独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。

第7回は、大阪市鶴見区で「じんエアブラシアート教室」を運営されている、国際エアアート協会(R)代表理事でエアブラシアート専門家のたちばなじんさんにお話を伺いました。

  • たちばなじんさん

エアブラシアーティストから教室開講へ

――エアブラシ歴が長いそうですが、いつ頃初められたのでしょう。またお教室を開くに至られた経緯など、お聞かせいただけますでしょうか。

じんさん:初めてエアブラシに触れたのは15歳の時ですね、一気に魅力にはまってしまって。美術学校でデッサンなどを学びながら、実家の『オートボディショップたなか』でプロのエアブラシアーティストとして働き始めました。この段階ではまだお教室ではなく、一アーティストとしての活動ですね。

その後20歳で結婚してからは、車へのエアブラシペイントのかたわら、元夫が経営するデザイン会社の業務も手伝っていたのですが、31歳の時にメニエール病になり、耳鳴りとめまいがひどくなったのです。ちょうどカスタムカー(車へのペイント)の流行も終わりかけていた時期でもありましたので、エアブラシをやめて元夫のデザイン業務の手伝いだけ行っていました。

ところが、40歳で離婚したものですから自然の流れとして失業しまして(笑)。そこからはとにかく食べていくために、工場の流れ仕事をしたり、事務作業のパートに行ったり、ダイエットのサプリを販売したりしました。でもやっぱり自分の好きなことを仕事にしたいと思って、エアブラシアートの教室を開く決心に至ったのです

  • 1982年、じんさんが車に描いたライオンの絵

ホームページでの集客が好調だったものの……?

――なるほど、随分と紆余曲折があったのですね。お教室には生徒さんが自然と集まってきたのでしょうか。

じんさん:いえいえ、そんなことありませんよ。でもパソコンが好きで得意でしたので、すぐにホームページを作ってエアブラシアートとお教室の宣伝はやりました。

当時はまだホームページを持つ人も少なくて、「エアブラシ」というキーワードの検索結果では、だいたい一番目に表示されていました。そのおかげでアクセス数が多かったのは覚えています

――検索結果一位は凄いですね。

じんさん:はい、おかげで過去のカスタムカーの時代のお客様が偶然ホームページを見て何枚か絵のオーダーをしてくださったり、エアブラシを習いたいという新規の生徒さんが来て下さったりしました。

でも4時間のマンツーマンのレッスンが月に1回~2回ぐらいで、それではぜんぜん売り上げが足りずに、ずっと貯金を切り崩して生活していました。

さらにわずか数年でブログをホームページ代わりに使う方が爆発的に増えて、私のホームページやブログはライバル店に埋もれてしまうようになったのです

創意工夫と『ウサギとカメの話』でお教室を繁盛へ

――その後は何か生徒さんを集める工夫をされたのでしょうか。

じんさん:いろいろ努力しましたね、例えばレッスンの内容を少しずつ継続して習えるカリキュラムに変更したり、ブログの記事はお客さまが望んでいるような内容を増やしたり、濃いファンを作ることを意識しました。

――いろいろな工夫があって、今があるのですね。

じんさん:当時、起業塾にも通っていたのですが、とにかくじっとしていてはダメなので、学んだことを実践したり、自分なりにもあれこれ試行錯誤したりしました。実は私は何をするにも遅くて時間がかかんですよ。そんな時は、ウサギとカメの話を思い出して、『少しずつでも前進すればいいわ』と自分に言い聞かせましたね。その結果、今では、教室の物件を借り安定して運営することができるようになりました。

  • じんさんのエアブラシアート

エアブラシを生涯の生きがいに

――ここまでお教室を発展させてこられた原動力、やりがいなどあれば教えていただけますか?

じんさん:やっぱり受講生さんが「楽しい」と言って喜んでくださるのが何より嬉しいですね。中でも印象に残っているのが、「私は、絵を描きたいのに、描けない。絵に対してトラウマのように苦手意識があったのですが、ここに来て学んでみると、ただ自分は絵の描き方を知らなかっただけなんだ。知れば描けるんだ、今は描き方が分かって嬉しい」というご感想です。出来なかったことができる喜びは、大人になってからでも大事にしたいですよね。

  • 教室の様子

――それは感動的です! そういう意味では、人生のお役に立てるお仕事とも言えそうですね。では、最後に今後の展望と、読者さんへのメッセージがあればお聞かせいただけますでしょうか。

じんさん:人生100年時代と言われていますが、高齢になっても家の中で一人でできる趣味は大事だと思うのです。50代以上の方を対象に、一生の趣味としてエアブラシアートを楽しんでいただく、そのために長く続けて行きたいですね。

私は半ば成り行き(離婚など)で今の状況にありますが、自分の好きなことを仕事にできるって最高です。一攫千金を狙う人には向いていないかもしれませんが、マイペースで生きたい人には独立開業はお勧めです