独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。

第26回は、海のない奈良県奈良市でダイビングスクール「ヘッドスラップ」を経営、認定者数1,700名以上で県下No.1の実績を持つ川下禎巳(よしみ)さんに、その思いを伺いました。

  • 川下禎巳さん

思ったら即行動! 映画から刺激を受けてダイビングの世界へ

――そもそも、なぜ海のない奈良県でダイビングスクールを?

川下さん:そうなんです、私は生まれも育ちも奈良で、おっしゃるように奈良には海がありません。海なし県育ちの私がなぜ、ダイビングの仕事をしているのか、そのきっかけは20歳の時に観た映画です。その映画のダイビングシーンはとても鮮やかで、今までに見たことのない、とても美しく魅力的なものでした。その神秘的で魅力的な水中世界を見て、私はすぐに「ダイビングをしたい!」「Cカードを取得したい!」と思い、ダイビングショップに行ったのですが…、当時は、ダイビングのCカードを取得するのになんと15万円もかかったのです。

さすがに社会人1年目の私が15万円もする講習をすぐに受講することはできず、それから4年後の転職をきっかけに同僚と一緒に受講することになったのです。4年間悶々としながら待ち続けたダイビング、ついに受けられたダイビングの講習! ワクワクしていましたね。

――なんと、きっかけは映画だったのですね、それにしても思ってすぐ行動!というのが凄いです。ダイビングの講習を受ける段階ではまだスクール運営をお考えではなかったのですね。

川下さん:はい、ダイビングしたいという気持ちだけです。ただ私は、水中で上手に呼吸できなかったり、教えてもらうスキルが上手にこなすことができなかったりで、「あぁ……自分には無理かも」と思うことが何度もありました。

でも、初めて5mの深さのプールで呼吸をした時の、あの水中で「ボコ、ボコ」と聞こえる呼吸の音や、水底から見上げるとキラキラ輝いている水面を見て不安は吹き飛び、心がワクワクしたことを今でも覚えています。

初めて潜った和歌山の海は、映画のようなきれいで華やかな海ではなく、イメージとは全く違う海でした。それでも海中の風景やそこに生きる魚たち、青色や赤色、黄色の色とりどりの魚、アジやキビナゴの群れ、特に間近でみる体長1〜2cm程のクマノミを見た時は想像以上に感動的で、それまでの人生で経験したこともない感激を味わうことができました。そしてそれが、私の人生観を大きく変える出来事になったのです。

一緒に受講した同僚が、「そんなにダイビングが好きなら、インストラクターになればいいやん……」と言ってくれたんですね。その言葉を聞いた「30秒後」に、私の人生は変わりました。初めはなかなか上手に潜れなかったのですが、「インストラクターになれば、多くの人にこの感動を伝えらえる」。そう思った私は転職して間もない会社を辞め、インストラクターになる道、そして開業する道を選びました。

30秒で決めて、29年間継続

――美しい情景が目に浮かぶようです。川下さんは、即行動の方なのですね。そうして始まった海なし県でのダイビングスクール、開業まで大変だったことはありませんか?

川下さん:「30秒で決めた人生」ですので(笑)。「この道でやっていく」と伝えた時には、両親以外の親戚、友人、同僚ほぼ全ての人が反対をしました。もちろん、インストラクターになってから自分で開業できる保証も全くありません。だから、3年やってみてダメならこの仕事を辞めよう、と覚悟して始めました。

そんな状態でしたので、開店当初は本当に売り上げも上がらず、1~2年目の冬には本業のかたわら、アルバイトに行く日々で。でも3年目の冬には、なんとか本業で生活できるようになりました。とはいえ、この仕事を29年もやっていると、もちろん浮き沈みはあります。経営というものは本当に面白いもので、自分のとった行動でしか、結果は出ません。世間から見ると大変だと思われることはもちろん多くありますが、自分が好きで行っているものなので、大変だと思うことはないです。失敗したと思うのは、自分が行動しなかったときや、思いを形にできなかったときですね。

潜るだけじゃない、ダイビングの本当の魅力を伝えたい

――好きだからこそ大変だと感じない、とても響きます。開業されてから今にたどり着くまでの思い、やりがいなどあればお聞かせください。

川下さん:私は最初のCカードを取得して、わずか3ヶ月でインストラクター資格を取得しました。この最速でインストラクターになった経験が、その後のダイビング指導にも大いに役に立っています。多くのダイバーと一緒に海の世界でしか味わえない沢山の感動と感激を共有したい、だからこそ、皆さんを真剣にサポートし指導を行っています。また、全てのことが上手にできなかった経験がある私だからこそできることがあると思っています。

●不安がある人でも「最短・最速で一人前ダイバー」にする
●受講された方のライフスタイルや人生観が変わるように全力でサポートをする

それが私の使命だと思って日々活動しています。ダイビングはただ海に潜るだけのものではありません。なぜなら、そのとき手にするものは、きれいな水中世界だけじゃないからです。日ごろ悩んでいることがチッポケなものに感じたり、「こんなきれいな世界があるなら、明日もまた頑張ろう」と活力を得たり、掛け替えのない仲間との絆を育んだり……。きっと、自分の世界観が変わってしまうほどのインパクトを受けると思います。ダイビングの魅力に取りつかれて、私自身、気がつけばもう29年この仕事をしています。

ダイビングで、「川下さんの言うように、自分も人生観が変わった」「今までより楽しく毎日を過ごせるようになった」。そう言ってくださる仲間をもっと増やすこと。これが私のやりたい仕事なのです。

――ただ海中の景色を楽しむだけではないのですね、なんだか私も潜ってみたくなってきます。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

川下さん:自分が決断し、行動した瞬間から全ての変化が始まります。もし失敗というものがあるとすればそれは「行動せずあきらめたこと」です。あなたがやりたいと思った時点で、思いは形になっています。あとはあなたが行動し、それを現実のものにしてください。