原油がここに来て、下落を再開しており、先週の金曜には1バーレル35.62ドルと約6年10カ月ぶりの安値を更新しました。
実は、原油大幅下落は、昨年7月105ドル近辺から始まりましたが、今年の3月にいったん42ドル近辺で下げ止まり、初夏には60ドル台に乗せ、下げ止まったかに見えました。
しかし、夏場から下落を再開し、新たな下落トレンドを形成し、そして、ここに来て40ドルを大きく割り込んで、現在にいたりました。
原油価格が日本の貿易収支に与える影響は大、ドル/円相場にも多大な影響
この原油価格が、日本の貿易収支に与える影響は大きく、さらにそれによりドル/円相場にも多大な影響を及ぼすことになります。
日本が貿易赤字に転じたきっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災でした。
これにより、福島第1原発で事故が起き、そして、国内すべての原発が停止しました。
この代替エネルギーとして液化天然ガス(LNG)の大量輸入となり、これにより、日本はそれまで45年間続いた貿易黒字国から貿易赤字国に転換しました。
実は、この貿易赤字国への転換は、ドル/円相場に多大な影響を及ぼしました。
つまり、貿易赤字とは、輸入量が輸出量を上回ることを示しており、輸入量が多いということは、海外から輸入する製品や原材料などの代金をドルで支払う額が、輸出で海外から受け取るドルの代金よりも増えるということです。
要は、海外への支払いのためのドル買いは貿易赤字が続く限り、恒常的に発生することになりました。
この結果、2012年2月から2015年6月までの3年4カ月という短期間で、ドル/円は50円弱上昇しました。
これほどのドル買いとなり、マーケットは130円突破も間近と見るようになりました。
ところが、前述のとおり、原油が2014年7月から急落したことによって、その状況は一変することになりました。
つまり、それまで増勢を強めていた貿易赤字は、原油価格の急落により、特に今年に入って、劇的に減少しました。
しかし、ドル/円相場で見ますと、昨年12月に120円に絡んで行こう、ほぼ横ばいが続いており、ドル安円高になっていないのではないかというご指摘を頂くことになると思います。
これは、既述のとおり、2012年2月以来3年4カ月で50円弱も上昇した上げの勢いがまだ残っているためで、むしろ横ばいでいること自体が、原油価格の急落によって、上昇に歯止めがかかっているとみるべきかと思います。
そして、ここに来て、原油価格は、新たに安値を更新し始めていることから、もちろんタイムラグは発生するものとは思いますが、いずれにしても新たなドル売り円買い圧力になるものと思われます。
これまでの貿易収支の推移を見てみますと、2011年に黒字から赤字に転じ、そこから加速度をつけながら2014年まで貿易赤字は急増しました。
ところが、今年2015年に入ると、この夏場の試算ベースでも、前年からの原油価格急落に伴って、貿易赤字は激減しています。
原油安が続くことになれば、貿易収支は恒常的に黒字化する可能性
そして、ここに来て、さらに原油安が続くことになれば、貿易収支は恒常的に黒字化する可能性すら出てきています。
恒常的に貿易収支が黒字化すると、ドル/円相場では、輸出量の方が増えることで、海外から受け取るドルが増え、国内ではドルでは使えないので、ドルから円に交換する(ドル売り円買い)が増えることになります。
つまり、貿易黒字になると、恒常的にドル売りが発生することになり、ドル/円相場の上値を重くさせることになります。
これによって、相場は、ドル安円高地合いとなるものと見ています。
当面、110円近辺までの円高を見ていますが、貿易黒字が拡大するようであれば、さらに円高になる可能性も否定できません。
このように、ドル/円相場は、貿易収支が黒字か赤字かによって、多大な影響を受けますので、貿易収支の推移には十分注意して見ておく必要があります。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。