日頃から、疑問に思っていたことがあります。テクニカル分析に、RSIとかMACDとかストキャスティックスというものがあります。よくよく考えてみると、これらは私がディーラーを始めた頃、つまり30年程前からありました。特にMACDにははまって、夢中になって見ていました。

しかし、現代のように技術の進歩が著しい時代に、30年来変わらぬ分析法が、役にたつのでしょうか。

たとえばこんなことが最近ありました。

30年来変わらぬ分析法は現在でも通用するのか

本間宗久翁によって250年以上前に考案され、その完成度の高さでは定評のある酒田五法ですが、その中のひとつである三尊(ヘッド・アンド・ショルダー)がユーロ/ドルの日足で出現しました。

  • ユーロ/ドル 日足

上記のチャートでもお分かり頂けますように、チャートの左端から、左肩、頭(ヘッド)、右肩と出来、その麓であるネックラインを10月後半に下にブレイクして、完全に三尊は完成します。教科書的にいえば、ヘッドとネックラインの高さ分、ネックラインからさらに下がることになるはずです。

しかし、実際は11月前後に下げ渋りだし、11月後半に入ってからは激しいショートカバー(買戻し)になっているのです。これは、なぜか?

このケースはとてもわかりやすいのですが、三尊の形成はだれもが気づいたと思います。それが自分だけの秘め事のように、こっそりと期待は膨らみ、ショートポジションも膨らんで行きました。

そしてネックラインを下にブレイクするとさらに売りはかさみ、マーケットはパンパンのショートになったところで、自律的に反転(売り過ぎているため自然と反転)を始め、買戻しが買戻しを読んで大きく戻すことになりました。

つまり、この例でもわかりますが、チャート・パターンが形成されたとしても、この場合で言えば、自動的には下落はしないということです。下落するためには、この場合は、ロングが積み上がろうとしなければなりません。それが皆で売ってショートにしたわけですから、これは落ちないわけです。

つまり酒田五法のような風雪に耐えてきた分析法も、RSIも、MACDも、ストキャスティクスも、マーケットのリアルなポジション状況を把握しなくてはあたらないということです。

マーケットのリアルなポジション状況の把握には、すでに本コラムの第111回「値動き分析の基本」でもご紹介しておりますが、「値動き分析」がお勧めです。

確かに、最初は何を言っているかわからないかもしれません。しかしこれがわかってくると、マーケットのポジションのみならず、マーケットの思惑や心理も読めてきます。

話しを元に戻しますが、要はこれだけ著しい進歩を遂げている現代にあって、チャート分析も技術革新を行わないと、今の例のようにみんな同じことを考え、同じようなポジションを持って、そして自爆するということは今後も十分起こりえます。

こうした状況で敢えて申し上げるとしたら、「相場を観察する」ということだと思います。

観察することによってマーケットの特性がわかってきますし、それがわかってくれば、それに則したトレード手法も編み出すことできるというものです。

実際、私は長年のトレーディングを通じて編み出した手法が「値動き分析」以外にもいくつかあります。また機会がありましたら、ご紹介していきたいと思います。

最後に、これだけは忘れないでください。

「相場は、生きています」

自分から理解しようとしないといつになっても、相場の真意はわかりません。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

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バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら