リガ方面の列車が出るターミナル駅は「リガ」駅。でも、サンクト・ペテルブルグ方面の列車が出るターミナル駅は、「レニングラード」駅。「なぜ!?」って思った人は、ソ連時代、サンクト・ペテルブルグはレニングラードといっていたことを思い起こしてほしい。

これは、日本でいうと、東京駅が「大阪駅」。上野駅が「青森駅」。新宿駅が「松本駅」となっているのと同じ。ほら、混乱してくるでしょ? 上野駅が「新潟駅」なのか「青森駅」なのか、って悩むところではあるが、モスクワではターミナル駅が複数あるので、そのほうが都合はいいのだろう。

さて、これから登場する「ベラルースキー」駅はワルシャワ方面の列車が発車するターミナル駅(ワルシャワに行くには、ベラルーシという国を通るから)。日本と異なり、ヨーロッパの駅は改札がないのが基本(地下鉄やメトロは違う)。列車に乗ると検札が来るからだが、そのために、駅構内はいろんな人が入り込める。つまり、安全とはいえない。今回はこの駅から寝台に乗るのだが、一応昼間に一度ベラルースキー駅に寄って、シミュレーションをしておく。

ベラルースキー駅

出発は21時すぎ。「40分前には着いておけ」と言われたが、念のため約2時間前に到着。駅構外の店で、ソーセージを挟んだパンと、「バルチカ3」というビールを購入。「バルチカ3」はピルスナー系なのかわからないが、まずまずの味。でも、売店のおばちゃんに、「あんた数字ぐらいわかりなさいよ」(多分こういっていた)と怒られた。

時間まで、サブウェイで食事をする。サブウェイの店員は中国人。私が日本人とわかると笑われたのはなぜだろうか……。その後、ルーブルが余っても仕方がないので、最低限のものを残し、ユーロに替えておく(後日ワルシャワ本駅の両替所で残りのルーブルをワルシャワの通貨、ゾルチに替えた)。

ブレストからの列車が着いた

電光掲示板に出発の列車が表示されている

モスクワ - ワルシャワ間は48,720円だが、ホントはいくら?

日本人がロシアを旅行する際は、自由がきかない。というのは、ロシアに入国するにはビザが必要なんだけど、日程を確定しなければビザが発行してもらえないからだ。また、日本で鉄道の切符も手配してもらう必要もある。鉄道料金は外国人向けのために、飛行機並みで高い。ロシア専門旅行社で手配してもらったら、モスクワ - ワルシャワが48,720円。列車のチケットを見ると、運賃が3,057.6ルーブル、2等寝台料金が658ルーブルの計3,715.6ルーブル。2008年秋まではおおよそ1ルーブル=4~4.5円といわれていたので、1万5,000~6,000円ぐらいか。おおよそ3倍の料金。ちなみに現在、1ルーブル=2.8円に下落したので、そうするとおおよそ4倍の料金となる。

寒々としたホーム。あたたかそうなコートを着た乗客が多い

列車の発車はモスクワ時間21時9分。45分前になると、プラットフォームに乗客が集まり始める。客車の数は多いが、途中で切り離しがなされることもあるため、自分の乗る客車を間違わないようにしなければならない。それぞれの客車の入口前に乗務員が並び、私の乗る客車は20時38分から乗車が始まった。

いよいよワルシャワ行きに乗り込む

私の乗る2等寝台車は、日本の寝台と同じコンパートメント方式。通路と寝台とに分かれる。ただし、日本の開放式(ブルマン式)B寝台とは異なり、ベッドにはカーテンがない。そして、コンパートメントはドアがあり、ドアを閉めてチェーンをかければ、寝台部分は完全に密室になる。寝台は狭い。この客車は片側3段、3人用で、小型の旅行カバンはベッドの下に、その他は寝台部分と対面の上の棚に置く。

寝台にはロシア人男性2人と私。微妙に走る緊張

寝台車内の通路。ドアを閉めると密室

さて、私が乗る2等寝台のコンパートメントにいる乗客は、中年で中肉中背のロシア人の男性と、20代のポーランド人男性の計3人。「ポーランド人はきれいな英語がしゃべれるので安心」と思っていると、中年のロシア人がポーランド人と交渉し、「友達と席を交換してほしい」と頼み込んでいる。あっさりOKしてもらい、あっと言う間に、巨漢のロシア人が入ってきた。

そういえば、先ほどそのロシア人と話したとき、こちらがベルリンに行くっていったら目が輝いていて、気になった。「うーん、余計なことをしゃべるのではなかったのかもしれない」と後から後悔したのだが、このことに関しては後述するとしよう。

同室のロシア人2人は、英語をほとんど話せない。ロシア語かドイツ語しか通じない。私のロシア語は「旅の指差し会話帖」レベルだし、ドイツ語に関しては会話集もポケット辞典も持ってなかったのだが、とにかくドイツ語の単語をつなげて会話する。すると彼らは、ドイツ系のロシア人ということがわかった。パスポートはロシア、でも、ドイツ在住の居住証明書を持っている。ベルリンに行きたいのだが飛行機がとれず、ワルシャワまでの寝台にとりあえず乗ったらしい。

3段ベットは狭い、狭い

私がベルリンに行くということで、目を輝かせていたのだが、「ワルシャワからの切符はワルシャワのホテルに届けられるので、今手元にはない」と話すと落胆していた。片言のドイツ語で「ワルシャワでなにをする予定ですか、教えてください」と話しかけると、中肉中背のロシア人は、ちょっとムッとして「いやなにもしないんだ。とにかくベルリンにいくのだ」と答えが返ってきた。

列車は定刻どおりモスクワのベラルースキー駅を出発した。中肉中背のロシア人が「蒸気機関車! 」と教えてくれる。列車は粛々と進んでいく。上段と下段のベットが設置されているので、私は下段のベットのはじにちょこんと腰掛ける。ロシア人たちはウオッカの瓶を開け、持ち込んだチキンの丸焼きにかぶりついている。「おまえもウオッカ、どうだ? 」とすすめてはくれたのだが、う~ん、飲む気にはならない。眠くても、緊張して寝られない。ロシア人たちは「寝てもいいよ」とすすめてくれるのだが……。

「とにかく、同室のロシア人たちを寝かせなければ」と思い、女性の乗務員に中段のベットを設置してもらう。ロシア人たちは上段と中段に寝て、私は靴を履いたまま、下段に横たわる。無事にワルシャワに着くのだろうか……。心配だ。