「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第231回のテーマは「これは甘やかし? それとも人を頼る練習? 」です。

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私は在宅で仕事をしています。締め切りはあれど、打ち合わせなどがない限り明確に時間が決まっていることはありません。通勤も出勤もないので、子どもに朝「一緒に学校行って」と言われれば、明確に断る理由がない状況です。

こういう時、実は結構悩みます。会社に出勤しなければならないとか、他の子どもの世話があるとか、そういう理由があれば「もう自分でできることはしてね」と言うしかない。でも、私は別にできないわけじゃない。だったらある程度はやってあげてもいいんじゃないかな……? と思うのです。

パートナーは「他の子はみんな自分でやってるよ」と私に言うので、一応は息子に「他の子はみんな自分でやってるよ」と私も言うのですが、息子は「いいの」と気にしない様子。そして実は私の中でもそれが断る理由にはなりません。お願いされて、別にできない理由がないのでやってあげればいいかな……と思ってしまうからです。

私は常々、息子に「やってほしいことがあればきちんとお願いして」と言ってきました。「なんで○○してくれないの! 」と怒らないとか、お茶がほしいときに「お茶」とだけ言わないとか、常に丁寧にお願いするんだよと言って聞かせてきました。そこで丁寧に「今日は荷物が多くて大変だから一緒に学校行ってほしい」と頼まれたら、断れないなあ……となってしまうのでした。

何かを誰かに頼むという行為は、実は私が一番苦手としている行為でした。私は4人姉弟の末っ子で、世代的にも基本的には「なんでも自分でやりなさい」と言われて育ちました。そのおかげか、自立心のある人間になったとは思うのですが、大人になってから「人を頼る」とか「何かを頼む」ということがすごく苦手になっていたということに気が付きました。

そもそも自分が人に何かを「してもらえる」という期待もほとんどなくて、なんでも「自分でやればいい」と思っていたのです。ですが初婚で、「何もかもやらなければいけない生活」に疲れ果てて、結局離婚したときに「自分がなんでもやればいいというのは高慢だな」と気がついたのです。

ちゃんと人に頼ったり、何かをお願いしたりする訓練をしてこなかった。そして一人で頑張ることに限界を感じてしまったのです。だから、私は「抱え込まずに、人を頼る」ということを、離婚後、33歳を過ぎてから意識して練習することになりました。

親にそういう意図があったとは思わないのですが、「自分でなんでもやりなさい」と言われて育つ過程で「私は人に何かを頼んでいい存在ではないのだ」と思い込んでしまったんですね。つまり、自己肯定感がとても低かったのです。

この「思い込み」は私の人生にあまりいい影響を及ぼしませんでした。人間関係を円滑にするには、人を頼ることも必要だったからです。人を頼るのに一番大事なことは、相手との信頼関係を作ること。「誰も頼らない」ということは、ある意味「誰も信頼しない、信じない」ということでもありました。

誰も信じてないのに、相手から信頼されたいというのは難しい話です。私が人との関係でいいバランスが取れない原因はそういうところにもあったと、離婚のときにすごく反省しました。

そういう体験から、まず息子には「自分は人に何かを頼んでもいい存在なのだ」という基本のところをわかってもらいたい。親との関係でいえば、息子は私を信頼し期待していい。それに私は応えることができるし、親子としての信頼関係を作りたい。そう考えると、どこかで「ちょっと甘やかし過ぎなのかなあ」と思ったとしても、息子の要望には応えられる限りは応えてあげたいと思うのです。

もちろん、叶えられない過剰な要望はダメですし、お願いの仕方も「丁寧に」とは口を酸っぱくして言っています。私が子どものころは特に「子どものわがままを聞いてはならない」というような雰囲気が育児や教育の中にあったように思います。でも「こうしたい」という希望や要望の全てが「わがまま」なわけではありません。

息子がまず自分の気持ちを尊重して、自分に嘘をつかず、その上で他者を尊重して信頼関係を築けるようになってほしい。私がしたような遠回りをしないでくれたらいいなと思って、息子のお願いは聞くようにしています。

新刊『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい! 』

(幻冬舎刊/1,100円)
12月7日発売。家事分担や育児にまつわる諸問題を話し合って解決してきた著者・水谷さるころ&事実婚パートナーのノダD。しかし子どもが大きくなって、しかもコロナ禍に突入したことで、夫・ノダDの「不機嫌&キレ問題」が再燃焼! 「これは家族だけでは解決できない! 」と決意して家族でカウンセリングに通い、改善していった実録コミックエッセイ。担当カウンセラー・山脇由貴子先生のコラムも収録。くわしくはコチラ

著書『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』

(幻冬舎/1,100円)
全編書き下ろしエッセイマンガ!
バツイチ同士の事実婚夫婦にめでたく子ども誕生! ここから「家事と育児をどうフェアにシェアしていくか」を描いたコミックエッセイです。家事分担の具体的な方法から、揉めごとあるある、男の高下駄問題、育児はどうしても母親に負担がいってしまうのか、夫のキレにどう対処する? などなど、夫婦関係をぶつかりつつもアップデートしてきた様子を赤裸々に描きます。くわしくはコチラ

著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。