「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第55回のテーマは「差違を不快に感じない理由?」です。

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「さるころって、他人に期待してないよね。だからあんまり怒らないよね」という話をパートナーにされます。もちろん、パートナーの私に対する「過失」的なやらかしにはブリブリ怒るんですけど、そうでない日常の「他者との差違」にはあまりイライラしません。

パートナーは昔は、とにかく他者にイライラするタイプでした。知り合いのメールの返信が遅いとか、電車内で全然知らない人の立ち振る舞いとか、「自分だったらやらない」ことをやってる人を見るとイライラしちゃうタイプ。私はそういうことにはあんまりイライラしないので、一緒にいるうちにパートナーもだんだん「アレ、どうしてイライラしてるんだっけ」と思うようになり、イライラしなくなったという過程があります。

赤の他人でなくて家族だと、より「差違にイライラ」しがちではありませんか?

「察してほしい」とか「どうして見ててわからないかな?」とか「普通はこうでしょ」とかって、「自分と違う」ことへの苛立ちのような気がするんですよね。そして、言わなくてもわかってほしいのは、より「自分と同じであってほしい」という願望のような気がするんです。

その昔、付き合っていた男性が自分のやっている活動を手伝ってほしいという人でした。私は最初のうちは「楽しいからいいや」と手伝っていたのですが、だんだんそのうち「やって当たり前」という感じになり、気が付いたら、お金ももらってないのに「彼のところへ行かない」ことが許可制になっていました。つまり、他のことをするのに彼の許可が必要になっていたんですよね。あれ??? 私、あなたの一部じゃないですよ!? この「気が付いたら他人の一部に取り込まれている」という体験は、私にとって非常に大きなトラウマになりました。

恋愛の醍醐味は、自分と好きな相手との境界線が曖昧になるような一体感ではないか……。わかり合ったり、分かち合ったりする喜びだ……と思っていたのですが、どこまでいっても「同じ人間」には絶対なれないわけで、相手が自分の意志をないがしろにしながら、まるでPCの周辺機器の一部みたいに使うことなんか絶対できないし、私はそういう関係は望んでない……とよくわかりました。

相手の一部になりたくない。私は私。あなたはあなた、と気をつけて、自分の意見を大事にしながら別の人とお付き合いしていました。しかし、今度は相手が「君の言う通りにするよ」とすべての選択や判断を私に依存するようになってしまい……これも結局、同じく「自分」の境界線の中に私を取り込んで、私の判断や選択をまるっと持っていかれてるのでは? と感じて苦痛になり「これを続けるのは無理! 」とお別れしました。

しかし、私がそれと同じようなことを相手にやってないか、と考えるとやってたんですよね。私自身も、パートナーの立ち振る舞いに対して勝手に必要以上の「責任」を感じたりするタイプだったのです。相手の仕事や責任、日常生活が「ちゃんとしてなかったら私のせい」と思っていたんです。そして口出しもしていた。でも、それも相手のことを「自分の一部」だと思ってるからですよね。私は口出しされたくないのに、私はしてしまった。

相手がしっかりしてなかったら、全部自分がその尻ぬぐいをしないといけないと思い込んで「これはこうやって」と言っていたんです。そして相手も自分もどんどん苦しくなりました。どうしてこんなに苦しいのか……と考えたら、やっぱり「自分」の境界線の設定を間違えていたからだと気が付いたのです。

私は、相手が失敗したら相手が責任を取って、その本人が後始末をするべきだと考えを改めました。そして、私は「相手はそれができるだけの人間だ」と信頼するべきだったと思い直したのです。

親しい、信頼できる人間とわかり合いたい。だけど、相手と自分の線をちゃんと引いて、勝手に自分の延長だと思って扱ったりしたくないし、そう扱われたくもない。私は自分が快適に暮らすために「自分を拡張する」ことを一切やめました。パートナーが「さるころは他人に期待してない」と言うのは、私が「自分を拡張するのをやめた」からだと思います。自分の価値観、自分の好き嫌い、自分の判断基準、それを他の人に当てはめるのをやめたのです。その結果、誰が何しても怒りがわいたりイライラしにくくなったのだと思います。

私が今、お財布も別で法律的には結婚をせずに「事実婚」を選んだのも「線引き」をちゃんとしてないと、関係をしっかり保てないからです。自分を拡張して、イライラしたり相手の仕事や選択に口出しをしたりしてしまう。

いつか、法律的に結婚したり、姓を同じにしたり、お財布を一緒にしても「相手と自分のちょうどいい境界線のバランス」が取れるようになるかもしれません。うちの両親は法律婚しててお財布も一緒ですが、とてもよいバランスを取っています。自分も経験次第で価値観が変わったりして、そういう結婚生活をしてもストレスじゃなくなるのかもしれないな……と思いつつ、別に「親と同じように幸せに」なる必要もないとも思います。自分の性格を受け入れて、無理せず一番自分に合っている生活をしたいです。

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著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。