話のおもしろいヤツはモテる。逆もまた真なりで、モテるヤツの話は面白い。恋愛が長期戦になればなるほど、求められるのは持久力や忍耐力ではなく、恋人を飽きさせない話の面白さである。

では、世の中で一番、話が面白い人種とはどんな人間たちか? その多くは漫才師や落語家、コントなどを生業にするお笑い芸人と答えるだろう。だが、同じプロフェッショナルでも面白さに命を賭けている者たちがいる。その本気さ、真剣さは、お笑い芸人の比ではない。では、その人間とはどんな人たちか? ほかでもない、詐欺師である。

仕事柄、ボクは詐欺師に会うことが多い。どんな仕事柄とは思うが、ボクの体臭がそのテの人間を引き寄せるのか、ボクの周囲は詐欺師や詐欺師予備軍、詐話で満ち溢れている。詐欺師のすごさは、臆面もなく近づいてくることである。

詐欺師のターゲットになったボクの知人を、仮に太郎クン(45)としよう。詐欺師は太郎クンのことをいつしか「ターちゃん」、「ター坊」と呼び、周囲には「ター坊もあのミーコ(※太郎クンの妻の美智子さんの愛称)ちゃんじゃ苦労するわ」などと、周囲にその親族とも親しいことをアピールした。ボクはてっきり幼なじみか、少なくとも10年来の知り合いかと思っていた。

ところが後に裁判となった訴状の中で、太郎クン自身、いつ知り合ったか不明であり、それでも推定するに出会ってから裁判を起こすまで大きく見積もっても出会いからせいぜい1年半であることが明らかになった。ちなみに太郎クンが裁判まで起こした詐欺師に騙し取られたカネは、その1年半の間に実に約8,000万円である。

それはともかく、詐欺師が超フレンドリーに被害者に近づく手法に、有名人や成功者の知人もしくは縁戚関係をアピールする、というものがある。ボクの知っている詐欺師のスマホにはここでは実名を書けないが、アイドル、俳優、女優、スポーツ選手、芸人と一緒に収まった写真が山ほどあった。

有名人と直接知り合いというのは、さすがに気がひけるのか、その周辺との親しさを強調する詐欺師もいる。有名人のマネージャーであったり、所属事務所の社長であったり。この場合、引き合いに出されたマネージャーや社長は、呼び捨てにされるのが一般的だ。「まったくタカギのヤツがさぁ!」などと。このタカギは、たとえば小栗のマネージャーという設定だったりするのだが、そんなことをこっちが知っているかどうかなどお構いなしだ。

「ところでタカギって?」などと、こちらが気兼ねをしてオドオド質問しようものなら、「あれ知らなかった?」などと小馬鹿にした態度で聞き返す。おそらくこの精神的劣勢が、詐欺と疑いつつも引き返せなくなる理由なのだろう。

やはりボクの知り合いの詐欺師には、山田姓を名乗る大手家電量販店、青山姓を名乗る大手紳士服量販店、岡本姓を名乗る最大手コンドームメーカーの関係者を装う者もいた。この場合、直径の子息ではなく、創業者の孫とか社長の甥とか微妙な縁戚関係であり、ときに大株主などという微妙な立ち位置を選ぶものだ。

そんなこんなで近づけば、今度はホラ話である。その内容に共通しているのは、とにかく話をモル。モリまくるの一点である。信じてもらえるならその昔、米倉涼子と付き合っていたでもいい、マー君のボールをスタンドにぶち込んだでもいい。自家用ジェットでプライベートアイランドに行ってきた、でもいい。

ただ、ここで注意したいのは、ホラ話ではあっても、けして自慢話にはしないことだ。ホラも自慢も話をモルという行為においては同じだが、相手の受け取り方はまったく違う。前者は興味をもって耳に届き、後者は不信と敵意しか抱かせない。その違いは大きく自意識とサービス精神であろう。前者はひたすら相手を喜ばせるし、後者は単に自分を誇示するのみだ。

と、ここまで読めば賢明な読者であれば、もう気がついただろう。詐欺師の中には、モテる要素が満載であることが。ならば詐欺師を真似て、勇気をもって女の子に臨めばいい。でも、それでもモテなかったらどうするかって? その場合はお笑い芸人ではなく詐欺師にでも……と、それは絶対にダメである!

本文: 大羽賢二
イラスト: 田渕正敏