連載コラム『サラリーマンが知っておきたいマネーテクニック』では、会社員が身につけておきたいマネーに関する知識やスキル・テクニック・ノウハウを、ファイナンシャルプランナーの中村宏氏が、独断も交えながらお伝えします。
医療保険の役割は、公的医療制度がカバーできない自己負担の一部をカバーすること
民間の保険会社各社が提供している医療保険は、病気やけがで入院・手術等が必要になったときの経済的負担を和らげるための金融商品です。個人の経済的負担を緩和するための仕組みには、医療保険の前に、まず、公的医療制度があります。
サラリーマンの場合、健康保険に加入して保険料が給与天引きされています。そのおかげで本人や家族が病院やクリニックなどで支払う医療費の自己負担は原則3割。また、本人が病気やけがで会社を休んだときには、健康保険から傷病手当金を受け取ることができます。傷病手当金は、病気やけがで4日以上仕事に就けず休業中に給与を得られないときに、本人と家族の生活を保障するために設けられている仕組み。支給される金額は給与の3分の2相当額で支給期間は最長1年6カ月です。
さらに、健康保険には、「高額療養費制度」があります。1か月間に医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、超えた金額が払い戻される仕組みです。
高額療養費制度は2015年1月から見直され、以下のように自己負担限度額が決められています。
たとえば、月給30万円の方が病気で入院・手術をし、同一月(1日~31日まで)内に総医療費が100万円かかった場合、3割負担だと30万円を支払う必要があります。
しかし、自己負担限度額が80,100+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430となっているため、医療機関に支払った300,000円から87,430円を差し引いた212,570円が払い戻されます。
医療保険に入って毎月決められた保険料を支払うことで安心感
このように、わが国の公的医療制度はとても充実しています。病気やけがの確率が高まる70歳以上の高齢期になると、さらに自己負担は軽減されます。したがって、病気やけがなどの思わぬ出費に備えた貯蓄が常に100万円~200万円程度あれば、民間の医療保険に加入する必要はないと考えることができます。
しかし、貯蓄は何にでも使えるため、子どもの教育費やマイホームの頭金に充てられたり、レジャー費として使われたりして、万が一の備えがおろそかにならないとも限りません。
医療保険に入って毎月決められた保険料を支払うことで、「自分や家族が万が一病気やけがで入院・手術が必要になったときに備えている」という安心感を手に入れることができます。
ただ、病歴などのために医療保険に入ることができない方は、気持ちを切り替えて「貯蓄でしっかり備える」ことにしたほうがいいでしょう。
なお、医療保険に加入できる人も、保険ですべての費用をカバーしようすると毎月の保険料が高くなります。負担額の一部分をカバーする程度にし、足りない部分は貯蓄でまかなう気持ちで加入するのがよいでしょう。
執筆者プロフィール : 中村宏(なかむら ひろし)
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。(株)ベネッセコーポレーションを経て、2003年にFPとして独立し、FPオフィス ワーク・ワークスを設立。「お客様の『お金の心配』を自信と希望にかえる!」をモットーに、顧客の立場に立った個人相談やコンサルティングを多数行っているほか、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿などで生活のお金に関する情報や知識、ノウハウを発信。新著:『老後に破産する人、しない人』(KADOKAWA中経出版)
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