独立・開業には勇気がいります。そして人それぞれの理由があります。もちろん稼ぐことを目的に開業する人もいるでしょう。しかし、それ以上に「思い」を持ってビジネスに取り組まれている人が大勢おられます。ここではそんな人々にスポットを当てて、独立・開業への思いや、新しい人生の価値観などを伺っていきます。

第24回は、コロナ禍を乗り越えて大阪市に飲食店「おいでやぁ」をオープンされた、小瀧宏美さんに、その思いを伺いました。

  • 小瀧宏美さん

振り返ってみると飲食店とともにあった人生

――昔から飲食店でのアルバイトが多かったとお聞きしました。

小瀧さん:はい、生まれが商店街の孫娘でして、お客様とのやりとりをすぐ間近で見ていて、「楽しい仕事だなぁ」と感じていました。学生時代はその影響もあってケーキ屋さん、パン屋さん、焼肉屋さん……数々の飲食店でアルバイトを経験しました。出産後に福祉の仕事を経験したことで、「ココロもカラダもあったまる食事は大人も子どもも満たされる!」という発見もしました。その後、大阪梅田駅前の地下の飲食店に7年半勤務し、ワンオペで全て任せていただきました。

――まさに飲食店とともにある人生ですね! 今回、ご自身で飲食店を開業されるに至った経緯をお聞かせください。

小瀧さん:両親は店が忙しかったので、平日の食事はもっぱら市場や商店街で買った出来たてのお惣菜や焼き魚で、週末のお昼はひいおばあちゃんが、粕汁や混ぜこみご飯などを作ってくれました。自分が料理をするようになって初めて、これが大変手間のかかることだったとわかりました。ときどき、塩コショウをガンガン振った荒っぽい味(笑)のオカズや、焦げた出汁巻きなどもありましたが、それも愛情たっぷりのご飯だったなと今になって感じています。美味しくて嬉しくて、あったかい気持ちになっていましたね。

そうした思い出も、今回の開業への気持ちを後押ししてくれたことは間違いないです。でも、「なんでわざわざこの時代に飲食店?」といろいろな人に言われました。ただ、私にはそれ以外考えられなくて。とにかく人が好きなんだと思います。「ありがとう! ごちそうさま!!」と言われることが本当に、一番嬉しいですね。自分の家の洗い物は大嫌いだけど(笑)、お客様の洗い物は来店くださった証、と嬉しくて、ニヤニヤしながら洗っています。変態ですよね(笑)。

開業前に勤めた店で、SNS集客でコロナ禍でも“行列ができる”店に

――それまでは、別の飲食店でお勤めされていたのですよね。コロナ禍でもあり、独立のタイミングは難しくありませんでしたか?

小瀧さん:はい、オフィス街のランチタイム店に、1人で7年半勤務しました。5年目で起業を決意しましたが、まさかのコロナ禍に突入で。どうすればいいのか、毎日不安な日々が続きました。それでも「お客様に恩返しすること」と、店の利益を元に戻すことを考えて、SNSを使った集客を頑張りました。結果、コロナ前以上にお客様も売上も増え、オープン30分前から行列・満席にすることができまして、本当に嬉しかったですね。お客様のお陰であることは間違いないのですが、「私の役目はここまで!」と、やり切った思いで退職を決意しました。

常連の皆さんから泣きながら「辞めんといて」と言われたときは、嬉しい半面、複雑な気持ちにもなりました。退職当日は転勤された元常連のお客様たちから大きな花束が届いたり、オープン前から行列、満席になったりで、まるで自分がアイドルなのか?と思うくらい沢山のお祝いでした(笑)。本当に嬉しい、新しい門出への出発となりました。

――素敵なお話です。すべてそのお店で頑張ってこられた証ですね。そうやってご自身のお店を持たれたわけですが、開業までにご苦労されたことなどありましたか?

小瀧さん:公庫の融資申請までの道のりが、思っていた以上に長く、苦しかったですね。私自身、パソコンをほぼ使えない中での資料作成でした。友人につきっきりで教えてもらいましたが、5時間を超える時もありまして。先行きが見えず頓挫しそうになりながらもようやく面談まで漕ぎ着けて、やっとの思いで申請が降りた時は涙が出ました。その時にお世話になった友人には本当に感謝しかありません。

その後、物件の契約からの店舗改装打ち合わせまでの道のりや着工までの長さに驚きだらけでした。それでも今すぐに動きたい気持ちと動けない時間に気持ちだけが先走り、協力してくれていた方々と幾度となく衝突もありました。みんな私のことを想ってくれてのお言葉なのですが、今思えば、それがきつく感じた時は自分の心に余裕がなかったのかもしれません。

失敗といえば、必要なものに対して購入すべきものへの判断です。例えば、シンクのサイズとご飯を炊くお釜のサイズが合わないとか(笑)……ぶっ飛んで計画的でないところがあって、我ながらびっくりです。

「おうちごはんの味」で、安全基地のようなお店に

――それでもここまでたどり着かれた、そのやり甲斐や思いなど、ぜひお聞かせください。

小瀧さん:やっぱりお客様に喜んでいただけることがやり甲斐ですね。初めは紹介で来てくださった方が「本当に美味しい」「昔食べたおうちご飯の味がする!」と、言って常連になってくださったことが最近では一番の喜びでした。

――今後の展望についてはいかがでしょうか?

小瀧さん:子ども食堂も開催したいしですし、ランチ会のイベントをしたり、近所の企業さんにお弁当を配達したり、また「美味しいから子供や家族に持って帰ってあげよう!」と思ってもらえるようなお店を作っていきたいですね。皆さんの安全基地になるようなお店に出来たらいいなと計画しています。

――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。

小瀧さん:今この記事を読んで下さっている方の中で、これからの道に迷ったり、進むべきタイミングを見計らっている方がいらっしゃったら……私に出来たのですからあなたにも出来ます!とお伝えしたいです。一緒にワクワクしましょう!