本連載で以前とりあげたマリリン・モンローは、50年代のセックスシンボルと呼ばれましたが、マリリンの主義の一つに「体を鍛えても、ムキムキにはしない」というものがありました。頭の弱いブロンドを装いながら、マリリンはこっそり人体を勉強し、どこをどう鍛えたら理想的なスタイルになるかを研究します。ヨガ、ジョギング、ウエイトリフティングで体を鍛えますが、目標はあくまでも「触れてみたいと思わせるような柔らかさのある体」でした。
しかし、80年代にセックスシンボルと呼ばれたマドンナは、マリリンとは違っています。惜しげもなく肌を露出させるマドンナの肉体は、マリリンの体と違って、マッチョな印象をすら受けます。マリリンは男性の失礼な質問にも優しく答えてあげるのに、マドンナははっきり意見を言う。
そんなマドンナが、「私の一番の弱点は、不安感よ。1日24時間、週に7日悩まされているわ」と言ったなんて、信じられるでしょうか? この言葉を聞いて私が思い出したのは、今年引退した安室奈美恵さんの育ての親とも言える事務所社長の言葉なのでした。
安室さんが第一次大ブレイク時に、彼女を追ったドキュメンタリーを見たことがあります。その中で社長が、こんな意味のことを言ったのです。
女性タレントが大ブレイクした時は、まず付き人を増やすこと。急に売れると、女性は不安になる。不安を放置しておくと、女性タレントはそのプレッシャーに耐えかねてメンタルのバランスを崩したり、結婚すると言い出したりするから。付き人を増やすことが「みんなであなたを応援しているからね」というメッセージになる。反対に男性タレントが売れた時に付き人を増やす必要はなく、住む家やクルマなど目に見えるご褒美を与えるといい。男性は売れている時は、結婚なんて絶対に言い出さないので、安心だ。
つまり、男性は売れるとひたすら調子に乗るけれど、女性は売れたことにストレスを感じ、不安になってタレント生命を短くしてしまうこともある、ということ。これは偶然ではなく、セロトニンという脳内神経伝達物質が関係しているそうです。セロトニンは精神の安定を司っていますが、女性はもともとセロトニンの分泌量が男性の半分と言われています。さらに、女性ホルモンの影響もあって乱れやすい。つまり、女性が不安になるのは、「当たり前のこと」と見ていいでしょう。
マドンナのようにトップを極めるということは、逆の見方をすると、あとは落ちるだけ。そう考えると、彼女が不安に駆られるのも無理ないことだと思います。しかし、マドンナのような超スーパースターだけでなく、女性はもっと積極的に不安とつきあったほうがいいのではないかと思うことがあります。
私は「間違いだらけの婚活にサヨナラ!」(主婦と生活社)を上梓した関係で、読者の方から婚活相談を受けるのですが、なかなか婚活がうまくいかない人の一つに「不安が強いことに気づいていない人」があると見ています。「不安が強い人」ではなく、不安が強いことに「気づいていない人」であることがポイントです。「私は不安が強いな」と気づいている人は軌道修正が利きますが、そこに気づいていない人はどんどん深みにはまってしまうのです。
不安は感じて当然なものと、不必要なもの、2つにわけられるのではないでしょうか。 たとえば、2011年以降、日本各地で地震が起きています。南海トラフや首都圏などでも近い将来起こりそうと気象庁は警戒を呼び掛けています。こういう具合に実際に起きたことから生まれる不安は、感じて当然で、生物としての本能でしょう。
しかし、確たる証拠もないことから、不安になるのはたいていの場合、不必要な不安、もっというと思い込みである可能性が高いのです。
たとえば、何の根拠もなく「彼氏が浮気している」と言い出す人がいます。聞いているこちらは「考えすぎ」と思うのですが、本人は真剣に証拠を集めようとします。携帯を見て怪しいことがないか探ったり、もしくは「浮気していない」とか「愛している」という言葉を強引に引き出すことで、自分を納得させようとします。
一次的には安心できるかもしれません。しかし、「何もないのに」生まれた不安は、すぐにぶり返すという特徴があります。携帯を盗み見られて嬉しいと思う男性はほとんどいないでしょうし、相手から安心する言葉を引き出そうとする“発作”がもとで、ケンカをしたり別れたりすることもあるでしょう。そういう時、そもそもの発端が不必要な不安であることに気づいていない人は、「何も悪いことをしていないのに、彼に怒られて嫌われてしまった」と解釈します。なので、新しい彼氏ができたときも「前のように突然嫌われたら、どうしよう」といった具合に不安をくすぶらせてしまうのです。
マドンナに話を戻しましょう。表に出る商売の女性の大敵と言えば、老化でしょう。しかし、マドンナはそれを弱点だとは言わないのです。それが強がりだと私は思いません。マドンナは「私は私よ」とも述べています。若くなることに血道をあげるより、マドンナでい続けることに意味があると知っているのではないでしょうか。
マドンナは若いころから筋トレ好きで知られており、今も結構ムキムキです。筋トレも不安も自分の内側にあるものと向き合うという共通点があります。誰とも比べず、ひたすら自分を見つめている。その姿は神々しいほどに孤高なのでした。
※この記事は2018年に「オトナノ」に掲載されたものを再掲載しています。