お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。

今回のお悩み

「1年前に転職したのですが、職場の雰囲気になかなかなじめず、ランチもいつも1人。なんだかいつもアウェーで職場に行くのが憂鬱です」(30代/会社員/女性)


はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。ランチ1人ぼっち問題。人としてこの世に生を受け、右も左も分からぬまま社会に放り出されてから恐らくその与えられた命を全うするまで絶えず続いていくであろう、ランチ1人ぼっち問題。友達の少ない僕もひと事ではない、非常に由々しき問題だと思います。

  • 絵:高木晋哉

    絵:高木晋哉

30代会社員女性さんはお笑い芸人の僕と違って恐らく職場環境が基本的に毎日同じなのでしょうし、同じ感覚では語れないのかもしれません。しかしまずは僕のお笑い芸人としての経験から話をさせて欲しい。

お笑い芸人という職業に就いて16年。僕は気付いたことがひとつあります。それは、お笑いという仕事は、どのような現場で仕事をしても、場所、人、時間などの色々な要素によって、その現場が自分にとってホームな状態かアウェーな状態か、またそのどちらでもないフラットな状態かが刻一刻と流動的に変化していく仕事だということです。

さらにどうやらホームの空気だからメリットしかないというわけでもないし、アウェーの空気だから必ずしもデメリットしかないというわけではないようです。ホームの時に取りづらい種類の笑いもあるし、アウェーの時だからこそ取れる種類の笑いもあるんです(僕が今までその笑いを取ってきたかどうかはさて置き)。

だから本当に大切なのはホームかアウェーかなどではなく、最終的な目標である笑いを取るために自分を取り囲む状況を柔らかく掴み取って目標のために利用できる柔軟な心です。目の前にある状況に振り回されるのではなく、少しだけ遠くに浮かんだ目標をしっかり見据えることが大切なんです。

そしていきなり何だと思われるかもしれませんが、いつも1人でいる女性に僕はとても魅力を感じます。高校の頃に、いつも教室の中1人で読書をしている女性に恋をしたことがあります。その女性が同級生と喋ってる姿は1度も見たことはありません。

今考えれば、もしかしたらその女性も30代会社員女性さんと同じように学校でアウェーの空気を感じて悩んでいたのかもしれません。しかし僕には他の大多数の女性とは一線を画す、少し影のある神秘的なオーラをまとった女性に見えたんです。

他のあらゆる生物を寄せ付けない高貴で凛としたその佇まい。一歩また一歩と足を進めるたびに半径数メートルが浄化されていくようなその純白の輝き。当時、学校からの帰り道でその女性を見つけた際、あまりの神々しさにバス停の陰から手を合わせて拝んだのを覚えています。

これは先ほど書いた「アウェーだからデメリットしかないわけではない」ということに通ずると思います。1人の男が恋をした。人を釘付けにする魅力。これは彼女の感じていたアウェーから生まれた、紛れもなく素敵なメリットなのではないでしょうか。1人でいたことがその人間の魅力を爆発させることもあるということです。

だから僕は30代会社員女性さんが今1人でいることは逆にチャンスだと思います。1人でいる時は周りの目など気にせずに1人でしか出来ない好きなことに夢中になればいいと思います。僕が恋したあの子が読書に夢中になっていたように。30代会社員女性さんが好きなこと。筋トレ、編み物、ボイスパーカッションの練習。何でも良いと思います。

あなたは1人でいるからといって輝いちゃ駄目なわけじゃない。1人でいるからといって気分が曇る必要もない。あなただけの輝きがそこには絶対あるんです。1人でも大丈夫。そう思える柔軟な心が、自然にあなたのもとに人を集めてくれるかもしれません。

筆者プロフィール: 高木晋哉

お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。