"就活生の「型」にハマるのが恥ずかしい"という思い違い

就職留年をすることに決めた2012年12月上旬、私がまず始めたことは企業研究とOB訪問でした。

思い返せば1年前の私はOB訪問や合同説明会、就活塾に通うことに対してあまり意欲的ではありませんでした。就活生としての「型」にはまることを恥ずかしいことだと思っていたのです。斜に構えることがかっこいいと思っていたとも言えます。いまだに厨二病を引きずっていたわけです。大学のキャリアセンターでOBの連絡先を片っ端から調べたり、説明会で手を上げて質問をしたり、塾で自己分析をしたり。そういうことに対して嫌悪感がありました。結果、だらだらと本を読んで何となく企業研究をした気になり、だらだらと友人と飲んでしゃべって何となく自己分析をした気になり、そうしている間に2011年の12月は終わってしまいました。

授業料を支払えず就活塾を諦める

しかし、就職留年すると決めたからにはそうも言ってられません。とにかく動かなければ! そう決めた私は、まず就活塾の見学に行ってみることにしました。塾に通っていた友人数名に話を聞き、いくつかある中でも評判の良い塾に見学の申し込みをしました。いざ行ってみると就活塾はかっこ悪いものでもうさんくさいものでもなく、偏見に満ち満ちていた去年の自分を恥じました。先生も親しみやすく、ここなら通ってみても良いかな…と思い、帰りに受付へ入学申し込みの説明を受けに行きました。受付のお姉さんはニコニコしながらパンフレットを取り出し、授業料の説明を始めました。

「半年間で○○ 円になりまして、これを払っていただければどの先生の授業でも聴講することができます」
「……あの~、もうちょっと安いプランはないんでしょうか……」
「そうですね、それではこちらのプランですと、○○円で受けられます。限られた授業しか聴講できなくなりますが…」
「(それでも高い!!!)」

私は「とりあえず検討します」とだけ言ってパンフレットを受け取って帰りました。しかし、心の中では塾に通うという選択肢はなくなっていました。2012年12月の私は、就活塾の授業料も払えないくらい貧乏 だったのです。

お察しの通り、その理由とはズバリアイドルにお金を使っていたからでした。当時、帝国劇場でHey! Say! JUMP、A.B.C-Z、Sexy Zoneが出演する舞台「Johnny's world」が公演されており、Hey! Say! JUMPとSexy Zoneファンの私は毎週のように舞台を観に行っていました。金がないなら行くのを止めろよと言われそうですが、卒論を提出し終わった開放感が私を帝国劇場に駆り立てました。それに、ジャニーズの舞台は毎回必ず映像化されるとは限りません。もし映像化されないのならば、もうこの目に焼き付けておくしかないじゃない!!! と、一時期はほぼ毎週のように帝国劇場に通いつめていました。結局、この舞台には全部で10回ほど行きました。チケット代の合計金額は、就活塾の授業料と同じくらいでした…。

OB訪問で「アイドルヲタをアピールしろ」と言われる

塾に通うお金はない、ならば次はOB訪問だ! そう思った私はアイドルの舞台に通いながら訪問先を探すことにしました。マスコミから内定をもらった友人やマスコミで働いているサークルの先輩から始めて、紹介に紹介を重ね、結果様々な出版社の社員さんからお話を聞くことができました。中には「就職先が決まるまでうちでアルバイトをしていいよ」と言ってくださる方もいて、本当に恵まれていたと思います。

ある日、いつものように紹介していただいたとある会社の編集者さんとお酒を飲んでいたときに(余談ですが、他の業界はどうなのか知りませんがマスコミ関係者へのOB訪問はほぼ100%居酒屋で行われました)「自分のアピールポイントはどこだと思う?」と訊(たず)ねられました。それまで私はエントリーシートの自己PR欄で「好奇心旺盛です!」などといういかにもつまらない回答をしていたので、そのように伝えると、その編集者さんは「それは弱すぎるね」と一言。ですよね~と思いつつ、でもじゃあ私の1番のアピールポイントってどこだろう…と悩み、話を続けること数十分。何かの拍子に、ポロっと「そういえば私アイドルヲタなんですよ」と話したところ、編集者さんは「それいいじゃん! アピールポイントじゃん!」とおっしゃいました。

「えっ、アイドルヲタをアピールしてもいいんですか? あまり就活と関係ない気がするんですけど…」
「でも『好奇心旺盛です』なんていうより絶対面接官に覚えてもらえるよ。今までどんなアイドルのファンになったの?」

そう訊かれたので、私は今までに好きになったアイドルの名前を挙げていきました。ジャニーズ系は元より、モーニング娘。、AKB48、ももいろクローバー。高校3年生のときにグラビアアイドルの磯山さやかさんや寺田有希さんにハマってグラビアの切り抜きを集めていたこともありました。

「ほんとに色んなアイドルが好きなんだね」
「はい、DD(誰でも大好き)なんです」
「面白いと思うよ。ジャニーズが好きって女子大生はたくさんいても、そこから更に女子アイドルやグラビアアイドルにも詳しいですっていう子なんてすごく少数でしょ。エントリーシートに書いた方がいいよ」

それは目から鱗(うろこ)の提案でした。それまでの私は、マスコミ関係の仕事に就きたいのにアイドルが好きなんて言ったらミーハーだとか軽薄だとか思われるかもしれないと 、アイドルの話題を一切エントリーシートに書いていませんでした。しかし、その結果私のエントリーシートは無個性で面白みのないものになってしまっていたのです。

また、別の出版社の社員さんにOB訪問をしたときには、「僕はエントリーシートの"自分をよく表す写真を貼ってください"という欄に虎のキグルミを着た写真を貼ったよ、阪神ファンだから。そしたら人事から『ああ、あの虎の子ね~』と言われたことがある」とも言われました。この話を聞いて、私は確信しました。「エントリーシートは目立ったもん勝ちだ! だったら私は『アイドルヲタ』で目立つしかない!!」

私の就職活動に、これから行く道を照らす光が差してきたような気がしました。


<著者プロフィール>
ぽんず
都内の私立大学文学部に通い始めて5年目。一浪・一留・ジャニヲタという女として崖っぷちスペックの女子大生。中学生の時にデビューしたてのNEWSに一目惚れして以来、アイドルヲタ歴は約10年。現在はジャニーズ全般、また女子アイドルや若手俳優の現場にも年平均50~60回足を運ぶ。熱しやすく冷めやすく思い込みの激しい牡羊座のO型。

(イラスト:womi)