原油急落の恩恵が顕在化するのは4月以降

財務省が発表した2015年1月の貿易収支(速報、通関ベース)は▲1兆1,775億円の赤字であったが、赤字額は前年同月と比べて57.9%減少した。(1)輸入が原油急落の恩恵で前年比9%減少したこと、(2)輸出が自動車・半導体等の増加で同17%増えたことが貢献した。

原油急落が、日本経済に強い追い風となっている。昨年7月に1バレル100ドルを越えていたニューヨークのWTI原油先物(期近)が、足元50ドル割れまで急落したが、原油は世界的に供給過剰となっており、価格低迷は長期化しそうだ。

はしご車のように、シェール・オイル掘削リグを搭載したトラック。右下にあるのが、ノディング・ドンキーと呼ばれる石油汲み上げ機械(米国にて撮影(C)石井清)

原油急落を受けて、昨年8月に1リッター170円に達していたレギュラーガソリンの小売価格(全国平均)は、2月23日時点で137.9円まで低下している。消費増税でダメージを受けた国内消費に、ガソリン安は干天の慈雨である。

それでも、原油急落の恩恵は日本の景気・企業業績にまだ本格的には波及していない。日本には70日の原油戦略備蓄があるので、これまでは高値で仕入れた原油在庫を消化している状態であった。恩恵が顕在化するのは4月以降と考えられる。

鉱物性燃料の価格が急落したことは、黒字復活に向けて強力な援軍

日本は、2010年まで30年連続で貿易黒字を計上していた「伝統の黒字国」である。「失われた10年」といわれた1990年代でも貿易黒字を維持していた。日本の輸入の約3割を占める鉱物性燃料の価格が急落したことは、黒字復活に向けて強力な援軍となる。

円安によって日本の輸出企業が競争力を取り戻し、日本の輸出が伸び始めたことも、貿易収支改善に効果を発揮する。自動車・機械・電子部品など日本が技術面で優位を保つ分野の回復が目立つ。海外現地生産が進み、円安効果が出にくくなったとも言われていたが、本田技研工業やTDKのように、海外生産の一部を日本に移管する動きも出ており、しばらく輸出の回復が続く見込みだ。

日本が2011年に31年ぶりの貿易赤字に転落したのは、東日本大震災で原子力発電所が停止し、火力発電の燃料輸入が増えたことが最大の原因であった。原発が停止して電力需給が逼迫する中、中東からあわててLNG(液化天然ガス)を緊急輸入したために、世界一割高なガスを買う破目になった。

日本が緊急輸入したLNGは100万BTU(熱量単位)当たり16~18ドルである。アメリカのシェールガスが100万BTU当たり3-5ドルであることを考えると、日本は非常に高価なLNGを買わされ続けてきたことになる。

LNGは長期契約であり、2018年くらいまで高値で契約したLNGの輸入が続く可能性がある。ところが、原油急落を受けて情勢が変わった。日本が輸入するLNGには、原油に連動して価格を調整する契約が多い。足元で、まだ輸入LNGの価格はほとんど下がっていないが、今後、原油急落を反映して徐々に低下していくことが予想される。

少子高齢化が進む日本経済の先行きがバラ色とはとても言いがたいが、少なくとも目先1年は、原油安の強力な追い風を受けて、日本経済が強さを取り戻す局面となりそうである。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。