ミステリアスかつショッキングな展開で話題騒然の鬱アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』。Kalafina(カラフィナ)が歌うエンディング曲『Magia』(マギア)は、幼児が聴いたら夜泣きしそうな黒魔術的ゴシック・サウンドで、このアニメの異様な世界観を見事に決定づけている。彼女たちの呪術めいたコーラスが各話の最後に流れるたびに、憑かれたように「まどマギ」の世界から抜け出せなくなってしまう。

KalafinaのWakana Hikaru、Keiko(左から) 拡大画像を見る

KalafinaはWakana、Keiko、Hikaruという美女3名から成るボーカルユニットで、そのプロフィールに関してはまだ謎が多く、これまでアニメやゲームのテーマ曲を中心に発表している。プロデューサーである梶浦由記が作り出す楽曲は、欧州のシンフォメタルのように複雑で壮大なナンバーから、いかにもアニメソングといった感じの親しみやすいポップ・ソング、そして今回の『Magia』(発売中 1,575円)のような異色作まで幅広い。しかしすべての曲に共通するのが、見事なまでのハーモニーを奏でるコーラスワークだ。

バイオリンの音色にも似た三人の美声が、緻密に構築された三つのメロディーを抜群の歌唱力で完璧に辿り、ひとつに溶け合う。この快楽は他のJ-POPや女性アイドル・ソングでは絶対に味わえない。声を楽器のように用いた先人であるコクトー・ツインズやオフラ・ハザを初めて聴いた時の感動にも近い。

アニメを経由して海外で紹介される機会が多いためか、動画共有サイトにアップロードされた彼女たちの動画にはさまざまな国の言語で数多くのコメントが寄せられている。日本より海外でのほうが評価が高いのでは? と思えるほどだ。

アイドル集団によるユニゾン歌唱と機械処理された匿名歌唱が人気を集める時代にあって、Kalafinaのプリミティブな肉声による繊細なハーモニーは貴重であり、まるで巫女の祝詞のような神聖さすら感じさせる。古今東西で最も近い存在を挙げるなら、映画『モスラ』(1961年)でザ・ピーナッツが演じた小美人ということになるだろう。アニメ・ファンの枠を超えてもっと広く知られてもいい存在だ。

真実一郎

サラリーマン、ブロガー。『SPA!』(扶桑社刊)、『モバイルブロス』(東京ニュース通信社)などで世相を分析するコラムを連載。アイドルに関しても造詣が深く、リア・ディゾンに「グラビア界の黒船」というキャッチコピーを与えたことでも知られる。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(洋泉社刊)がある。ブログ「インサイター