和歌山電鐵貴志川線の終点、貴志駅に猫の駅長が就任したというニュースを聞き、暖かくなるのを待って会いに行ったのが2007年4月30日。当時8歳だった「たま」駅長は、古い駅舎の前のベンチで日向ぼっこをしてはりました。
JR和歌山駅から貴志駅までを結ぶ全長14.3kmの和歌山電鐵貴志川線。和歌山駅の通路には猫の足跡の案内が点々と続いていました。こういうところからすでに……とうれしい気持ちになりながらホームへ。貴志川線の電車は1時間あたり2~3本程度。2両編成の電車に乗り換え、のどかな沿線風景を楽しんでいると、あっという間に貴志駅に到着しました。古い駅舎の無人駅、でもちゃんと駅長は居る、という謎の駅(?)です。
「たま」駅長は三毛猫で、とても気さくな方でした。帽子を被って、のんびりと楽しむように仕事をされていました。「たま」駅長にいろいろと伺っている間に、電車が駅に入ってきました。白地にかわいいイチゴ模様の「いちご電車」でした。
なんていうかこの路線、地元の人々にとってかけがえのない「足」であることはわかっているのですが、この遊び心というか、まるで遊園地の遊具のような楽しさが全体に染み出しているんですね。訪れた日がまさに春日和だったこともあって、本当に幸せな空気が漂っていました。真冬、ここに雪がちらつく光景さえ想像できないというか。厳しい情景がまったく浮かばない、そんな景色に思えました。
それから3年後、2010年7月12日に訪れたとき、貴志駅は建替えの最中でした。「たま」駅長は狭いカゴに仮住まいされていて、ちょうど執務時間も終わる頃で、あまりゆっくりとお話ができませんでした。
2011年11月9日。3度目に訪れたときには、貴志駅の駅舎は新しく立派になっていて、駅長の執務室はガラス張りになっていました。距離が遠くなってしまって寂しい気はしましたが、訪れる人が増えていただけに、これはしかたのないことだったのでしょう。
就任から8年以上にわたり、和歌山電鐵を象徴する存在だった「たま」駅長。貴志川線では現在、「いちご電車」「おもちゃ電車」に加え、「たま」駅長がモチーフの「たま電車」も走っています。貴志駅の新駅舎も、猫の顔に見える駅舎として広く知られるようになりました。地元の人々に愛され、国内外から多くのファンが訪れるなど、その貢献度は計り知れません。
しかし、別れは突然やって来ました。新聞などで「たま」駅長の死が報じられ、和歌山電鐵も6月22日に急逝したと発表。28日に貴志駅で社葬が行われるそうです。
「たま」駅長のご冥福をお祈りいたします。