「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第123回のテーマは「私は私だけど相手から影響を受けるのもいい」です。
私は、夫婦の自他境界があいまいになるのが怖いタイプです。第84回「家族や親しい人との関係がうまくいかないとき」でも境界線の話を書いたのですが、それは初婚のときにあまりにも「結婚したのだから、相手のことは自分の責任」と思いすぎてしまい、どんどん相手の問題を自分の責任として背負い込んでしまって、勝手に苦しくなったことの反省です。
そんなわけで、今の結婚生活では境界線を大事にしていて、お財布は別、共有財産を持たない、別姓婚……という事実婚をしています。とくに「察してチャン禁止」というルールは厳密で、「相手は別の人間なんだから、絶対に言わないとわからない」「気持ちは伝えないとわからない」という運用です。どんなに長く一緒にいても、本当のところは言わないとわからない……というのが、我々離婚経験者の反省なので、我が家では話し合いをすることにしています。
ただ、「そこまで割り切って生活するのって寂しい」「言わなくてもわかってほしい」派の人もいるんですよね。言わないことがお互いに合ってるなら、言わなくてもいいと思うのです。「言わない」「察する」ことでうまくいく人もいると思います。ただ……我々は言わなければ齟齬が多いし、それで問題になることが多いので、話し合いとはっきりした境界線が必要なのです。
また、我々が境界線を明確にしたのは、寂しがりで一緒になにかしたいタイプだから、という理由もあります。世の中には、趣味も違って、旅行や娯楽を夫婦や家族で一緒にしないタイプの人もいますよね。しかし我が家は、わりといろいろなことを一緒にやります。家事、育児、レジャー、趣味、たまに仕事も。お互い自宅が仕事場だし。つまり、一般的な家庭よりも一緒に過ごす時間が多いほうです。だからこそ「きちんとしたお互いの境界線」が必要なんだと思います。
しかしそんなふうに境界線をはっきりさせて、お互いの領域を尊重する。それを心がけてやっていても、お互いに影響を受け合うところはたくさん出てきます。なので「境界線を明確にして、お互いの自意識を区別する」というと、なんだか距離があるように感じる人もいるようなのですが、実は全然そんなことはないのです。
私もパートナーも離婚を経験しているので、基本的には「相手を変えることはできない」ということを知っています。でも、相手に合わせて変わることもたくさんあるんですよね。
たとえばパートナーは、あまり先のことを心配しません。「確定要素の薄いことを心配してもしょうがないから」という考えです。一方で、私はわりとすぐいろいろと心配になってしまって、「○○になったらどうしよう」とリスクを回避したいと思ってしまいます。
でも、ずっとそういう考えのパートナーといると、「あれ? どうして私はこんなにまだ確定してもいないことを不安に思っているんだっけ」と思うようになりました。たしかに、困りごとは確定しないと問題を解決することはできないし、本当に困ったときにちゃんと問題を解決すればいい。パートナーに影響を受けて、そんなふうに考え方が変わりました。もちろん、不安になるとくよくよしちゃうんですが、そういうときはパートナーに話を聞いてもらって、彼の考え方を聞くと「そうだ、むやみに不安になってもしょうがないんだった」と思うことができます。
そうやって「その考え方はいいな」と思って変わることもあるんですね。もちろん、私がパートナーに対して「それはやめて」とか「その考え方はおかしい」と訴え続けて変わってくれたようなこともたくさんあります。「自分以外の人間を変えることはできない」という経験もありつつ、一緒に暮らす相手に合わせて変わることはたくさんあるんだなあ……というのが実感です。
パートナーは、周りからも「再婚してから変わった」と言われています。考え方やコミュニケーションの仕方についてたくさん話し合い、お互いが快適に暮らせるために、傷つけ合わないようにした結果の変化だと思います。でも姓も財布も同じにせず、お互いが独立した人間だと境界線を意識し続けた関係のほうが、結果的に変化があったというのは面白いなと思っています。
以前の私は「相手を変えることはできない」と思って、ありのままの相手を受け入れることが愛情だと思っていました。その相手を選んだ責任は自分にあるのだから、相手を受け入れるのは自分の役目だと思っていたのです。でもそういった考えが、自分と相手との境界線をあいまいにして、「同じ価値観じゃないこと」「問題があっても変わらないこと」にストレスを感じていたように思います。
一緒にいる相手は「変わらないもの」でもないし、「変わってくれて当たり前」の存在でもない。一緒にいて快適ならどんな形の関係でもいいと思うのですが、私は相手に影響を受けて自分が変わるのも、相手が自分の話を聞いて変わってくれるのもすごく幸せなことだと感じています。
最近は、私の趣味である古墳にたくさん行ってたら、パートナーも古墳の好みが出てきて一緒に楽しんだり、私がパートナーの趣味であるダムに連れて行かれてダムの良さを知ったり……ということもあります。私は、お互いに影響を受け合うのは誰かと一緒にいる最大の面白さだと思っています。
そうは言っても、相変わらずケンカもしますし、何度言っても変わらないところもあります。それでもお互いが一緒にいるためにはどうしたらいいのか、と考えるのをやめなければ、納得する答えを見つけることができるのではないかと思いますし、その気持ちがある限りは一緒にいられるのかなと思っています。
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著者プロフィール:水谷さるころ
女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。