「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第40回のテーマは「ルールがあるからって穏やかとは限らない」です。

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  • ケンカの仕方も夫婦それぞれ

最近、夫婦のコミュニケーションで新しい気づきがありました。

我が家では、不満を伝えるルールに「ダメ出しではなくて、要望を伝える」「感情的にならない」というものがあります。

ある時、なんだか納得のいかない出来事があり「あれがイヤだった」と伝えたかったのですが、怒って言うのではなく「怒りは悲しみがベースにある」ということを前提に「イヤなことを言われて、悲しかった」ということを伝えてみたのです。

ところがなんと……! 我がパートナーは、「悲しい」と訴えられると意地になってはねつける、ということが発覚。穏やかな話し合いを希望してのアプローチは失敗に終わり、さらに感じ悪く返されたことで、夫婦の戦いが勃発しました……。

どうやら、彼は「無茶苦茶怒られる」ほうが「自分が悪いことしたのかな」というのが、伝わるっぽいんですね。本人いわく「なよなよされると、ムカつく」とのこと。な、なんだってー!?

以前から「気の弱い人は苦手」「気の弱い女性と付き合ったり、恋愛関係になったりしたことがない」と言っていたのですが、その謎が解けました! 「そんなのヒドイ」と泣かれたり、「悲しい」みたいなアプローチをされたりすると、なぜか彼は反省を促されるところか「はあ? 知らねえ」と反発してしまうらしいのです。

「おい! どういうつもりだこの野郎」くらいのアプローチのほうが、素直に話が聞けるのだとか。

なるほど~。パートナーの元妻は剣道の有段者だったらしく、私も空手弐段なので、「この人、有段者が好きなのか?」と思っていましたが、「ちゃんと反撃してくる人」が好きみたいです。そういえば、私のどこが好きなのか以前聞いたら「空手が強いところ」って言われました……。

ちなみに、今はパートナーが空手初段で私が弐段(上段位)ですが、マンガに組み手が描いてあるのはもちろん比喩表現です。実際には物理攻撃では戦いません。

戦わせるのは「論」なんですが、私は記憶力がよく論の組み立ても早いので、口でのケンカもそれなりに強いです。言いたいことを言わないということができず、相手が男性であれ年上であれ、「本当は言いたいのに、怖くて言えない」とかそういうことがほぼないタイプです。

世間一般には女性はおとなしく、控えめで慎ましいほうが"良し"とされていると思うのですが、私は男尊女卑を振りかざす偉そうな男性や、「強気でいけば、無理が通るかな」と理不尽なことを言う仕事相手などに対しても徹底して戦うタイプ。でもそういう人のほうが好きっていう男性も世の中には意外といるんですよね……。

私は自分に対しての加害、悪意、過失へのカウンターが強いタイプです。なので、無自覚に攻撃的になるタイプの人だと、私みたいな「ちゃんと怒ってくる」人がいいのかもしれません。

そもそも、自分の気分次第で不機嫌になったりイヤミを言ったりしちゃう人に対して、「不機嫌になるな」とか「イヤミ言うな」とか言えるタイプの人じゃなかったら、仲良くなることさえできないですしね。

こういうパートナーのネガティブな話をすると、「なんでそんな人と結婚したの?」と言われるわけですが、悪癖は彼の何割かであって、根本的には面白くて頼りになるのです。私は彼の悪癖に対処できるわけで、それは相性なんだろうなあと思います。

私は夫婦の話をたくさん書いてますが、あくまでも「自分達の夫婦」の話でしかありません。今回、パートナーの「怒られたほうがいい」みたいなことに気が付くと「人って、夫婦って、ほんとそれぞれだなあ」と思うのです。

私がほかの誰かの過失や悪意に対して「おい、おまえふざけんなよ」と強く怒ったら、もちろん「わ~、怖い女とか超無理」と言われる可能性も大いにあるわけです(……実際に体験してます)。

とはいえ、冒頭のように怒らず、感情的にならずに「感情の話」をしたいのは、私が基本的には「怒りたくない」からです。できれば怒らず、心穏やかにいたいと思っています。でも、怒るのって自分を守るのに必要だったりもするんですよね。

いつも怒っていたり、やたらと感情を爆発させて人を傷つけたりしていると、人との関係が壊れてしまいますが、怒らないで言うべきことも言えなかったりすると、自分の権利が侵害されたり、困ったことになったりもしてしまいます。

「怒り」は武器のようなものだなあと思います。うまく使えないと相手を不用意に傷つけ、自分も傷つけてしまう。かといって、武器を使わないと不当に扱われても自分を守れない。

どんな武器でも練習しないとうまく使えないのに、社会で誰もちゃんと「上手な使い方」を教えてもらってないなと思います。せめてパートナー同士はお互いの武器の特性を知って、うまく扱えるように練習したらいいんじゃないかなと思って、我が家では夫婦の話し合いのアプローチを日々研究しています。

今回の教訓として、我が家では「穏やかなアプローチ」を目指すよりも、的確にさっさと怒るほうがいいかもしれないとわかったので、次はそうしてみます。

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著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。