ステイホーム週間は録り溜めていたTV番組や映画で過ごしました。俳優・柄本佑さん主演のNHK土曜ドラマ『心の傷を癒すということ』(2020年1~2月放送)と女優・有村架純さん主演の映画『コーヒーが冷めないうちに』(2018年公開)を見ていると、ある共通点を見つけました。

ドラマで尾野真千子さんが演じた奥さんと、映画で石田ゆり子さんが演じていたお母さんが同じ本を読んでいたのです。どんな内容の本なのか気になったので、閉店間際の本屋に忍び込み、ソーシャルディスタンスを保ちながら、ドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデの『モモ』を買い求めました。

『モモ』は、不思議な少女モモが、時間貯蓄銀行に「時間」を預けて生きる喜びを失った人々を助けるべく、カメのカシオペイヤとともに戦いに乗り出す物語です。児童文学ではあるものの、「時間」が「お金」の暗喩であり、現代の資本主義経済システムに対する警鐘であるとの解釈も多いようですね。私がステイホーム週間に見たTVドラマや映画でも、そんな風刺を込めて『モモ』が使われていたのかも知れません。ファンタジーの中に啓発的な要素も含まれている『モモ』は、老若男女を問わず、読者それぞれが色々な読み方や感じ方ができますので、そんなところも作品としての魅力になっているのでしょう。

私が興味深く読んだのは、時間貯蓄銀行の外交員が床屋のフージー氏に対して、人生の財産として「時間」がどれだけあるのか説明する場面※1です。


外交員 「1年はぜんぶで3153万6千秒になります。10年ですと、3億1536万秒。フージーさん、あなたはどれくらい生きるとお思いですか? 」

フージー 「70歳、いや80歳くらいまで生きたいですね、できれば」

外交員「ではすくなめに70歳までとして計算してみましょう。つまり3億1536万秒の7倍ですな。答えは、22億752万秒」


これ、何かに似てませんか? 「時間」を「お金」に換えれば、あの老後資金2000万円の計算と考え方は同じですね。どちらも間違ってはいませんが、理路整然と一方的に説明されると、素直に受け取れないのも似ています。

そしてある意味、現役世代へ資産形成を勧める私は、時間貯蓄を勧める外交員と立場は同じかも知れませんが、私が『モモ』の登場人物で一番共感を覚えたのは、掃除夫ベッポのセリフ※2です。


「とっても長い道路をうけもつことがあるんだ。おっそろしく長くて、これじゃとてもやりきれない、こう思ってしまう」

「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん。つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ」

「するとたのしくなってくる。これがだいじなんだな」

「ひょっと気がついたときには、一歩一歩すすんできた道路がぜんぶおわっとる。どうやってやりとげたかは、じぶんでもわからんし、息も切れてない」

「これがだいじなんだ」


「とっても長い道路」を「人生100年」に置き換えて考えて下さい。大事なのは、とてもやりきれないと悲観するのではなく、「いま、できる、こと」を積み重ねていくことだと思います。

※1:ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳、『モモ』、岩波少年文庫、2005年、p.88-89
※2:前掲書、p.52-53