ドル/円の本年4月以降の需給関係は、まず機関投資家の代表格である生命保険会社(生保)が、米長期金利が大幅低下したことから、この4月から新年度で、それまでの外債投資重視から円債投資重視へ方針転換しました。

このことから、生保のドル買いがなくなり、むしろ、生保は米国債を売って円に換えて円債を買うため、ドル売りを強めています。

一方、公的年金の運用機関であるGPIFは、4月以降、新中期計画のもと、外債比率を従来の15%から25%に引き上げることを決定したことによりドル買い需要が高まると見てきました。

つまり、生保の売り対GPIFの買いで相場は膠着すると見ていました。

事実、4月から6月にかけて、各月の月初めに猛烈なドル買いが出ており。これがGPIFのドル買いの可能性が高いものと見ていました。

ところが、7月、8月の月初めには、こうした猛烈なドル買いが、でなくなりどうしたものかと思っていました。

そして、今般、GPIFの資料を入手しましたところ、GPIFの第1四半期末となる6月末時点での実際の運用資産の構成比率が公表されていました。

  • 運用資産額・構成割合(年金積立金全体)

まずこのグラフの見方からご説明します。

内側の円グラフは、基本ポートフォリオが示され、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式が、各々基本25%にそれぞれに設定された許容幅です。

そして、外側の円グラフが、6月末の各ポートフォリオ残高になります。

ここで注目されるのが、右下の外国債券残高です。

外国再燃の6月末の残高は、35兆8198億円と、全体の21.81%となり、すでに基本ポートフォリオ25%±6%の枠内まで増額されていたことがわかります。

つまり、4月初めの新中期計画発表後、この3カ月間で、米国債を中心に大幅増額されていたということで、予想をはるかに超す勢いで外国債券の残高を積み上げられていたということです。

ということになると、予想されたGPIFのドル買いは、今後多少はまだでるにしても大きくは期待できないということになり、当初想定したドル買い需要は、既に実施され、今後、ドル/円の買い支えは弱まり下落する可能性が 高まっていると見るべきではないかと思います。

すでに円の需給のバランスは崩れているとするならば、それだけでも、ドル安円高の可能性は高まっていると思われます。

さらに、現在ユーロ/ドルをはじめとする全般的なドル安基調となっており、ドル/円は、これまでに比べてはるかにドル安になりやすい状況になっていると見ています。

  • ドル/円 月足

ドル/円は、2017年以来、タイトなレンジ相場が続いています。

その大きな理由は、機関投資家の「上がったら売り」「下がったら買い」のトレード手法のためだったと見ています。

彼らは、外債運用の為替リスクを熟知し、また、ヘッジ付き外債にしてしまっては利回りが出ないこともわかっており、この上下を抑えたレンジ相場にすることが、一番のメリットであることに気づいたと言えます。

その上、2016年11月にトランプ氏が大統領になったことで、自国通貨安を狙った介入にくぎを刺された財務省・日銀は、GPIFや生保の売り買いによる、“民間介入”に期待を寄せ、当局自身はダンマリを構えました。

それが功を奏して、これまで、ドル/円の動きは限られてきました。

しかし、ここにきて、大きな変化がありました。

それは、米国債の利回りが急低下したことでした。

それにより、生保などは、外債投資をするメリットがなくなり、円債へと回帰していきました。

GPIFは、確かに外債比率を予定通り上げましたが、すでに上げてしまった以上、もう動かなくなるものと思われます。

そうなると、今までガチガチにタイトレンジに抑えられていたドル/円の環境は大きく変化するものと思われます。

そして、今までは、円高円安で見てきた相場は、ユーロ/ドルを中心にドル安相場になり、円がどうというのではなく、ドル安として相場は動きやすくなったものと見ています。

その意味で、ドル安円高の可能性は高まってきているものと見ています。