「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第121回のテーマは「覆水盆に返らずとはいいますものの」です。

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「覆水盆に返らず」って、いろんな場面に当てはまることわざだと思うんですが、これはもともと「一度離婚した夫婦は元に戻れない」という意味のことわざなんですよね。

由来は中国の故事で、古代中国の軍師・呂尚が、結婚したときに本ばかり読んでいたので妻に離婚されてしまったのだけど、その後出世すると元妻がやってきて「復縁したい」と言う。すると呂尚は盆の水をこぼして「この水のを盆に戻してみよ」と言い「このように元に戻ることはできない」と断った、という話が元になっているそうです。

で、私の場合ですが「盆に入った水」は「信頼」だと思っています。夫婦だけじゃなくて、人と人の間には信頼を溜めるための盆があって、それをひっくり返すようなことをしたら当然信頼はなくなりますよね。

自分も若いときからよく、無神経に盆をひっくり返しては信頼を失い「あれ、今のは何が悪かったんだろう」って思うこともありました。だからこそ、人との関係は丁寧に扱わなければならない、と思っています。

夫婦間ではこの「盆」はとくに重要です。なにせ、赤の他人が家族になるわけですから、お互いの信頼をキープし続けなければ家族は破綻します。私は深刻な夫婦ケンカをすると、その「盆」がひっくり返ってしまい、中の「水=信頼」が失われると感じます。

ちなみに、私にとっての「盆がひっくり返るレベルの事態」というのは、相手が怒鳴るとか怒鳴らなくても「怒鳴るぞ」と脅すなどの行為に出たときです。フィジカルでは勝てない相手が、力にモノを言わせようという行為が見えると、今まで積み上げた信頼がゼロになります。

こうなると、私の場合わかりやすく相手と同じ空間にいることが不安になります。そもそも、男女の場合男性よりも女性のほうがフィジカルが弱いことが多いので、「信頼できない相手と同じ家で暮らす」ということはストレスになります。

信頼がないというのは不安警戒心を持つことであり、それが「生理的嫌悪感」として現れることが多いです。なので、盆がひっくり返るようなケンカの後は、パートナーに近寄れなくなるし、触れなくなります。パートナー側はこういうことはあまりないようで、私の態度の変化には気が付きつつ、どうしたらいいかわからなくなるようです。

我が家の場合はケンカをしてそのまま、ということはありません。何があっても話し合いをして、お互いが納得のいく答えを出すようにしています。それは「ひっくり返った盆」を元に戻す行為だと思います。でも、それだけでは盆の中の水(信頼)は元には戻らないんですよね……。

私は、盆がひっくり返っても、できれば関係を修復したいし持続させたいという気持ちがある、というときは、まだ「盆が割れてない」という状態だと思うのです。かといって、盆は割れてないものの、ひっくり返った状態から元の状態に戻ったところで、中身の信頼がすぐ元に戻るわけじゃないんです。パートナーは「盆は元に戻した(話し合いはちゃんとして決着した)のに、なんで元に戻らないの? 」と感じているようですが、やっぱり「覆水盆に返らず」なのです。

なので、私の場合は「先日のケンカにより、私の盆には水がありません」という状態をお知らせします。その後はもう、また1から信頼を積み上げる生活をするしかないと思っています。

友達にも「どうやって元に戻れるの? 」と聞かれましたが、例えばパートナーに対して「不機嫌で人をコントロールするのをやめて」という話でケンカをして、話し合いをしたときのことです。話し合いのあと、パートナーが普段だったらイライラしそうな状態になってもイライラしないで過ごすことができました。その時私はすごく嬉しかったし、感動しました。私が言ったことがちゃんと理解されていて、行動が改善できているというのは、ケンカした甲斐があったと思うしこの人を信じてよかったなと思えます。

そうすると、私とパートナーの間にある「盆」に信頼が満ちて行く気がするのです。こういうことを積み重ねて信頼が回復すると、パートナーに対しての生理的嫌悪感は消えます。そして、また穏やかにに暮らせるようになります。

人と人との間に信頼は必要ですが、男女の間の信頼はさらに大事で、親しくなっても信頼が失われれば、近寄れないし触れなくなるようなことは、私に限らずあると思います。フィジカルが強いほうは身の安全を脅かされるケースが少ないので、そういう問題が見えにくいんだなとパートナーと話していても感じます。

関係がうまくいかないときは、パートナーとの間の「盆」はどうなっているのか、「盆」の中の水(信頼)はどれくらいあるのかを見極めないといけないなと思うのです。ただ、私から見る「盆の水」は私からしか見えなくて、パートナーの盆の水がどうなっているかはわからない。だからやっぱり日々話し合って齟齬を埋めて、楽しいことを共有したり、問題を解決したりして、盆が割れないようにメンテナンスし、中の水がこぼれたら溜め直していかないといけない。

もちろん、最初から一度も盆がひっくり返らないような夫婦やカップルもいると思うんですけど……! 我が家の場合はどうにかこうにか盆を割らないようにして、そして水(信頼)をキープし続けられるようにしたいと思っているし、今現在はそれが維持できていることがありがたいなと思っています。

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著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。