独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。

第9回となる今回は、京都市中京区で「幼児教室バンビーニクレアーレ」を運営されている、桐畑良子さんにお話を伺いました。

  • 桐畑良子さん

始まりは、週に1度の幼稚園のお手伝いから

――もともと幼稚園の先生をしてらっしゃったそうですね。

桐畑さん:はい、大学でモンテッソーリ教育を学んだあと、幼稚園に11年勤務しました。その後、子どもを授かったことで退職したのですが、2児の子育てを終えた後、その幼稚園から要望がありまして、プレ保育(2歳児)クラスの立ち上げのお手伝いをさせていただいたんです。それから週に1度、2歳児に関わることになりました。

――そこから、幼児教室を立ち上げることにつながっていくのでしょうか。

桐畑さん:ええ。モンテッソーリ教育だけだと小さなお子さんは時間が持たないというのもあり、もともと音楽好きだったこともあって、4年間かけて「リトミック」を学びました。その関係者の方から、「2歳児向けにリトミックに保育を加えたクラスを立ち上げたいので手伝ってほしい」とお声かけいただいたんです。

せっかく預かるのなら、保育の時間をモンテッソーリ教育の活動にあててはどうかと提案させていただいたところ、なるほどとご了解をいただいて、2歳児向けにモンテッソーリ教育とリトミックを組み合わせたレッスンをスタートしました。

――最初はお手伝いからのスタートだったのですね。

桐畑さん:そうなんです、それが数年経って、生徒数が10名以上に伸びてきたところで、主宰されている方のご事情から、クラスを終了することになったんです。通われている生徒のお母さま方からは、「残念」「続けてほしい」という声も上がっていましたので、私が教室を立ち上げる決心をしました。 そのクラスを一緒に担当していた先生にも手っていただき、その先生のお知り合いの音楽スタジオを貸していただいて、会場を確保しました。生徒さんも、当時のクラスのほとんどのお子さんに来ていただけることになって、10数名でスタートすることができたんです。

集客の悩み、健康の悩みも乗り越えて

――なんだか順風満帆のように聞こえますが、教室運営は難しくありませんでしたか?

桐畑さん:スタートした2012年こそ生徒さんに恵まれましたが、翌年はさっそく新規の生徒さんを確保するのに苦労しました。ビラを作って、幼児向け商品の販売店やスーパーなどに置いてもらえるよう頼んで回ったり、通ってくださっていた保護者の方々に紹介をお願いしたりもしましたね。

それから、2歳児を確保するにはその前の年齢からレッスンに通ってもらうのがよいと考えて、0~1歳児クラスの開催も決めました。さらに、2歳児クラスを終えて幼稚園に通われるようになった生徒さん向けに、幼稚園児クラスの開催も決めました。 そんなこんなで無我夢中の数年間でしたが、気づけば20数名の生徒さんとともに、お教室を継続できるようになりましたね。

――すごいですね、手探りというか、まさに手作りでお教室が出来上がった感じがします。ご苦労も絶えなかったのではないですか?

桐畑さん:モンテッソーリ教育が注目され始めて、生徒さんも40名を超えたのですが、そうなると今度はクラスを増やさなければなりません。悩んだ末に、お教室に最適な物件を賃貸契約しました。でもやっぱり集客が悩みの種で……。

実はその頃、急に息子が腎不全となり腎臓移植が必要となったため、私がドナーになったのです。2021年9月末から10月末までの2か月間、手術と退院後の休養で教室を休まなければならなくなり、講師のみなさんに無理をお願いして、その間のレッスンの穴埋めをしていただきました。保護者の方々へは、レッスンのポイントを数分ずつ動画としてまとめて、配信しました。周囲の方々の尽力のおかげで、なんとか2か月間を無事に乗り切ることができたんです。

子どもも大人も先生も、学び成長し続ける

――大変な思いをされたのですね。それでもお教室を続けてこられた原動力はなんでしょう?

桐畑さん:「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、幼児に接し、幼児の成長を見続ける中で、幼児の中に“人としての本質”が宿っていることを感じています。幼児は好奇心を持ち、探求し、集中し、努力し続けて成長を遂げ、自分を創造していきます。それは大人になっても同じなのだと思います。子どもだけでなく親も成長してほしい、そんな気持ちで「親と子が学ぶ」幼児教室とさせていただいています。 もちろん私たち講師も、お子様や保護者のみなさまに関わり、学ばせていただく中で、自分を創造しつづけていきたいと思っています。

――今後の展望などあればお聞かせいただけますか?

桐畑さん:教室では数多くのお子様に関わってきました。また最近、孫ができてあらためて、ちょっとしたことが子育てをぐんと楽にするのだと感じています。これからもそういったことを情報発信して、広く育児のサポートを行っていきたいと思います。 「育児が楽しくて!」と目を輝かせながらおっしゃる方も多く、こんな保護者様がもっともっと増えるようにと心から願います。

――最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。

桐畑さん:私は、小さいころからみなの中心になるようなキャラクターではなく、今こうして教室を運営する姿を見て、母がびっくりするほどです。そんな私にとって、何より嬉しいのは、自分の教室でやりたいことを気兼ねなくできることです。経営の心配や責任など絶えず緊張感を持って仕事をしなければいけませんが、お客様の喜びや感謝も直接受け止めることができます。 幼児教育に関わる中で、「自分にとっての壁」がいく度も立ちはだかりましたが、常に「どうしたら越えられるか」と考えてきました。その中でできることを探し、集中し、努力し続ける。まさしく幼児期の成長の精神をつみ重ねてきた感覚ですね。そしてその起点が好奇心なのだと思います。何に興味があるのか、どんなことにこだわりたいのか。みなさんも自分の感覚を大切にしていただければ思います。